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第51話 逃走

「に、逃げる……のですか?」


「そうだ」


 部下の兵は、先程のベニアミーノの言葉を確認するように聞き返す。

 それに対しベニアミーノは平然と返答する。


「奥の手だった複合魔法の装置が兵と共に吹き飛んだんだ。これ以上あのアンデッド使いと戦っても、勝てるとは思えない。ならば、逃げて再起を図るしかないだろう?」


「そ、そうですが……」


 司を倒すためには、複合魔法による一撃しかなかった打開策はなかった。

 その複合魔法を放つための装置が吹き飛んでしまっては、もう成す術がない。

 しかも、その装置の暴発によって大量の兵が塵と化した。

 残っている兵で、司の堅牢な魔力壁を突破できるとは思えない。

 突破できなければ、全員殺されるのがオチ。

 そんなことになるくらいなら、今のうちに逃げた方が生き残ることができるはずだ。

 生き残れば再起も可能。

 対策を練って戦えば、司のことも攻略できるはずだ。

 そういった思いからベニアミーノは熱弁するが、部下の兵は返答しにくい。


「あの、まだカルメーロ様が戦っておられますが……?」


「だからだ!」


「……えっ?」


 上官の命令なので、断る訳にはいかない。

 しかし、もう1人の上官であるカルメーロが戦っている状況で、自分たちだけ逃げてしまうというのは躊躇われる。

 逃げるにしても、カルメーロをどうするつもりなのか兵は問いかけた。

 兵の質問に対し、ベニアミーノは悩むことなく返答する。

 その返答の意味がよく分からず、兵たちは首を傾げるしかなかった。


「今なら、カルメーロが敵を抑えてくれる。我々はその間に逃げるのだ」


 ただ逃走するだけの場合、送故司の生み出したスケルトンによって邪魔をされるかもしれない。

 しかし、司は今、カルメーロと兵たちの相手をしている。

 このまま逃げても、追いかけて来ることはできないはずだ。


「それはつまり、カルメーロ様を囮にする……ということでしょうか?」


「その通りだ」


「………………」


 今回の戦いで、自分たちは送故司とか言う敵の強さの一端を知ることができた。

 死体さえあれば無限のようにスケルトンを生み出してくるその能力は、はっきり言ってかなりの脅威だ。

 複合魔法の装置がなくなった今、このまま戦ったとしても勝てる見込みがないのは分かる。

 しかし、だからと言ってこのまま逃げだすのは、おいて行かれるカルメーロたちは完全に裏切られたも同然だ。

 同じ帝国国民だというのに、ベニアミーノには仲間意識がないのだろうか。

 いや、恐らくないのだろう。

 質問に対して、当然と言うかのように返答してきたのだから。

 自分の上官がそのような人間だと知り、兵たちはそれ以上何も言えなかった。


「行くぞ!!」


「「「「「は、はいっ!!」」」」」


 仲間を残して逃げるのは気が引けるが、自分たちも命が惜しい。

 上官の命令という免罪符もあることだし、兵たちはベニアミーノと共に逃げ出すことにした。






「っ!! あいつら……」


 探知の魔法によってかなり離れた位置でも探知できるため、司はベニアミーノたちの逃走にすぐ気が付いた。

 将軍の地位にいるベニアミーノが、こうもあっさりと逃げ出さしたことに、思いもしなかった司は舌打ちをする


「暴発させたのは失敗だったか……」


 複合魔法の装置の暴発。

 それを引き起こしたのは、司によるものだった。

 探知の魔法の応用で離れた位置から装置に魔力を送り込み、意図的に装置を暴発させたのだ。

 あれだけ多くの人間の魔力を集めたのだから、大爆発を起こすのも当然だ。

 しかし、爆発が強すぎて、周囲にいた人間と建物を粉々になるまで吹き飛ばしてしまった。

 一気に勝利を引き寄せたのは良いが、死体がないのではスケルトンが生み出せないため、逃げるベニアミーノたちを止めることができない。


「だったら……」


 スケルトンが利用できないのなら、魔法でどうにかするしかない。

 遠距離の攻撃だと、威力を出すにはかなりの魔力を消費することになる。

 それでも、逃走を阻止するにはそれしか方法がないため、司は右手を遠く離れたベニアミーノたちへと向けた。


「撃て!! 撃て!!」


「チッ! 邪魔な!」


 ベニアミーノたちへ攻撃を放とうとするが、カルメーロの指示によって兵が放つ魔法が飛んできて気が散る。

 遠距離攻撃にはただでさえ集中力を必要とするというのに、これでは攻撃を外しかねない。


「こいつらを始末してから追いかけるしかないか……」


 カルメーロたちが邪魔をするというのなら、それを排除するしかない。

 元々、帝国の人間は皆殺しにするつもりでいたので、司はベニアミーノたちより先に彼らを殺すことにした。


「ぐあっ!!」「うがっ!!」


「くっ!! 奴らは何をしているんだ!?」


 司の魔法によって、兵の命が失われて行く。

 その兵の死体は、そのままにしておけばスケルトンと化して襲い掛かってくるため、それを阻止するために頭部を破壊しておかなければならない。

 先程の爆発によって、複合魔法の装置がどうなったのかが知りたい。

 もしも装置が壊れての爆発なら、司から逃げる方法を考えなければならない。

 調査に行ったベニアミーノたちの報告がなかなか来ないことに、カルメーロはやきもきした思いで待つしかなかった。


「カ、カルメーロ様!!」


「どうした!?」


 司への攻撃と、殺された兵の頭部の破壊を指示するカルメーロの所に、1人の兵が慌てたように駆け寄ってくる。


「ベ、ベニアミーノ様が……」


「奴が何だ!?」


 どうやらベニアミーノのことで何かあるようだ。

 ベニアミーノが戻ってきたのかと思いつつ、カルメーロは兵に問いかける。


「せ、戦場から離れていきます……」


「何っ!? どういうことだ!?」


「わ、分かりません……」


 調査に行ったはずだというのに、どうして戦場から離れていっているのか意味が分からない。

 報告を受けたカルメーロは、ベニアミーノの行動の意味を兵に問いかけた。

 しかし、報告した兵としても意味が分からないらしく、首を横に振るしかなかった。


「まさか……」


 戦場から離れる理由。

 カルメーロはすぐにその理由に思い至った。


「あの野郎!! 逃げやがったな!!」


「なっ!!」「そ、そんな!!」


 恐らく、複合魔法の装置が何かしらの理由で壊れ、先程の爆発を起こしたのかもしれない。

 複合魔法の装置がなければ勝ち目のないため、逃げることを選択したのだろう。

 逃げることには賛成だが、調査報告もせずに逃げるなんてふざけている。

 この場にいる自分たちを囮にすることで、逃走の時間を稼ぐつもりなのだろう。

 そのことに思い至ったカルメーロは怒り、兵たちは絶望の表情へと変わったのだった。




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