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第59話 帝都戦

「な、何だあの数は……」


 目の前に広がる黒い壁に、ベニアミーノは驚きを隠せない。

 送故司と、何故かそれに同行するカルメーロを討伐するために北東の地にたどり着き、陣を築いて待ち受けていたのだが、彼らの登場と共に恐れおののくことになった。


「あ、あれ全部が、奴の配下だというのか……」


 黒い壁。

 そのように見えるのは、全てが魔物。

 しかも全部がアンデッドだ。


「ま、まさか、森の魔物を全て配下にして来たとでもいうのか?」


 司がアンデッドの魔物を使役する能力を有しているのは、1度戦った経験のあるベニアミーノは理解していた。

 いくら司がアンデッドを使役できるといっても、その数は限界があると思っていた。

 しかし、目の前に広がる魔物の数を見ると、その考えは甘かったかもしれない。

 ベニアミーノが率いる兵の何倍もの数の魔物が、こちらへ睨みを利かせている。

 前回の戦闘で、司の配下の魔物はほとんど倒したはずだ。

 たいした期間も経っていないというのにこれだけの魔物を手に入れるには、森の魔物を狩り尽くさないとできないことだ。


「ベニアミーノ様! ど、どうなさいますか!?」


「ど、どうするも何も、あの数を相手に戦えるか! 国中の兵を集めないと勝てるわけない!」


「で、では……?」


「撤退だ! すぐに皇帝陛下に報告しろ!」


「か、畏まりました!!」


 部下の男が話しかけてくる。

 それに対し、ベニアミーノは撤退を指示した。

 いくら何でも何倍もの数を相手に勝てる訳がない。

 あの数を相手に勝つには、帝国の全軍を持って相手するべきだ。

 そうするためにも、皇帝に許可をもらわなけらばならない。

 ベニアミーノは先んじて部下を帝都へ向かわせ、軍と共に撤退の準備を開始した。


「……どうやら撤退するようですね?」


「そりゃそうだろ」


 ファウストの言葉に、当たり前といわんばかりに答える司。

 これまでとは違い、今度は帝国の本土への襲撃になる。

 そのため、帝国へ入るまでに徹底して森の魔物を配下にして来た。

 増やし過ぎて、司自身もどれだけいるのか分からないほどだ。

 この数を相手にするには、ベニアミーノの軍では人数不足となるため、撤退を選択するのは当然だ。

 

「俺たちも進もう」


「畏まりました。カルメーロ! 案内しろ」


「ハッ!」


 撤退するというなら、こちらは目的の帝都へ向けて進軍するだけだ。

 他の町など気にすることなく、帝都へ向けて進むことにする。

 案内役は、元帝国将軍のカルメーロだ。

 奴隷となっているカルメーロは、ファウストに言われるまま、帝都までの道程を案内し始めた。






◆◆◆◆◆


「何ですって!? それ程の数の魔物が……?」


「あぁ、ベニアミーノからの報告が入った」


 呼び出された理由を受け、帝国将軍のグエルリーノは驚きの声を上げる。

 皇帝ミシェルは、イラ立ちの表情を見せつつも冷静にベニアミーノから届いた情報を説明した。

 特殊なスキルを有していると言っても、所詮はたった1人の大和王国人。

 これまでは上手くいったが、この帝国内では好きにさせるつもりはなかった。

 何か隠していると分かっていたが、それを見逃してベニアミーノに送故司とかいう大和国人の討伐を指示した。

 流石に失敗はないと思うが、念のため手厚い数の兵を付けた。

 それで問題ないと思っていたが、そのベニアミーノたちの何倍もの数の魔物なんて想定外だ。

 思い通りにいかないことに、ミシェルは腸が煮えくり返る思いをしていた。


「数が数だ。ここ帝都へ向けて進軍してきている送故司たちが着く前に、帝国内から兵を総動員することにした。その者たちと大和王国へ向ける予定だった軍、それとベニアミーノの軍を率いて、何としても送故司を始末しろ!」


「畏まりました!」


 ミシェルと同様に、グエルリーノもベニアミーノが何かを隠しているのは分かっていた。

 カルメーロが生きていたことが、何か不都合なのかもしれない。

 送故司の始末を言い出したのも、カルメーロを始末するのも目的だったのだろう。

 そんな不都合なカルメーロを放置してでも、撤退しなければならないような敵数。

 余程の数だということだろう。

 皇帝の命を受け、グエルリーノは了承すると共に頭を下げた。






「ただいま戻りました」


「ご苦労さん」


 上空から帝都内の様子を確認してきたファウストに、司は労いの言葉をかける。

 ベニアミーノの軍と一定の距離を開けた状態で付いてきた司たちは、帝都付近の丘へと辿り着いた。


「大量の兵が王都内外に配備されております」


「皇帝め、招集していやがったか」


 司の前で片膝をついたファウストは、上空から見て来たことを報告する。

 どうやら、帝国内から兵を集めて待ち構えているようだ。


「……本当にやるのですか?」


「もちろんだ。俺はこれのためにこの国に来たと言ってもいいんだからな」


「左様ですか」


 これから帝国相手に最後の戦いを挑むことになる。

 恐らく、勝っても負けても、司はただでは済まないことになる。

 そうなることを覚悟しているのかをファウストが尋ねると、司は迷うことなく返答した。


「では、私も最後までお付き合いいたします!」


「あぁ……」


 司がこれから何をするのかは、ファウストのみが知っていること。

 主である司が死を覚悟しておこなうというのだから、当然ファウストも最後まで付き合うことを覚悟した。

 司によって自分が作り出されたのは、この決戦の時を迎えるためだ。

 その命を最後まで使い切るために、ファウストは気合いを入れていた。


「行くぞ!!」


「はい!」


 危険地帯に近付いているというのに、司はこれまでと変わらない。

 いつもと同じようなトーンで、司は兵の集まる帝都へ向けて進軍を開始した。

 

「行ってまいります! 陛下」


「あぁ、頼むぞグエルリーノ」


「ハッ!」


 司の接近は、兵によってすぐに皇帝とグエルリーノに伝えられた。

 そんな司たちに対し、グエルリーノは迎撃開始の行動に移ることを皇帝に報告しに来た。

 20万近くの兵が待ち受ける帝都を相手に、よく攻め込んでくる気になるものだ。

 しかしそんな無茶なことをする人間の方が好ましいと思うグエルリーノは、どことなく嬉しそうにミシェルの前から立ち去った。


「グエルリーノ様! 送故司が、帝都上空に現れました!」


「何?」


 司の使役するアンデッドの魔物たちが近付いてきているのは分かっていたが、まさか敵のトップ自ら先陣を切ってくるとは思わなかった。

 予想外の行動を解てきた司に、グエルリーノも驚きを隠せないでいた。


「何を……?」


 ファウストに抱きかかえられるようにして上空に現れた司。

 何をするつもりなのだと思って見ていたら、司は突如何かを投げた。

 グエルリーノやベニアミーノが、その行動の意味も分からずにいると、突然空が暗闇に覆われたのだった。



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