第3回 奄美のソウルフード
この放送では、皆様からの奄美情報をお待ちしております。
ご意見、ご感想、情報の齟齬などがありましたらどしどしお寄せください。
※物語はフィクションですが、事実に基づいたストーリとなっております
「うがみんしょーらん、南高の奄民部長のリコです」
「こんにちはー。同じく奄民のミドリです。今日も、エフエムハレかな! 『みどりこのシマ唄きばらんばぁ』の時間がやって来ました。どうぞ最後までよろしくお願いします。なお、この番組は『シマ唄の未来を考える、奄民』、奄美民謡研究部の提供でお送ります」
「いや、なんだかんだと3回目の放送ですよ、これ」
「目指してるのはね、松本人志の『放送室』やからね」
「いや、高い! ハードルが高すぎて余裕でくぐれるから!」
「まあ、目標は高くいかへんとね。どんどん自分を高めていかへんと」
「ミドリ、喋ればしゃべるほど自分を貶めてると思うぞ……本文ではそれなりにいいキャラクターだったのに」
「まあ、本文ではちょっと遠慮してる部分はあるよね」
「え? そうなの?」
「あたし、こう見えて集団行動苦手なタイプやから」
「いや、明らかにマイペースでしょ。ふたりだけの番組で思いっきりペース乱されてますから」
「そう? 中学校の時の通学電車内レベルの会話しかしてへんよ?」
「もう少し高いレベルで話して……」
「まあ、そういうわけで『放送室』目指して、今回も頑張っていこうと思うんですけどね。リコちゃん、この番組シマウタきばらんばぁっていう名前のわりに、今までシマウタについてほぼ言及してへんよね」
「いや、あたしは結構いおうとしてるんだけど、ミドリの話題がいきなり飛ぶからな」
「すぐそうやってあたしを悪者にする」
「事実をいったまでなんだけどな」
「まあええねんけど。あ、こないだね、にゃー食べたんよ、にゃー」
「にゃーって、前回の猫ひきずってるのか?」
「違う違う。にゃーってわかるやろ? なんとかにゃーていう貝!」
「ああ、とびんにゃ?」
「そう、それ!」
「なんとかにゃーって、それでわかったら苦労しないわ」
「あれ、おいしいねぇ。あたし一人で10個以上食べたわ」
「確かにおいしいよね。でも、あれってあたしのお父さんとかが酒の肴にしてるんだけど?」
「あたしハタチになったら毎日とびんにゃで一杯やりたいわ」
「すげえおっさんくさい発言だな、おい。ミドリまだ16歳だからな。あんまり、設定無視した発言は控えてもらわないと」
「あと、豚味噌」
「完全に居酒屋の突き出しメニューになってるだろ!」
「奄美って海が近いわりに案外、海の物って食べへんことない?」
「たしかに、豚とか鶏はよく食べる印象あるけど、海のもの食べないことはないと思うけど? ただ、昔はこの気候が食品の保存にはあまり向かなかったから、味噌漬けとかにする料理が多かったみたいだけどね。あとは薩摩藩のせいかな」
「薩摩藩?」
「昔の奄美は薩摩藩の統治下で、厳しい取り立てを受けてたから、みんな貧しい生活を強いられていたんだよ。だから、他の地域に比べて食文化が発展しづらかったんだな」
「ちなみに、その奄美産の砂糖を買いあさっていたのは大阪の商人です」
「積年の恨み、今ここで晴らさせてもらおうか!」
「リコちゃん、目ぇ怖いから!」
「薩摩藩の砂糖の取り立てが厳しすぎたせいで、奄美の昔の人は食べるものがなくて、『ソテツ』の幹からデンプンを取り出してお粥にしたり、『ソテツの実』から味噌を作ったりして、空腹をしのいでいたんだからな」
「すごいね。生きる力を感じるね!」
「しかも、ソテツの実って毒あるんだよ? それを砕いて、乾かして、ああして、こうして、味噌にするってすごいって!」
「途中省略しました」
「とにかく、奄美の人はそうやって貧しい生活を強いられていたから、逆に人に対するおもてなしが、食べさせる方向に向くんだよね」
「あー、わかるわかる。奄美で人に会うとみんな山盛りご飯食べさせてくれるもんね。『みしょりよー、みしょりよー』って普段の3倍は食べてしまう。危うし、乙女の体重!」
「お土産とかも、そうめんとかうどんとか、おもちとか日持ちする食べ物が喜ばれるっていってた」
「なんか食べものに対する執着があるね」
「あと、奄美には日本の郷土料理100選に選ばれた『鶏飯』があるね」
「みなとやさんの鶏飯、サイコー」
