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クズは奴隷を買いに行く

 この世界にはいくつもの国があり、数多の人種がある。人族、エルフ、ドワーフ、龍族、魔族、それに獣族。獣族は人族、エルフ、ドワーフ、龍族、魔族以外の人種をまとめたものであり、細かく分けるとかなりの数になる。


そして今俺がいる国の名前はルースドル王国。

 ルースドル王国はこの世界では人族主義国家である。俺も人族でありこの国いるほとんどが人族である。


 どうしてこんな話を持ち出しかというと奴隷のほとんどが多種族だからだ。

 どの種族にも特性があり、どれか一つの種族を選ぶとなる骨が折れる。


 俺の予算は金貨五百、奴隷を買おうとしたら一人しか無理だ。金貨の価値は現世言うと一万ぐらいであり、その他に銀貨、銅貨とある。銀貨は千円、銅貨は百円といったところだ。


 この年で生活費とは別に貯めるお金にしては結構な額だ。だからしっかりと腹に抱えて盗まれることがないようにしないといけない。


 この町は王都の近くだからそこまで治安が悪い訳ではないが、用心にこしたことはない。

 俺は奴隷商の看板の前で緊張していた。ここでいいんだよな。


 周りを見渡すと高級そうな服を着ている連中ばかりで、俺が少し浮いている。

 それもそのはずでここは貴族街で、俺みたいな庶民が来る場所ではないのだ。


 奴隷商は他の場所にも当然ある。だがこの町で一番、奴隷が揃っているのはここにある奴隷商なのだ。

 どうしてここを選択したかというと、ここは国が経営している奴隷商で、ここには犯罪奴隷を売っているからである。


 俺だって犯罪者を奴隷にしたくはない。犯罪奴隷が主人の寝首を掻く事件が多発している。主人が生きている限り縛られることになるからだろう。奴隷は主人の言うことを断ることはできない。ただしそれは言葉によって行動を制限するからだ。これをするなと言うことは出来るがそれは断続的ものであり、永続的なものではない。言霊は主人が寝るとリセットされる。もし俺が俺を殺すなといっても、俺が寝るとその言霊はなくなりリセットされる。


 奴隷よりも早く寝ると殺される可能性があると言うことだ。なら普通の奴隷はどうして主を殺し自由を得ようとしないのか。それは親族に迷惑がかかることや、第一逃げ切ることが不可能だからだ。でも犯罪奴隷のほとんどが裏でパイプを持っていて、主人の枷さえ外すことが出来れば逃げ切ることができる。だから主人を殺そうとするのだ。


 そんなリスクを犯してまで犯罪奴隷を買う理由。それは犯罪奴隷は安いからだ。

 奴隷を買うには金貨五百では少ない。これではあまり優秀な奴隷を買うことはできない。

 だが高級な奴隷を買うために金を稼いでいては俺の青春は過ぎ去ってしまうだろう。


 それならリスクを背負ってでもかける価値はあると判断した。

 第一今回の人生もほとんど詰んでいるもいいところなのだから。生き地獄ぐらいなら死んでしまう方がいいだろう。それに俺は寝首を掻かれるつもりはない。


 俺には秘策があるのだ。それは誓いリングというマジックアイテムだ。しかしこれは誰も使おうとはしない。


 現世でいう結婚指輪のものだが、これは結婚指輪よりも強力な効果をもたらす。


 結婚指輪をしている人は家庭があるのだから、手を出してはいけないと思うだけの効果しかないものではない。


 不貞を働いたり契約者に暴力(死を伴うような)を働いたりすると死に至らしめることができるのだ。


 だがこれには続きがあり、死を至らしめるのは片方だけではないと言う点だ。

 どちらかが破れば両方とも等しく裁かれる。割に合わないマジックアイテムなのだ。


 だからこれの需要は凄く少ない。これを使うのは本当のバッカップルぐらいのものである。そして数年経てばどちらか片方が外したいという依頼が魔法具商会に殺到する。


 この指輪ははめた本人しか外すことが出来ない、だがこれを作った人物だけは外すことができる。

 指輪を外してほしいという人間は愛人などを作り浮気をしている場合がほとんどである。その場合、もう片方に外してくれと頼むことは自分が浮気をしていることがばれてしまう。そのため作った人物に外してもらいにいくのだ。


