僕たちは若い。
リハビリで劇的に短い話を書きました。
なんの設定もない。漫画なら背景真っ白な感じですが、書いていて楽しかったです。
「受かったよ」
「…そう。おめでとう」
それは大学の合格発表日。午前10時に解禁された合格者の受験番号に「298」があったことを確認すると、僕はすぐに彼女に電話した。数秒の間の後、どこか泣きそうな声で君はそう言った。
「うん。…ごめん」
「謝らないで」
とっさに口から出た僕に、君は少しだけ強い口調になった。
「行きたかった大学なんでしょう。なら、…謝らないで」
「…うん」
「どうしても行きたいんでしょう?」
「…うん。ずっとウイルスの研究をしたいと思ってた。まだまだ見つかっていないことが多いから、それを見つけて、人の役に立ちたいって。…有名な教授がいるこの大学にどうしても行きたかったんだ」
何度も何度も彼女に伝えてきた言葉。それでも言い訳のように僕はもう一度彼女に告げた。
「うん、知ってる。…本当におめでとう。1年の時からずっと言ってたよね」
「うん」
「…一番近くで、努力を見てきたはずなのに、……素直に喜べなくてごめん」
彼女の鼻声が耳に入る。どうして電話をしてしまったのだろう。電話ではなく会いに行けば抱きしめることができたのに。
「今から、そっちに行くよ」
「だめだよ。約束でしょ」
「…」
「約束したでしょ。今日でおしまいだって。だから、来ちゃだめ」
おしまい、そんな4文字が胸に突き刺さる。僕はあと2週間もすれば、この街を出て行く。ここで暮らす彼女を残して。
受験前に2人で決めた。遠距離恋愛をするか、別れるかを。
今は昔とは違う。スマホがあり、すぐに電話もできる。顔を見て話すこともできるのだ。大学が長期休みに入ればこの街に戻って来られる。それでいいと彼女は言った。離れても大丈夫だと。
けれど僕が「別れよう」と言ったのだ。
本当は言いたかった。「待っていて欲しい」と。「遠く離れても大丈夫だよ」と。
けれど、言えなかった。僕という存在が君を縛ってしまいそうで。君のこれからを僕がだめにしてしまいそうで。
高校1年の時に同じクラスになった。高校2年の夏に僕から告白して付き合い始めた。手を繋いだ。キスもした。2人で旅行にも行った。けれど、それでも、たった1年半しか一緒に過ごしていない。
僕は君を縛ることができるほど、君のことを知らない。僕は君を縛ることができるほど、覚悟を決めていない。
そして、何よりそんな風に言えないほど僕たちは若かった。
18歳。それは大人と対等で、けれどそれでもまだ子どもなのだ。
「ねぇ、絶対頑張ってね」
「うん、もちろん」
「絶対だよ」
「わかってるよ」
「…こっち帰ってきたら声かけてね」
「……うん」
「私も、頑張るから」
「うん、頑張って」
「じゃあ、…ばいばい」
「…ばいばい」
またね、そう言いたくて、けれど必死にその言葉を飲み込んだ。
僕がいないこの街で君は誰と出会い、誰と恋に落ちるのだろうか。
君が僕以外を好きになる。そう思うと胸が苦しくなる。
ずっと好きだった。いつも一生懸命なところも、優しいところも。手入れされた長い髪も。
好きで、好きで。本当に好きで。
だからこそ、別れようと思った。君がいつでも笑っていられるように。
それが僕にできる君への最大の愛だった。
まだまだ長い話を書ける気配がないですが(気力とかそういうの的に)、ゆっくり書いていきます。
なんの身もない話ですみません。
ちなみに以前書いた詩から書きました。(もはやこれも詩だよな~)
この詩です。↓↓↓(詩だと面と向かってるけど)
笑顔の僕を見て君は涙を流した
「作り笑顔なんてしないで」
絞り出したような君の声
泣き顔もかわいい君の目からあふれる涙を拭きながら
僕は考えた
僕がいないこの街で君は誰と出会い誰と恋に落ちるのだろうか
「待っていて」力強い言葉、言いたかったでも、言えなかった
そんな言葉1つが君を縛ることが怖くて
僕たちはきっとまだそう言えるほどお互いを知らない
僕たちはきっとまだそう言えるほど覚悟を決めていない
僕たちはきっとまだそう言えないほど若い
でも僕はそう言おうか迷うほど、君を愛していた