第44話 弱点
「奴はたしか……」
「あぁ、ヴァンパイアって話だな」
姿を現したファウストを見て、ベニアミーノは思いだすように呟く。
その呟きを確認の意味だと捕えたカルメーロは、正解を答えた。
「本当にヴァンパイアなのか?」
「さあな……」
送故司の配下に、ファウストと言う名のヴァンパイアがいるというのはこれまでの調査で判明している。
今回の戦いで、たしかに送故司の側には1人の配下が付き従っているのは確認できた。
ヴァンパイアが過去に存在していたアンデッド種の魔物だということは、世界中の書物で知られているが、それは大昔の話だったため、今では事実かどうかも定かではない。
創作の物語や劇などで、ヴァンパイアが登場する話が多数存在するため、むしろ想像上の魔物だという認識の方が強くなっている気がする。
そのため、その者がヴァンパイアなのかは、ベニアミーノとカルメーロはいまだに信じきれないでいた。
「本物かどうかは分からないが、エレウテリオを殺したのがあいつだという話だ」
正直本物かどうかなんて調べようがない。
しかし、あのファウストというのがエレウテリオを殺したという調査報告が上がっている。
そのため、カルメーロはそのことは気にしていない。
「本物だと思って対処した方が良いってことか?」
「その通りだ」
先程も言ったように、本物かどうかなんて確認のしようがない。
何にしても、あのファウストという従者は危険だ。
それなら、本物だと考えて対処するのが一番の対策になる。
ベニアミーノとカルメーロは、その認識でことに当たることにした。
「しかし、どうやって戦うんだ?」
「そうだな……」
本物として事に当たるのは分かったが、ヴァンパイア相手の戦い方なんて考えたこともない。
そのため、2人はどう戦うべきか思考を巡らした。
「よく物語なんかじゃ光に弱いって話しだが……」
「平気そうだな」
広まっている物語などでは、ヴァンパイアは光に弱く、昼間に外を出歩くことはできないとされている。
しかし、ファウストと呼ばれる者は今現在平気な様子で存在している。
その様子がヴァンパイアではないように思わせるが、自分たちの知識はあくまでも創作物による知識だ。
ヴァンパイアが本当に光に弱いかどうかなんて分からない。
「……光魔法を試してみるか?」
「おぉ! そうだな」
日光による光は大丈夫なようだが、光魔法ならどうなのだろうか。
たまたま思いついたことをカルメーロが呟くと、ベニアミーノは良いアイディアだと考えた。
そして、2人は部下たちに対して光魔法をメインとした戦いを指示した。
「ホ~……」
自分が姿を現し、帝国兵たちは焦ったような表情をしていた。
しかし、ベニアミーノとカルメーロの指示を受けて、その表情が次第に落ち着いて行く。
そして、帝国兵たちは光魔法をこちらへと向けて放ってきた。
自分がヴァンパイアだということは、さすがにバレているとは思っていたが、現代の人間はそのことを信じていない傾向にあった。
信じていないならむしろ自分には好都合。
そう考えていたファウストは、自分に向けられた無数の光魔法に感心したように声を漏らした。
「これまでの2人よりかはマシなようですね」
ファウストは司と共にエレウテリオとセヴェーロという2人の将軍を倒してきた。
その2人の将軍は、どちらも自分に対してこの湯女対応を取ったことはなかった。
恐らく、2人共自分をヴァンパイアだと信じていなかったのだろう。
エレウテリオはともかく、セヴェーロはこの対応を取ってもおかしくないだけの情報を得ていたはずだ。
「まぁ、エレウテリオの場合は信じても関係なかっただろうし、セヴェーロの場合は私に対応する前に司様に殺されてしまったのだから仕方ないですか……」
しかし、会ったその場では信じられなかったエレウテリオと、信じていたとしても司に殺されてしまったセヴェーロでは、対応できようがなかったのは仕方がないことだと考えた。
何にしても、ベニアミーノとカルメーロの指示は間違っていない。
ヴァンパイアである自分の弱点は光魔法だ。
「だからと言って……」
光魔法による無数の光線が迫り来る中、ファウストの態度は冷静なままでいた。
というのも、
「避けてしまえば意味はないですからね」
ファウストは消えるようにその場から移動する。
先程までファウストが立っていた場所に、光魔法が着弾した。
多くの人間の光線が1か所に集まることで、超高温になった地面はガラス化していた。
当たれば、ヴァンパイアであろうとなかろうと関係なく消し炭へと変わっていたことだろう。
しかし、ファウストの言うように、当たらなければなんてことない。
「……なるほど、今度は分散させるつもりですか……」
収束した光魔法を避けたファウストに対し、ベニアミーノとカルメーロは自分たちの考えが正しいのではないかと考えたようだ。
そのため、兵士たちまたも指示を出している。
その動きから考えて、分散して光魔法を放つことを指示したようだ。
そうすることによって、先程よりも威力が落ちても自分にダメージをを与えることを優先したのだと、ファウストは判断した。
「これだけの数となると、さすがの私も無傷は難しいかもしれないですね」
数人で1つの隊を形成するように、帝国兵たちは自分へ向けて光魔法をいつでも発射できるように構えている。
その隊の数はかなりのものになっていて、1度攻撃が開始されれば、避けても避けても自分へ向けて魔法が発射されることだろう。
「司様には死なないように言われているのですが……」
もしも1つでも攻撃を食らえば、ハチの巣のように攻撃を食らうことになりかねない。
自分の体力が切れる前に帝国兵たちを削らないと、命を落としてしまうだろう。
司には死なないように言われているだけに、そうなることは避けたい。
「まぁ、何とかやってみましょう」
従者である自分が、司の指示に背くことはあってはならないことだが、この戦いに勝利しなければ司の考える帝国兵からの大和王国奪還はならない。
司の指示に背いてもこの戦いの勝利するために、ファウストはある程度覚悟を決めた。
そして、ファウストは自分へ向けて発射された光線を回避しつつ、帝国兵の数を減らす戦いを開始するのだった。