 売り手側としてはクレームには対応するしかなく、不貞などを働かないために付けるのにその効果が発揮することはなかったのだ。


 おかげで俺が特売のセール価格で買える値段まで落ち込んでくれた訳だが。


 本当は貴族などが付けるマジックアイテムのため性能はピカイチだから安心だ。安全とは言いがたい代物だがそれは仕方がないことだ。


「そこのお客様、当店にご用がありましたら、どうぞ中に入ってください」


 俺が奴隷商の前でずっと居座っていたため不信に思ったのだろう。中から奴隷商だと思われる人物が声を掛けてきた。


 そうだよな、明らかに不相応な人間が店の前に突っ伏していたら怪しいと思うはずだ。

 よしと心の中で意気込み、中に入ることにする。


「失礼する」


 一応は客なのでこちらは言葉を整えることはしない。


「どうぞどうぞ」


 一瞬、奴隷商は目を細めたがここはプロの対応なのだろう、すぐに表情を和らげ笑顔で応対した。奴隷商はそこまで鍛えたからではないがイメージとは違い痩せていた。


 俺の奴隷商のイメージと言えば、太っていて歯が銀歯や金歯で卑しい顔をしていると思っていたがそれは物語のだけの話のようだった。


 そりゃあそうだよな。商売人がそんな身なりな訳がないか。

 もしもそんな身なりで商売、それも営業をやっていたら売れるものも売れない。

 怪しいと思ってしまうしな。


「当店には奴隷を探し求めてのご来店だと思われますが、どういった奴隷を探し求めでしょうか?」


「ヒモ—ではなく、犯罪奴隷を見せてほしい」


 咄嗟に気持ちが先走り過ぎてヒモになれる女性を言いかけるところだった。


 危ない危ない。


「犯罪奴隷ですか、失礼ですがお客様が取り扱える品物ではないと思われます。犯罪奴隷を売るには一定の決まりがありまして、何分罪を犯したものですから、それを押さえるだけの力を持っている方でなければならないんです」


「知っているさ、だが俺は大丈夫だ」


 そう言いつつ、ズボンのポケットから誓いのリングを取り出す。

 すると奴隷商は一瞬きょとんとした顔で顔を顰めたが、何をしたいのか理解をすると思わず、クスリと笑いだした。その笑いは段々と大きなものになっていき、今までと違った表情でこちらを見据えて喋ってきた。


「面白いですね、ええ面白いです。誓いのリングですか、確かにそれは安全だな」


 丁寧な口調が崩れ、自然な感じになっている。


「はぁ、失礼。口調が--」


「いやそのままでいいさ。それよりも早く奴隷を見せてくれないか」


 俺は今、高い買い物するため前の様に興奮している。いや実際に高い訳だが。それだけではないだろう。人を売買するというのは初めての体験だからだろう。


 誰でも一度は買ってみたいと考えるはずだ。俺だけが特別世の理から離れている訳ではない。


「そうか、それなら崩れたまま喋らしてもらう。いつも貴族相手に商売しているからな、言葉使いには気をつけないといけないんだ。坊主は貴族の出ではないだろう」


「しがない平民のでさ。奴隷を買う平民も珍しいものではないだろう」


「珍しい訳でないが、ここの店舗に目を付ける平民は滅多にいない。質より量の方が大切なことが多いからな。で坊主はどうして奴隷、ましてや犯罪奴隷を買うんだ? 復讐か何かかなのか」


 話をはぐらかそうか迷ったが、やっぱり言っても大丈夫そうだな

 嘘をつくより、喋った方が好感触な気がするしこの奴隷商には。


「奴隷を働かし俺は楽をして生活をするためだ」


 今度は腹を抱えて笑い出した。


「面白いな坊主は、働かずして食うために奴隷を買うのか。その思考にその年で行き着くとは世の中分らないものだな」


 そうだろう。この年、つまりは十一歳の考えは大概がまだ夢と希望を持っている。例えば王都にある魔法騎士団、王国騎士になるなどの夢を抱いている。この国はそこまで貧富の差が激しいわけではないので大概の者が魔法学校に通う。そこである程度の知識や価値観を身につける。


 そのため奴隷を買うという行為は正しいものではないという認識をしてしまうのだ。人は生まれながらに平等であるという価値感のもとに学習をする。


 だがしかし俺は魔力が存在しない。魔法学校入学の最低条件に魔力を有している者とあり、俺は通うことが出来なかった。


 学歴がないものが大成出来ることはまれであるのは現世もこちらも変わらない。

 そして魔力がないものは単純な作業の仕事しか、ありつけずにこの世から立ち去っていくのだ。俺も現世の記憶がなければそうなっていただろう。


「よし坊主付いてこい。犯罪奴隷は牢の外には買われた後にしか出せない決まりになっている」


「分った」


 俺は奴隷商の後ろについて歩いて行く。

 さあ奴隷達とご対面だ。

 俺を支えてくれる女性を探さないと。


 要するにヒモ男にしてくれる女性だ。

 さあ今から始まるぞ、俺のヒモ男としての伝説が……。

 楽して生きる異世界生活が。

 

 俺はこの時知らなかった。楽だけで生きることなど出来ないようにこの世界がなっていることに。

 まだ俺は気が付いていない。


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