第38話 進軍と進軍
「チッ! また奴隷たちか……」
西北地区の太良乃万州に籠っている2人の将軍。
ベニアミーノとカルメーロを倒しに進軍を開始した司。
西北地区に進軍して、3つ目の州を奪還すことに成功したのだが、またも潰した町にいた者たちを見て舌打ちをする。
ここまで潰してきた町にいた敵のほとんどが、奴隷化されて使役された大和国民たちだったからだ。
殺せた帝国兵は、司へ攻撃させる指示を奴隷たちにする下っ端の兵だけで、たいして減らせていない。
この国から帝国兵を追い出すことができるなら、同じ大和国民であろうと容赦しないという思いがある司でも、さすがにこう殺しまくるのは気分が良くないでいた。
「……太良乃万州以外は奴隷に戦わせるつもりなのではないでしょうか?」
「かもしれないな……」
太良乃万州の周りの町を先に潰すことにした司だったが、これまで潰した町が奴隷たちにより守られていた。
そのことを見る限り、奴らの狙いが見えてきた。
ファウストの言う通り、奴らは司に同族殺しをさせるつもりのようだ。
「今更同族殺しなどに躊躇いなどない。無意味なことをしてくれる……」
将軍たちが、司に同族殺しをさせることで何を目的としているのか分からない。
もしかして、同族を前にしたら躊躇い、進軍の手を鈍らせる事でも出来ると思っているのだろうか。
しかし、王都を奪還するために、もう大量の同族殺しをおこなっている。
司からすると躊躇うつもりはない。
「……左様でございますね」
その司の言葉にファウストも頷く。
しかし、ファウストの表情は硬い。
司は同族殺しを何とも思っていないと言うが、言葉とは裏腹に雰囲気が重苦しくなっている。
こうなることは覚悟していたとは言っても、本当になると何か胸に来るものがあるのかもしれない。
主人である司のその様子に、ファウストはあえて何も言わない。
目的のためには、司は止まれない。
自分が止めることで、余計な感情が邪魔になるかもしれないからだ。
「司様。残り2つの州うち、1つは私にお任せいただけませんか?」
「……あぁ、そうだな」
「ありがとうございます」
止まらないのなら、せめて司の負担を軽減させよう。
そう考えたファウストは、太良乃万州を囲む残る2つの州のうち、片方の町の攻略を自分がおこなうことを申し出た。
これまでの相手の様子から、残り2つの州も奴隷化された大和国民に守らせているはずだ。
どうせ潰すのだから、時間短縮の意味でもファウストに任せても問題ない。
そのため、司はファウストの求めに応じることにした。
「では、失礼します」
西北地区の奪還のために、司だけでなくファウストも準備を整えていた。
血の呪縛による眷属の増産。
それらを使えば、奴隷のみで構成された軍など、自分にはたいした脅威にはならない。
きっと司の負担を減らすと共に、目的への時間を短縮できるはずだ。
そう考え司からの了承を得たファウストは、一礼してその場から消えるようにいなくなっていったのだった。
◆◆◆◆◆
「江奈様!! 送故司が進軍を開始しました!」
「そうですか……」
司たちが西北地区の攻略を続けている間に、水元公爵家の江奈は東北地区に続いて東南地区の奪還に成功していた。
多くの同族を帝国兵から取り戻し、奴隷から解放した。
そして、現在江奈の軍勢は、東北地区の中でも東南地区に近い場所にある花紡州の長谷川砦へと移っていた。
そんな折、司が西北地区へと進軍を開始したことが報告される。
司の狙いは帝国兵から大和王国を奪還することだ。
そのような行動に出るのも分かっていたことだ。
そのため、江奈はやはりと言うように返事をした。
「しかも、西北地区に入った送故司は、大和国民を殺して回っているそうです!」
「なっ!!」
「やはり、奴は大和国民ではないのだ!」
西北地区に進軍した司は、本丸となる太良乃万州へと進軍する前段階として、周囲の州の奪還を続けている。
そのなかで、その進軍を偵察にいていた者から報告が入ったようだ。
そして、その報告を受けた皆が司の所業に怒り狂った。
同じ大和国民というから青垣砦で共に戦い、エレウテリオ将軍やその副将軍たちを打ち破った。
しかし、その後司はセヴェーロ軍から王都を奪還し、その場に居座った。
その時、王都にいた大和国民も皆殺しにしたという話だ。
しかも、王都奪還後に司が奪還に動いたのは西南地区だった。
今では王族の血を引く公爵家は江奈のみ。
その江奈が統べる地を我が物顔で居座り、江奈を招くために行動していないことに部下たちは腹を立てていた。
西北地区へと進軍したのは望ましいことだが、やっていることが信じられない。
何故、救い出すべき大和国民を、奴は何のためらいもなく殺していっているのだろうか。
これまでも司が大和国民であるか疑わしかったが、平気で同族を殺していっていることで、大和の兵たちは司が大和国民でないと判断したのだった。
「…………これは絶好の機会かもしれません」
「絶好の機会?」
司への怒りが膨れ上がる中で1人の兵が呟き、それに他の者が反応する。
何が絶好の機会なのか理解できなかったからだ。
「今奴は王都にはいません。この機に王都を奪還してしまいましょう!」
「おぉ! そうだ!」
「それはいい!」
西北地区に進軍しているということは、王都の防備は薄くなっていると言うことだ。
今こちらの動きに対応している暇などないだろう。
この花紡州からなら王都はすぐそこ。
攻め入ればすぐに手に入れられるはずだ。
そのため、多くの兵がその案に賛成の意を示した。
「江奈様! 王都奪還は王家の悲願!」
「送故司がいない今のうちに攻め込んでしまいましょう!」
意見が一致した兵たちは、江奈に王都奪還の進軍を求める。
たしかに、今のうちに攻め込んでしまえば王都の奪還はなるだろう。
王都が江奈に奪還されれば、残った大和国民には希望の光となるはずだ。
「……えぇ、王都奪還に向かいましょう!」
「了解しました!!」
兵たちの進言に、少しの間を空けた江奈は了承の意を決する。
それを聞いた兵たちは、意気込みと共に進軍の準備を始めた。
「…………」
兵たちがいなくなった会議室に残り、江奈は窓から遠くを眺める。
その瞳は何が見ているのかは、誰にも分からなかった。




