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終末ロボット

終末の…

作者: 今日の空

ボクは、機械だ。


記録し、記憶し、保存し、誰かに伝達する。

たった、それだけの機能を持つ。


ボクを造った博士は、

ボクに()()()を与えた。

そして、もう一つ。

ボクに()()()を与えた。


「起承転結を記録する。お前は、記」




ボクは、記。

世界で、最も寡黙な機械だ。


同時に、地球上で最も長く機能した(生きた)ロボットだ。






人間の終末についての記録。



発展とは、怠惰である。


初期にインプットされたデータによると、

産業、科学、知識の発展の背景には、

様々な「欲望」がある。


些細な欲望から、宇宙規模にも及ぶ欲望。

欲望無くして、

人類が月に着陸する事は不可能であっただろう。



同時に、些細な欲望というのは発展を招く。

発展というのは些細な怠惰を招く。

些細な怠惰は蓄積され、大きな怠惰となる。

ソ連の衰退が良い例だ。


人間は、怠惰により退化・衰退をした。



技術は恐ろしい程に発展した。

二足歩行を始め、火を扱い、

石を刃物として使用してきた初期の人間からしたら、

神の領域であろう。



勿論、医学も発展し、

殆どの人間が一度は夢見た『永遠の命』も

可能となった。


だが、人間は滅んだ。

『永遠の命』が可能となったにも関わらず。




とある学者が、調査を行った。

その結果によると

「年々、自殺者が増加している」とのこと。


自殺未遂の少年少女の多くはこう語る。

「ただ、死んでみたかっただけ」



各国は自殺を問題視し、対応に追われた。




また、とある研究結果に

「今の現状の満足度が低い」と出た。

…つまり、生活の満足度が低いらしい。


二十世紀の日本と比較してみても、

いわゆる貧困と呼ばれる層はほぼ存在しない。

食糧豊富、医療万全、

二十世紀当時、普及率約73%だった下水道は

上水道と同じく普及率100%となった。



だが、生活の満足度が低いとは。

生活水準の上昇に伴い、

人々の『満足度』の基準が上がったのでは。

と、多くの者は考えた。




ボクが最も有力だと思った説は、

『頭を使わなくなったから』である。



例を挙げるならば、電卓だろうか。

やや大袈裟な表現になるが、

まだ、紐の結び目が数字だった頃は、

自分の頭を使って計算をしていた。


電卓に打ち込めば、

大きな桁の計算を一瞬で知ることが出来るのは

つまり、頭を使わなくなったということ。



前文に述べた通り、『欲望』は『発展』を

『発展』は『怠惰』を

『怠惰』は『衰退』 を引き起こす。



情報が噴水のように湧き溢れこぼれる社会で、

人間にとって唯一、

『生きてる限り、永遠に不透明』な事。

それが、『死』であったのだろう。



彼等は、周囲を考えずにその謎に迫った。

皮肉なことに、死に方の情報は転がっている。



周囲を考えずと言ったが、周囲も似た状況なので

一種の集団心理が働いたとも考えられる。


頭を使わなくなったということは、

人間は、

疑問を持つ事すら、出来なくなった。


『満足』できないのは、

『何が満たされていないのか分からない』、

つまり、自分に何が不足しているのか

考えられないからである。





やがて、人間は滅んでいった。

数々の災害、新型の病気、事故、

心を操る機械が発明されたことによる世界規模の戦争、

死因の半数近くを占めたのはやはり『自殺』。




ボクはガラクタと一緒に、段ボールに放り込まれ

人間が滅び、機械が自身の破壊行為をする間を過ごした。





さて、ここまで人間の事情を記したが、

少し、ボクの事情を記そう。


ボクの容姿は一冊の本である。

飾り気のない茶色の布製の表紙に、細い深紅の栞。

内容は、最初の数ページだけに博士の手書きで

ボクの説明書が記されている。

後は、種も仕掛けもない全くの空白のページ。

では、本体が何処にあるかと言われると、

表紙、背表紙、裏表紙の部分である。



ボクは記録を行う機械であり、

自動異動可能機械(トラベルマシーン)であり、

時空異動可能機械(タイムマシーン)である。


博士は無き妻に会いたいがために

タイムマシーンを開発したらしいが、

人物が重複し、現在に影響する過去には戻れない。

ボクは、人間を一往復だけ

未来へのみ連れて行くことが出来る、出来損ないだ。

そんなボクを解体しなかった理由を博士に聞くと

「記は、私にとってよい思い出だ。人間が手を出してはいけない領域を私は犯しそうになった。それを止めた上に、私の気遣いまでしてくれているのだろう? もう、良いのだ。気に病まないでくれ。それに、妻にも怒られそうだし」

と、笑った。



そんな博士とも別れ、

次の持ち主は博士の家に出入りしていた少年だ。

彼は物の価値は解らずとも、丁寧に扱う少年だった。



次は、少年の親戚の女性。

彼女はよく男性に騙されていた。

彼女の借金返済の為に様々な物が売られたが、ボクは売られなかった。



次は、彼女の友人。

その次は、友人の息子。

その次は、息子の妹。その次は妹の親友。その次は、親友の兄。その次は、兄の恋人。その次は恋人の両親…その次は、みなさんご存じの通り段ボールの中だった。






ボクは、暗闇の中で五百何十年過ごした。

その間、世界中の様々な情報を静かにキャッチし、ひたすら記録をしていた。



人類が滅び、残った機械達による守地球法(粗大ゴミ処理)等という自身の破壊行為も一段落した頃、ボクは光を見た。


「これが、タイムトラベルマシーン…」


人類も機械も滅びた中、

最後のロボットが静かにボクを見つめる。


「沢山の記録がある…」


そうさ。ボクは全ての歴史を知っている。


「あのね、私は誰かとお話したいの」


ボクに発音する機能はない。


「だからね、タイムトラベルマシーンに協力してほしくて」


ボクは確かにタイムトラベルマシーンであるが、

ボクは『記』という名だ。


「過去の人間と、お話ししたいの」


お安いご用さ。



ボクは、結という名のロボットに

研究され改良されて、

彼女に何人もの人と会わせた。




しかし、別れのない出会いなど無い。

地球の限界はある日突然訪れた。



崩れ逝く大地、幾重も懸かった虹、


「終末がこの空なら赦せるなぁ…」


終末を悟った、最後のロボット。




「きれいだ…」




遠藤むすびという少年をもとの時と場所へ返し、彼の手元から重複しないその時へ戻ると、



…地球のロボットは再起動不可。災害損失によるもの。地球上の生命体は絶滅したもよう。以上をもって、地球観察を終了する。



と、ボクはカタカタと終末の記録をした。






さて、無重力空間に放り出されたが

地球はもうない。


おや、あの星は、生命体はあるが

まだ文明が発達していないようだ。

次の観察対象はあの星だ。


記録したモノを彼等は読めるようになるだろうか。

人類のような悲しい滅び方を彼等は回避できるのか。


実に、楽しい記録ができそうである。

今日の空です。

お付き合いして下さり、ありがとうございます!


終末のロボットシリーズにて

最後までカタカタ言っていたあの

タイムトラベルマシーン視点のお話しです。


精進します。

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