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クロス、アウッ!!

 キシャアアア!!


 一体どこに発声器官があるかも謎だがそんな声だか音だかを上げながら大百足が迫る。


「くそっ、こっちにいくしかねえのかよ!」


 はっきり言って怪しい。

 絶対関わりを持ってはいけない類の誘い文句を言ってくる謎の声。


『怪しくない怪しくない、俺良心的、神様嘘つかない、ハハッ!』


 その笑いはどこかの遊園地に睨まれかねないからやめーや、てか心の中読むな。


 多足をわしゃわしゃと気色悪い動かし方をしながらまるでこちらを嬲るように時々酸を飛ばして来る大百足。


「わっ、たっ、ほっ、はっ!?」


 微妙にかすって服の一部が溶けたりしながらもなんとか左の階段へと逃げ込む。


「っだあああ!」


 転がるように落ちていき、あちこちぶつけながらもぬっこさんがぶつからないよう抱えるようにして地面に激突する。


 ゴロゴロゴロ……ズダァン!


「痛えっ!」


『ようこそ適合者、我は神、獣の王にして狩猟神ーー獣神オリオン也!』


 痛みを堪えながら顔を上げれば其処には巨大な祭壇があった。

 聞いていたものとは違う、明らかに何かを封じているモノ。


 祭壇中央に置かれた仮面にはルーン…魔法的な刻印が施された四つ柱が囲い、形成された力場が仮面を外から…いや。

 おそらく内側から外へと干渉できないようにしているように見えた。

 うち一本にはヒビが入っていてそこから中の奴の邪悪な意志が漏れ出しているように感じる。


「……おまえか、さっきから頭ん中で煩いの。」


『ああ、そうさなもう地声で構わないか。』


 ヌッコさんをそっと地面に下ろし、立ち上がって埃を払う。


「なんなんだ、おまえは。」


「なんだと言われても今名乗った通りの神だ、神様だよーーそれよりいいのかな、もういくらもしない内にさっきの百足がここにやってくるぞ?」


 その台詞と同時にパラパラと降り注ぐ埃。

 ……どうやら狭い通路を無理やりにあの大百足が進んでいる様だ。


「さて、ここでお前たち二人には選択肢がある、ひとつ…このままなす術もなく百足に溶かされ、喰われて殺される…」


「ふたつめは…おまえに頼って生き残り…代償に何かを払う、って話か?」


 奴のセリフを遮る様に答えてやる。

せめてもの意趣返しだ。


「理解が早いな…まあそうだ、有り体に言えば助かりたければ契約しろーーそして、その為に…俺を囲うこの忌々しい封印を壊せ。」


「…ヒビが入ってるな、こいつを叩き折ればいいのか?」


「理解が早い奴は好きだぞ、さあ早くしてくれ、ハリー、ハリー、ハリー!」


「…なんでそんな小ネタ知ってるんだお前…いや、しかしどうしたもんかな…いくらヒビが入ってるって言っても素手じゃキツ……」


 その時目についたのは。

 ついてしまった、それは。


 横たわるヌッコさんが大事そうに抱えるギタ…いや、ニャ頭琴だった。


「…ヘッドのネコ頭は多分金属製……金属だなあ…わりと硬いよなあ…。」


 軽そうなみためだが、ヘッド部分は堅そうな素材でできている。


「……許してね?」


 そしてヌッコさんが気絶しながらも抱えているギタ…ニャ頭琴を掴む。


「ん、ん〜…だめにゃあ、だめだめやょ〜私の大事な……んんっ。」


 ……なんか誤解を招きそうな台詞!

 いや、周りに誰もいなくて良かった…。


「ごめんよヌッコさん、助かる為、二人して生き延びる為だから…!」


 無理やり引き剥がし、ニャ頭琴を振り上げる。


「おらいけっヘヴィメタルだぁ!」


 などとよくわからないテンションのまま、勢いよく振りかぶられたニャ頭琴は風を斬りながら封印の柱のヒビへと叩きつけられ、ヘッドのメタルな部分が甲高い音を立ててぶち当たった。


 ガイィーーーン!


「ダメか…よぉし、もういっちょお!!」


 更に深く腰を落とし、力を貯めるようにしてから、横薙ぎする。


「……でっかい、むかでが、むかでがあ…怖すぎるんやょぉ、ちょっとだけちびったやんょお、乙女の黒歴史増やすんやないんやよ、、、あれ、マイ ニャ頭琴は何処???」


まさになぎ払う瞬間。

ヌッコさんが目を覚ました。


「って何してんのやよぉーーー!?!?」


「フライングゥ!」


「やーめーてー!?」


「ヴイッッッッッッッ!!!!」


 バッキャアアン!!!


 無残にも砕け散るニャ頭琴。

 どこかのバンドマンが叩きつけた瞬間みたいにへし折れたニャ頭琴はもはや再起不能だろうな、とか考えていた僕をよそに、後のヌッコさん曰く、その動きは音までもスローに見えていたらしい。


「よくやった、適合者!!」


「ぎにゃああああああああっ、わたっ、わたしのニャ頭琴んんんんんん!?」


ヌッコさんがバラバラに砕けたギタ…ニャ頭琴を見て、血の涙を流さんばかりに目を見開いてこちらを睨んでいる。

いや、ごめんね…他に何もなかったんだよ…助かったら存分に罵ってくれ。


「さあて、我を手にとれ。」


 砕けた柱。

 そして消える封印の光。

 鎮座するのは堅く、重々しい外見をしたフルフェイスヘルム。


「さあ、被れ。」


「…こうか?」


 持ち上げ、被る。

 その瞬間だった、目の前に火花が散る。

 頭の中に映像が流れる。

 コレは…この兜の持ち主の記憶?


 それは、さまざまな時代を渡り歩いていた。

 遥か神話の時代には神の防具として。

 そして後の世ではさまざまな漢たちの防具としてその持ち主に絶大な力を与えてきたのだ。


 全能感。

 何が来ても恐るるに足らない、先程のムカデなどとるに足らない小物でしかない。


「「ああ、これが…これがおまえの力か」」


 二つの声が重なる。

 そして。


 キシャアアアア!!


 ついに百足が通路を抜け、その頭を見せた。


「「ふはははは、貴様のような木端(こっぱ)何するものぞっ、行くぞ適合者、我を受け入れよ、契約者となれ…一言となえよ、クロスアウト、と!!」」


「「よおしわかった、クロスーー」」


「「アウッ!!!!!」」


 爆光。

 眩い光が辺りを蹂躙し、そしてその中心には酷く清々しい気分の「俺」が立っていた。










 ほぼ全裸で。





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