「鶏飯は奄美の家庭の味といってもいいかもね」
「あの濃厚なスープ作りたくて、鍋の前にはりついて週末まるまるつぶしたことあるわ」
「素直に食べに行った方がいいと思う」
「あたし案外こういうのを突き詰めるタイプやから……結局、突き詰めすぎて白湯スープ化したけど」
「別物だから! 突き詰めるっていうか煮詰めすぎて違うものになってるから!」
「あの黄金スープ、あれだけはまだまだ謎やわ」
「素直に隣のカツミさんあたりに作り方聞きにいってください」
「うぃ、ところで奄美の独特スイーツみたいなんってなんかある?」
「スイーツねぇ……やっぱり黒糖を使ったものが多いかな」
「そうやねんけど、なんか黒糖って沖縄とかぶるやん? フルーツもマンゴーとかは宮崎の方が有名やし」
「フルーツだったら『たんかん』!あれにかなうミカンは国内には存在しないと思うよ」
「珍しく大きく出たやん? でも『たんかん』って、この冬は関西では見かけへんかったけど……」
「……ミカンコミバエにやられたからな、昨シーズンは」
「ミカンコミバエ? なにそれ! 怖い!」
「ああ、果実につく害虫で、これが実につくと一気に害が広がるから、出荷ができなくなるんだって。ラジオでいってた。今年は奄美のタンカンはほとんど廃棄されたらしいよ」
「うわぁ、もったいない……ところで、ミカンコミバエってどこで区切るの?」
「……ミドリさんはお気に入りの奄美の食べ物なにかある?」
「流したし!あたしの質問さらっと流したし!」
「仕方ないだろ、知らないものは答えられないよ。はい、ミドリのソウルフード、どうぞ」
「うーん、そうやなぁ……ファミチキ?」
「ファミチキって! たしかに奄美に今年初めてファミマできたけど! ファミチキはソウルフードちゃうから! 全国区!」
「そういう意味では日本のソウルフードといえるね、ファミチキ! あれで鶏飯作ったらどうやろ?」
「なんか一気にジャンクフード化したんだけど?」
「ソウルとかジャンクとか難しいね。ところで、シマ唄にはそういう食べ物の唄ってあんの?」
「おオォッ⁉︎ 3回目にしてようやくシマ唄の話題がミドリから出たね?」
「さすがにね、これ以上無視したらあかんでしょ?」
「そうだなー、思いついたのは『いゅんむィやんむィ節』かな?」
「ホワッツ?」
「いや、英語違うから! しかもミドリの英語の成績バラそうか?」
「ゴメンて、それでなんていったん?」
「今の言葉にすると『ゆんみ兄節』ね」
「で、どんな唄なん?」
「唄はこんな感じ
〽いゅんむィ兄 目鼻ぬ切りたる いゅんむィ兄
南蛮瘡 出じとぅてぃ 辛塩かでぃ ソラ辛塩かでぃ
という唄なんだけど」
「あれ? なんか聞いたことあんねんけど……」
「実は行きゅんにゃ加那の元唄だといわれているんだよ。メロディーが同じでしょ?」
「ホンマや! どうりで知ってると思った! それで意味は?」
「ゆんみ兄さんに対する問答唄なんだ。 目鼻がかぶれたゆんみ兄さんに対して、南蛮瘡、つまり梅毒が出たことを、どうしてそうなったのか問いかけるんだ。すると悪石島の塩辛の傷んだものを食べてしまったものだから、顔中に腫れ物ができたっていう話を面白おかしく唄ってるわけ」
「なんか軽くホラーやねんけど! しかも悪石島って、名前だけでもうそこの塩辛なんか食べたらあかんやん!」
「こらー! またクレーム来るから! 悪石島の皆さんホンッとうにごめんなさい! 悪石島は奄美の北、トカラ列島の中にある島のひとつで、自然豊かな素敵な島ですから! 皆さんも機会があったら是非訪れてみてくださいね!」
「なんかフォローが凄いねんけど」
「どの口がいうか! とにかく、この唄でもそうなんだけど、昔の人はやっぱり食べるものには苦労していたんだと思うよ。ちなみに、この唄では生傷みの塩辛を丼飯3杯でかきこんで食べたって続くんだ」
「そう思うと今のあたしたちって恵まれてるよね。奄美って離島やけど大抵のものは食べられるし、食の安全だって確保されてるもんね」
「そうだな。あ、そろそろ時間ですか? そうですか。それにしても、色々と食べ物の話してたらお腹すいたね。番組終わったら何か食べようか? 何にする」
「そうやね、やっぱり……ファミチキやね!」
「ま、女子高生のフトコロ事情なんてそんなもんだよな」
――この番組は『シマ唄の未来を考える、奄民』奄美民謡研究部の提供でお送りしました。