3.決意と駄メイドさん
3話目です。
異世界にも四季はある。
このところこの辺りは秋かは冬に差し掛かる時期で、蓄えを備蓄し、冬の寒さと食物の少なさに備えて保存食を作る時期に入っていた。
文明レベル的には中世後期と言うこの世界。
都会に行けば魔法的なアーティファクト、魔道具が生活に彩りを添えているのだがいかんせん僕の生まれ故郷は前大司教の出生の地であると言う以外は何もない田舎の寒村ばかり。
「ただいまあ、マリア、居る?」
「坊っちゃま!」
懐かしくも、だだっ広いが何もないファルクロス家のお屋敷に戻るや、満面の笑みで迎えたのは専属メイドにして姉とも、母親代わりとも言える僕の大好きなマリア…マリア・テレーズ。
最近は僕がこうした盗賊の捕縛で得た賞金やアルバイトしたお金を入れているから庭の手入れをする時間くらいはできたらしく、荒れ放題だった庭も今は花々が咲き誇る美しさを取り戻しつつある。
マリア、なんでもできるんだよなあ…
「そ、そろそろ坊っちゃまはよしてよね…僕だってもう15だよ、成人だって去年済ませたわけだし身体も以前よりはマシになった、仕事ができるくらいには鍛えたんだからさ。」
「……ああ、坊っちゃま、坊っちゃまの細マッチョさと変わらず愛くるしいお顔のギャップが堪りませ…はっ、そ、そうではありませんでしたお夕飯はできていますので冷めないうちにどうぞ♡」
前半がなければ完璧なメイドさんなんだけどなあ…と、思わず苦笑する。
今の俺、いや「僕」は中世的な顔立ちに少々白い、病弱さの名残を残す少年だ。
身長こそ今は165センチほどになり、マリアより伸びたものの…それでも2メートルを越す巨漢がそこいら中に跋扈するファンタジー世界ではかなり小さい部類。
「愛くるしい、かあ…どうせならかっこよくなりたいんだけどなあ。」
「ああ!坊っちゃま!?可愛らしすぎてマリアは辛抱たまりません!?」
……綺麗な顔を総崩れにして眼を輝かせている駄メイド化しているマリア。
どうしてこうなった???
「あ、あはは……喜んでもらえてるならいいけどちょっと怖いから…ね?」
「…ハッ、し、失礼しました…ではこちらへ。」
椅子を引き、真面目モードに入ったマリアはようやく完璧なメイドに戻る。
「……さて、それでマリア……うちの借金、あとどのくらいあるのかな?」
夕食の話題にする話でもないが、落ちぶれた我が家を建て直すにはかなりの金がいる。
盗賊の捕縛で得たお金は普通なら稼げない金額ではあるが、多大な借金を返すには至らない。
「……まだ、一割と言ったところです。」
お父様が前大司教であった事や俺自身の借金ではないことから利子こそ無利子、無担保にはして貰っても、家財を売り払っても、その上で稼いだお金を注ぎ込んでようやく一割。
「…はぁ、そっか…叔父さんもとんだ馬鹿をしてくれたよね…十字聖教の宝物庫から金貨や金目のアーティファクトを勝手に持ち出してたなんて、さ。」
そう、我が叔父はうちの家督を継いだあとに即やらかしてくれた。
元々借金塗れだったのを隠して家督を継いだその直後に我が家の信頼を逆手に宝物庫の中身を横流しして三月でバレた。
それ故にウチは完全に落ちぶれて今に至る。
もちろん叔父は極刑に処された。
本当に傍迷惑極まりない。
「……うーん、やっぱりもっと効率よく稼がないとキリがないよなあ…。」
「…坊っちゃま、あまり言いたくはありませんが今、坊っちゃまがされている事も十分にリスキーだとマリアは思うのです…どんな事をしているかは存じませんが、村々で稼いだにしては金額が大きすぎますし…主人に意見するものでは無いのは承知の上ですが、それでも…私は坊っちゃまに危ない事をして欲しくはありません、良いではありませんか、なんならこのまま2人ーーー」
「…マリア。」
マリアの気持ちは嬉しい。
嬉しいけど。
僕はもう止まれないし、得た力は正しく使わなきゃならない。
「……僕はね、もう止まれないし、止まる気もないんだ…君の気持ちに応えてあげたいけど…僕は馬鹿だから…どんなに屈辱を味わってでも取り返したいものがあるんだよ。」
正直言って下らないプライドでしかないんだろう。
けど、現代日本を生きた記憶を持ってしまった僕は、もしかしたらマリアを貶めているのかもしれない、傲慢かもしれないけど。
ただただ、女性に養われて生きていくのには抵抗があるのだ。
だから、せめて社会的信用を取り戻してこの家を世間に恥じない程度には復興しないと何も始まらないと勝手に思っていた。
まあ、だからこそこんなクソ仮面の呪縛に囚われたのかもしれないけれど。
『プ、いやいや我が宿主ーーその言い草はないだろう。我々はもはや一蓮托生…切っても切れない関係性だ、そうだろう?』
……人の心を勝手に読んで念話で突っ込むなよ変態仮面。
『いやあ、愉悦、愉悦♫』
仮面に宿る神性ーー獣神オリオン。
彼はまごう事なき大英雄であり、死後、神の座に昇った伝説の存在である。
分け身とは言え、それが与える力は凄まじい。
今はバッジに擬態した奴は、外ではマントを留める飾りとして、室内では胸ポケットの飾り代わりに僕の衣服に張り付いている。
「……坊っちゃま…マリアは……感極まりすぎて腰が抜けてしまいました…」
「ちょっ!?!?」
奴と対話していたら、駄メイドが再臨していた。涎拭けよ……
この後めちゃくちゃお姫様抱っこした。
駄メイドさんは大興奮でした、まる。
……断っておくけど何もないからな!?
いや、本当な、無いから!!!
マリアさんは海より深い愛情の持ち主。
あと筋肉フェチ。