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闘争  作者: 椎名 千尋
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荒木シリーズ第二弾 「闘争」

 ジャブ飛んでくる、スウェーバックで避ける、こちらもジャブを打つ軽く当たっただけだ、ローキックを入れるが空振りに終わる、一気に間を詰めストレートを入れるがガードされた。ミドルキックと飛ばしガードが下がった瞬間に右フックを顔面に叩き込む。


「ストップだ」


 二人共歩み寄る。


「長井、お前上達したんじゃないか?」

「いや、まだまだだ。やはり実戦で鍛えたあんたには敵わないね。プロ顔負けだな」


 二人でリングから降りる


「荒木さんやはり強いね、長井が挫けなければいいんだが」

「俺は挫けたりしないよ」

「会長、長井はまだまだ伸びるよ」

「荒木さんがそう言うなら信じるよ、これで荒木さんが十戦十勝だ」

「俺の連敗か、試合では勝てるのに荒木さんあんたにだけ勝てない」

「たまたまだ」

「あんたの戦い方の癖は見抜いてるはずなんだがね」

「とりあえず今日はここまでだ、次は一発御見舞してくれよ」

「練習しておくよ、これから仕事かい」

「いや、腹が減っただけだ」


 じゃあと手を挙げ着替えてマンションに帰った。


「ただいま」

「おかえりなさい、今日はどうだったの?」

「今日で十戦十勝だ」

「長井君落ち込んでるんじゃない?」

「いや、大丈夫だ」


 冷蔵庫から豆乳を取り出し、コップ一杯だけ飲む、テーブルに料理が並ぶ、我が家の定番メニューの一つだ。スタミナ丼とステーキと特製タレ。椅子に座りいただきますと言い二人で食べ始める、やはりいい肉は美味い。


「長井君にもこのタレを教えてあげたら?」

「栄養バランスならあいつの方が詳しい」


 由香里が毎日食べているサラダが差し出される。


「お肉もいいけど野菜も食べて」

「わかったよ、だがドレッシングじゃなくマヨネーズの方がいい、からしマヨネーズだ」

「わかったわ、買っておくから今日はこれで我慢してちょうだい」

 サラダに手を付けるがやはりドレッシングが俺には合わない。

「ポテトサラダならいくらでも食べれるんだがな」

「あら、そうだったの? 結婚してから初めて聞いたわ。今度作るわね」

「ああ、頼むよ」


 ごちそうさまと言いリビングに移るとマグカップのコーヒーと豆乳が出される、チョコレートも添えられている。これも暗黙のルールになっていた。交互に飲んでいく。


「あなた、今日で結婚してから半年よ」

「もう半年か、早いな」

「ボクシング以外に趣味は作らないの?」

「面白そうなのを探してはいるんだがなかなか見つからない、それとボクシングじゃなくてキックボクシングだ」

「同じ様なものじゃない」

「まあな、ところで美容院を予約してくれないか?」

「この時間だと空いてるはずだわ、行ってみましょ」

「わかった、すぐに出よう」


 歩くこと五分美容院に着いた。やはり空いている。


「荒木さんいらっしゃいませ」

「飛び込みでも構わないか?」

「ええ、大丈夫です」

「じゃあカットを頼むよ」

「私もいいかしら」

「じゃあ、お二人でこちらへどうぞ」

「私は更に十センチほど短くして」

「肩甲骨の真ん中くらいでいいですか?」

「ええ、お願いするわ」


 俺のカットは毎回同じだ、何も言わなくても短くカットしてくれる。


「腰まであったロングヘアーが毎回短くなりますね」

「短い方が楽だわ」


 二人共すぐに終わった、支払いを済ませマンションに帰った。由香里は鏡の前でヘアゴムを咥え髪をまとめ始めた。


「どう? あなたの好きなポニーテールがちょうどいい感じに出来るようになったわ」

「ああ、いいな。似合ってる」

「でもこの歳でポニーテールで出掛けるのは恥ずかしいわ」

「そんな事ないさ、大丈夫だ」

「そう、だったら今度のデートの時にこれにして出掛けるわ」


 由香里はヘアゴムを外し、短くなった髪にクシを通している。


「髪を下ろしていてもその長さがちょうどいい感じだ」

「だったらこの長さをキープするわ」


 俺はノートパソコンを開き、自分のホームページを見た。前回の事件以降成り行きでボランティアの様に探偵を続けることにしていた。だがまともな依頼はまだ一度も来たことがない。今日も依頼は無かった、新しく作った名刺もまだ使ったことがない。


