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第14話 拠点

「食料は手に入ったし、安全な住処を探さないと」


 一角兎を倒してその肉をたらふく食べた司は、体を休める場所を探すことにした。

 ダンジョンの中に安産地帯なんてあるとは思えないが、寝ずにいるわけにはいかない。

 ぐっすり眠れる場所とまでは贅沢を言うつもりはないが、せめて休憩できる場所くらいはあることを期待した。


「……何で見つからないんだ?」


 樹々が生い茂るなかを、司は魔物に警戒しながら進んで行く。

 時折ゴブリンなどの魔物が遠くに見えたりするが、いちいち相手にしていては先へと進めない。

 なるべくやり過ごし、住処にできそうな場所を探し求めた。

 しかし、時計がないのでどれほどの時間が経ったのか分からないが、いつまでたっても拠点にできそうな場所なんて見つからないでいた。

 いい加減疲れてきた司は、思わず愚痴った。


「んっ? あれは……」


 見つからないことにイラ立ちつつも探し歩いていたら、石や岩が転がっている地点にたどり着いた。

 もしかしたら洞窟のようなものでもあるのではないかと期待して見渡すと、遠くにゴブリンを見つけた。

 こちらに気付いていないようだが、もう何度目になるかというゴブリンに若干うんざりしてくる。

 しかし、そのゴブリンがこれまでと違う動きをしていたため、司はなんとなく目が行った。


「石を運んでいる?」


 司がそのゴブリンに目が行った理由は、そこら辺に落ちている石を持ち上げて、どこかへと運んでいるのが目に入ったからだ。

 その行為が何を目的としているのか気になり、司は岩などで身を隠しながら付いて行くことにした。


「……仲間か?」


 石を持ったゴブリンがたどり着いたのは、石が積み上がった小山のような場所だった。

 その小山には入り口のような場所があり、そこからもう一体のゴブリンが出てきた。


「それにしても、あれ良いな……」


 石の積み上がった小山。

 恐らく、あのゴブリンたちの棲み処になっているのだろう。

 あれなら入り口を閉めれば、他の魔物に見つかることなく体を休めることもできるはずだ。


「頂いちまうか……」


 自分と同じ位の身長をしたゴブリンが作ったのだから、中も丁度いい具合になっているはずだ。

 住処を探していたところだったため、あのゴブリンの棲み処が欲しくなった。

 これ以上歩き回っても他に見つけられるか分からないの。

 なので、司はゴブリンを倒してあそこを自分の者とする事に決めた。


「そもそも何匹いるんだ?」


 石の積み上がった小山の大きさからして6畳くらいだろう。

 その大きさなら、さっきの2匹以外にも何匹か入っていそうだ。

 あの場所を奪い取るにしても、全滅させないと意味がない。

 2匹以外にも出てこないか探るため、司はしばらく眺めることにした。


「ゴブリンも人間と同様に、煙を吸い込んだら死ぬんだっけ?」


 昔、洞窟内に隠れ住んでいた大和国民を、帝国兵が入り口付近で焚火をし、その煙を洞窟内へ流すことで殺害したのを見た。

 何故その光景を見たかというと、死体を処理をさせるために連れていかれたからだ。

 一酸化炭素中毒なんて言葉は知らないが、それで内部にいるゴブリンを倒せるならそれでいい。

 成功するか分からないが、司はやってみることにした。


「木の枝は充分。ゴブリンは中に入って出てくる気配はない。やるぞ!」


 煙によるゴブリンの殺害を実行することに決めた司は、まず木の枝と石を大量に集めた。

 そして、住処の中に入ったゴブリンが出てくる気配はないのを確認し行動を開始した。

 まず、入り口に石を積み上げて閉じ込め、外で焚火をして僅かな隙間から煙を内部へと流し込んだ。


「ギャッ!!」「ゲギャッ!!」


「……2匹だけだったか?」


 煙を流し込んでいる隙間から、内部にいるゴブリンの呻き声が聞こえてくる。

 声色の違いからして、聞こえてくるのは2匹分の声。

 閉めた入り口から入ってくる煙に、外へと逃げようとしているのだろうが、司が積み上げた石が邪魔になって出て来られなくなっている。


「……静かになった」


 結局、司が積み上げた石を崩すことができず、中に居たゴブリンの声が聞こえなくなっていった。

 そして、念のため少しの間煙を流し続け、確実に死んだと思えた司は、焚火の火を消して積み上げた石をどかし始めた。


「よしっ!」


 石をどかして扉を開けてみると、扉の前で苦悶の表情のまま死んでいる2匹のゴブリンの死体が転がっていた。

 念には念を入れて、司は外に引きずり出したゴブリンを焼却処分する。

 そして、これによってゴブリンの棲み処を手にいることに成功した。

 送り込んだ煙によってついた煤を掃って、石積みの棲み処の内部へ入ると、思った通り司にとっても丁度いい広さをしていた。

 これで寝泊まりできる場所は確保できた司は、思わずガッツポーズを取った。


「同じ手でやられたら目も当てられない。そのうち対策を取らないとな」


 他の魔物の襲撃を阻止するために、いくつもの石を積み上げて頑丈にしたのだろうが、これでは外に空気が逃げない。

 ゴブリンたちに同じようなことができるとは思わないが、自分も同じように閉じ込められて煙責めされたら助からないだろう。

 どこかに通気口でも作る必要があるが、それはそのうち作ることにした。


「寝る時以外は、ここにはいない方が良いかもな」


 ここが他の魔物に嗅ぎつけられたら、また拠点を見つけなければならなくなる。

 他に拠点となる場所が期待できない以上、ここはできる限り死守したい。

 そのため、ここは寝る時以外は使用しないことにして、食事などは少し離れた場所でおこなうことにした。


「ひとまず寝よう」


 一緒に魔物の囮にさせられて、入り口の落石で死んだ謙治の衣服は、利用できると持って来た。

 その機会はすぐに来た。

 貴重な食料となる一角兎の肉を運ぶために、包みとして利用させてもらった。

 包みを部屋に置いた司は、体の痛みに気が付いた。

 魔物から逃げ回り、何とかたどり着いたのがダンジョン内。

 隠れながら進んだが、何度か魔物と遭遇して戦うことになった。

 必死だったために体の状態を気にすることはなかったが、動き回ったことで体に疲労が溜まっていたようだ。

 時計は持っていないため今が夜かは分からないが、気付いたらどっと疲れが沸き上がってきたため、司はもう寝ることにしたのだった。



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