第一幕《最期の日を共に:プロローグ》
「はろー、おかえりになったぜー」
暗く狭い道を歩き、辿り着いたのは一軒の寂れたバー。普通の人ならば少し足を止めてしまいそうな雰囲気の場所になんの躊躇いもなく入っていく。
店内は思ったより綺麗だが、何処か薄暗い。そこへ軽快なソプラノが響いたのだ。
「......アルト、ずいぶんとお早いお帰りですね」
その声に反応したのはカウンターでグラスを磨いていた少年だけだ。
一瞬扉の前の少女を見つめまたグラスに目を向ける。
アルト、そう呼ばれた少女はそんな様子気にも留めず少年の前の席に座った。笑顔で。
「なんですかその笑顔。今回の仕事は簡単過ぎましたか?」
「まーな、俺にかかれば造作もねーよ。てかお伽噺変装して読むだけに簡単も何もねーだろ」
終始笑顔を崩さないアルトに溜め息をついて少年─ファシー─は言い放つ。
「そうですか。ならば結構ですが......簡単な仕事の報告に嘘は必要ないですよね。バレると分かっていて何故隠すのです」
そして笑顔は凍りついた。
「うっせー、順調過ぎて最後やらかしましたー。もうあの姿使えませーん。かなしー。全くその魔眼のお陰で台無しだよ」
机に突っ伏して、真実を述べた少女に素直で宜しいとだけ言い封筒を出す。
「そんなところ悪いのですが、新しいお仕事ですよ」
「え?はやくね?どれどれ?」
直ぐに頭をあげて封筒の中身を確認し......また彼女は突っ伏した。
その様子に少し疑問を覚えたファシーは中身を確認しよう手を伸ばし──封筒は消える。
封筒はアルトの隣の椅子へと移動していた。
「何故ここで幻影魔法ですか?そんなに見られたら困るような内容でも入っていたのですか?」
ファシーの疑問にアルトは答えない。
顔に薄ら笑いを貼り付けて立ち上がると出入口の方へ足を進めた。
そして、ファシーの方を振り返って
「今回は二人だぜ。早くモノクル着けろよ」
そうとだけ言い扉をあけると──
──空間がぐにゃりと歪んだ感覚がした
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《何でも屋》さん
私は家族と過ごしたいです。
ですが貴族のパーティーに招待されてしまいました。
私の代わりに出ていただけませんか?
もう二度と行かなくて良いようにしてほしいのです。
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