第15話 スキル取得
「そうだ。魔物を数体倒したんだし、変わっているかも」
あることを思い出した司は、服の中に入れていた1枚のカードを取り出した。
魔物を倒すと、微弱ながら肉体に変化が起きる。
それを正確に確認する方法はまだ開発されていないが、取得したスキルを確認する方法はある。
それが司が取り出したステータスカードだ。
魔力を流すことにより持ち主のスキルや体調などが表示されるようになっていて、本人の許可なく他人が見ることはできなくなっている。
この世界では子供が生まれたらこのカードを与えることが通常となっていて、かなりの田舎出身の人間でも持っているのが普通だ。
奴隷にされて持ち物は何もかもを奪われたが、唯一これだけは取り上げられなかったものだ。
帝国兵からすれば、特殊のスキルでも手に入れていれば帝国にとっても利用価値が高いため、月に1度くらいでチェックするために持たせたままでいたのだろう。
スキルには、戦闘系やら生活系やらあり様々だ。
戦闘系のスキルは、その名の通り戦うことで手に入れることが知られている。
数年前に今よりも小さい時に奴隷にされて、それからは死体処理しかしてこなかったが、このダンジョンに逃れて初めて魔物との戦闘をした。
そのため、司はもしかしたら何かしらのスキルを手に入れているかもしれないと、確認してみることにしたのだ。
「やっぱり……」
ステータスカードに魔力を流すと、名前・年齢・体調・スキルの順に文字が浮き上がってきた。
これまで名前や年齢以外は、健康と奴隷という文字が体調欄に書かれているだけで、スキルの欄には生活魔法以外何も書かれていたなかった。
しかし、今見てみたら、スキル欄に文字が浮かんでいた。
「あれっ? 棒術のスキルが付いたのは分かるけど、剣術まで付くなんて……」
スキルの欄には、まず棒術のスキルが付いていた。
最初のゴブリンを倒した時に手に入れた棒を武器替わりに使って来たため、棒術スキルが付いたのは分かる。
しかし、何故だか剣術スキルまで付いていたのは予想外だった。
「剣代わりに使っていたのが理由か?」
手に入れた棒は、長さ的に帝国兵が持っている剣と同じ位の長さをしていた。
そのせいか、剣のように使っていたのがスキルを手に入れた理由なのかもしれない。
「……何だ? このスキル……」
これから先ここで生き抜いていくためには、魔物との戦闘を何度も続けないとならない。
そう考えると、棒術・剣術スキルが手に入ったのはありがたかった。
しかし、司が1番気になったのはその2つのスキルではないく、もう1つのスキルだ。
「死体使い?」
ステータスカードに書かれていたのは、死体使いという文字だった。
聞いたこともないスキルだ。
「死体使いって……、この国じゃ最悪のスキルだな」
ステータスカードには取得したスキルが表示されるだけで、取得条件や方法はもとより、そのスキルの説明もされることはないため、取得した間が自分で確認をするしかない。
剣術などのように読んだまま意味するとしたら、このスキルは死体を操るものだと思える。
そうなると、司の言うように最悪のスキルと言って良いだろう。
この国では、幼少期から遺体は敬意をもって扱うように教育されている。
それが生前何人も人を殺した極悪人でもだ。
そんな国において、司の能力は教義に反し、死者を愚弄していると捉えられるだろう。
所持しているだけで、殺人犯と同じ扱いを受ける可能性のあるスキルだ。
「この際何でもいいさ。俺は帝国どもを追放してこの国が奪還できればいいんだ。そんな俺にこのスキルはお似合いかもしれないな」
父や母の遺体を焼き、知り合いの遺体を焼き、多くの大和国民の遺体を焼いてきた。
まるで廃棄物を処理するかのようにだ。
そんな自分は、この国の宗教からすると最低最悪の存在と言って良いかもしれない。
奴隷にされてとは言っても関係ない。
もしかしたら、神が罰として自分に与えたのかもしれないと思えてくる。
このスキルがどれだけ使えるかは分からないが、ここを生き抜くためにも帝国の者たちをこの国から追放するにしても、どんな力でも良いからと欲していた力にかわりはない。
この手に入れた力を使いこなし、司は強くなることを誓ったのだった。
「早速使ってみるか」
ステータスカードを確認して眠りについた司は、翌朝(時計がないので時間も分からなければ、発行石の光のみで日の光がないため朝か夜かも分からない)に得た能力を確認することにした。
拠点とした場所から少し離れた場所へと着いた司は、死体使いのスキルを使用してみることにした。
「死体に魔力を流せばいいのか?」
スキルを取得したというのは分かっても説明はないが、スキルを得たことでなんとなくその使い方が分かるものだ。
自分のその感覚に身を任せ、司は死体に魔力を流してみた。
使う死体は、見つけて倒したばかりのゴブリンだ。
倒した死体は、30分くらい放置しておくとダンジョンに吸収されてしまう。
そうなる前に、このゴブリンがどんな風に、どれだけ使えるのか試してみることにした。
「どれくらいだろう? とりあえず少しだけ……」
司は、まずゴブリンの死体に魔力を流し込んでみる。
あまり多すぎると魔力枯渇が心配になるため、まずは少しだけ流してどんな風に動くのかを試してみることにした。
「よしっ! スキル発動!」
別に口に出さなくても、発動させようと思えばできるだろう。
しかし、初めての試みなのだからと、気合を入れるためにもわざと口に出して試してみた。
「……ガッ」
「…………マジで動いた」
スキルを発動させると、魔力を流したゴブリンの死体が動き出す。
ノソノソと立ち上がり、ゴブリンの死体は司を見つめた。
見つめたと言っても、死んで白目をむいているため定かではないが……。
動き出したことに驚いた司は、そのまま自分を襲い掛かってくるかもしれないと、武器の棒を思わず構えてしまった。
しかし、立ち上がっても襲ってくるようなことはせず、動かなくなったままだ。
「もしかして、指示待ってんのか?」
立って動かなくなったため、スキルの発動が失敗したのではないかと思えてきた。
しかし、それよりも自分を動かしている主人の言葉を待っているかのようだ。
「物は試しに……、木の枝を集めてくれ」
「……ガッ」
とりあえず、ここでの生活は焚き木が必要になるだろう。
そのため、司はゴブリンゾンビに枝集めの指導を出してみることにした。
司の指示に頷くような反応を示すと、ゴブリンゾンビは周辺から木の枝を拾い始めた。
「本当に死体が従っている」
まさか本当に死体を動かせるなんて思ってもいなかった。
しかし、ゴブリンゾンビが指示通り動いているのはたしかだ。
「他にも色々試してみよう」
本当に死体を利用できるのなら、かなりのメリットがある。
その色々なことを1つ1つを試すことが、司には楽しみでしかたなかった。