「依頼来てないみたいね、もう諦めてのんびり過ごしましょうよ、一生遊んで暮らせるだけのお金はあるんだし」

「これはボランティアさ、それに緋村が続けろと言っているみたいな気がするからな」

「危ない事件じゃなければいいわ、あなたがこの街のヤクザを潰してからこの街は平和よそうそう事件があると思えないけど」

「確かに平和になった、事件がなければないで俺は構わない」


 殺された親友で探偵の緋村の仇は取った、探偵の真似事をして島村組も組ごと潰してやった、それ以降新しい暴力団も出来ないしこの街は平和そのものだ、ただ無職って言う肩書きが嫌で探偵を名乗ってる様なものだ。


「あなたは何か肩書が無いと不満みたいね、探偵にこだわらずとも資産家って肩書があるのよ、危険な真似事はしないでちょうだい」

「わかってるよ、どちらにせよ依頼が入って来ないしいいじゃないか」

「あなたがいいなら、それでいいわ」

「豆乳をもう一杯くれないか?」


 由香里は冷蔵庫に行き、一パック持って来た。


「どんどん飲んでちょうだい、定期便で買ってるから遠慮はしないで」


 これを聞くのは二回目だった。


「そう言えばお前と買い物に行っても米を買ったとこを見たこと無いが、豆乳みたいに米も定期購入してるのか?」

「そうよ、お米は重いから定期便よ、あなたがたくさん食べるから減るのも早いしね」


 俺の飯は茶碗じゃなく丼ぶりだ、一回で二人前食べてることになる。無くなるのも早いはずだ。


「そう言えばいつものお肉屋さんの隣に魚専門店も出来てたわよ、お肉で儲かったからお魚にも手を出したそうよ、その分お肉が安くなってるわ」

「魚もたくさん扱ってるのか?」

「ええ、イワシからサメやエイまで仕入れてるって話よ、今度一緒に覗いてみる?」

「行ってみよう、生のサーモンが食べたい」

「あなたがお肉以外に興味を示すのは珍しいわね」

「焼き魚にはあまり興味はないが生魚は好きだ、刺し身も好物の一つだしな」

「よかったわ、お肉だけだと栄養が偏っちゃうから、今度刺し身づくしにしましょ」

「ああ、楽しみだ。明日にしないか?」

「いいわよ、じゃあ明日見に行きましょ」


 刺し身が食べられると思うと急に腹が減ってきた、明日の夕食が楽しみだ。


「この半年間刺し身が出なかったのには理由があるのか?」

「スーパーのお刺身コーナー見たことある? 種類も少ないし身は小さいし、時間が経ってみずみずしさがないのよ、食べても美味しくなさそうだったからよ」

「なるほど、それはわかるな」


 一人暮らしだった頃は魚が食いたくなると回転寿司に一人で行ってたが、回転寿司も魚が新鮮では無かった記憶がある。


「お前、回転寿司に行った事あるか?」

「回転寿司は行ったことないわ、お寿司は普通のお寿司屋さんでしか食べないわね」

「回転寿司の魚も乾燥してて食えたもんじゃないぞ、我慢して食べてたがな。回らない寿司屋にも行ってみたいな、子供の頃行ったきりであまり覚えてない」

「今度行ってみましょ、さっきから食べ物の話ばかりね」


 由香里はクスクスと笑っている、釣られて笑ってしまった。


「食い物の話ばかりしてると腹が減る今夜はこれくらいにしておこう、とりあえず明日の刺し身は楽しみにしておくよ」

「そうね、話し込んでる間にもうこんな時間よ、あなたと話していると飽きないわ、でもそろそろ休みましょ」


 もうすぐ一時になろうとしている、二人でベッドに潜り込んだ、頬にキスをされる。

 一緒に住んで以来由香里はこれをほとんど欠かしたことがない。

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