4-12 大和の冒険者ギルド
美琴と会って一日が経ち、拓海と胡桃は久々に依頼を受けるため冒険者ギルドの大和支部に来ていた。大和の冒険者ギルドは島の中心にある美琴の屋敷に続くメインストリートの途中にあり、大和では珍しい二階建ての大きな建物である。
「アストレアよりは小さいけど、大和もでかいな……。それで今日はどんな依頼を受けるんだ?」
「うーん、今日は討伐系の依頼じゃなくて採取系の依頼を受けるつもりだよ」
「採取系の依頼か……」
拓海は胡桃の提案に残念そうな表情を浮かべた。
「まだ拓海は万全な状態じゃないでしょ? それに拓海は大和周辺の地理感をつけるって意味合いもあるんだから気合い入れてね!」
「なるほどな。まあ、モンスターが襲ってきたりしたら戦うけどね」
「今日は出来るだけ私がモンスターを片付けるよ。拓海はとりあえず前みたいに魔法が使えるようになるまで大人しくしてなよ」
心配そうな顔をしてこちらを見る胡桃を見た拓海は一度ため息をついて諦めたような表情を浮かべて胡桃を見つめた。
「わかったよ。しばらく調子が戻るまでは自重するけど、助けが欲しかったりしたら声をかけてくれよ。万全じゃなくてもある程度は戦えるんだからさ」
「うん! 頼りにしてるよ!」
二人は建物に入いると何人かがこちらに気づくとひそひそと何かこちらを見て話し始めるのが拓海の目に入った。
(何だ? 感じ悪いな……)
二人が受付まで行くと、受付嬢が驚いて胡桃を見ていた。
「あれ? 胡桃ちゃん帰って来たんだ! 久しぶりだね」
「あはは、お久しぶりです。今日は二人で依頼を受けに来たんだけど……」
「二人で依頼……って後ろにいる男の子と?」
「うん! あ、カード出してね拓海」
胡桃の後ろにいた拓海は自分のマジックバックから冒険者の証であるカードを受付に提示すると、受付嬢は拓海の顔をまじまじと見つめて胡桃に視線を戻した。
「あなたが志乃ちゃんとお兄さん以外の人と一緒に依頼を受けるなんて珍しいわね……」
「最近アストレアでパーティーを組んだの。そういえば志乃は元気にしてる? 大和を出た時から会ってないからさ……」
誰にも何も言わないで大和を出たので大和の知り合いの人達に少し罪悪感を覚えていた胡桃は申し訳なさそうに受付嬢に尋ねた。
「ええ。あの子は相変わらずよ。最近パートナーを見つけて二人で依頼をこなしているわよ。今日も朝早くから依頼を受けて出ていったわよ」
「そっか! また今度家に遊びに行こうかなぁ……」
友達が相変わらず元気そうだということを知った胡桃は嬉しそうに頰を綻ばせていた。
「志乃って人は胡桃の友達か?」
「うん! 私が幼い頃からの友達だよ! 今度紹介するよ」
嬉しそうにしている胡桃に受付嬢は依頼書のコピーが大量に入ったファイルを胡桃に渡した。今日は胡桃に受ける依頼も任せてあったので拓海はその様子を見守っていると背後から複数人の視線を感じた。
(何だ? ここに入ってきてからずっと見られている? いや睨まれているのか?)
一人思考を巡らせていると受付嬢がにやにやしながら拓海の袖を引っ張て手招きをしていた。拓海が受付嬢の方を向くと受付嬢が胡桃に聞こえないくらいの小声で拓海に話しかけてきた。
「ねえ。君って胡桃ちゃんと付き合ってるの? あの子が自分のお兄さん以外の男の子と一緒にいるのを初めて見たからさ」
「いやいや、そんな関係じゃないですよ!? それにここの建物に入ってから色んな人に睨まれてるんですけど……」
「それはほら。胡桃ちゃんって可愛いでしょ? お兄さんが怖くて皆んな中々話しかけにいかないけど、胡桃ちゃんは大和でかなり人気なのよ。そんな胡桃ちゃんと一緒に歩いている男がいたらそりゃ睨まれるでしょ」
(なるほど、俺が思っていた以上に胡桃は人気者なんだな……)
拓海が一人納得していると依頼書の入ったファイルを見ていた胡桃が拓海の袖を引っ張ってきた。
「拓海! この依頼なんかどう? 一応森の奥地まで行くけど地理感は掴めると思うよ!」
「どれどれ……」
拓海は依頼書を覗き込んだ。どうやらCランクの依頼で大和の森で珍しい薬草を採取するというものだった。
「採取系の依頼なのにCランクなんだな」
「そうだよ。大和の森にもそれなりに凶暴なモンスターが住んでるからね」
二人が依頼を決めて依頼書を受付嬢に差し出すと受付嬢は手続きを始めた。
「あ、そうだ。依頼の場所的にもしかしたら志乃ちゃんと出会うかもね」
そう言って受付嬢は依頼を受けた拓海と胡桃を手をひらひらと振って見送った。
(うーん、あの拓海って子……何か引っかかるわね。見覚えがあるというか何というか……あ! もしかして!)
受付嬢は何か閃いたのか満足そうな笑みを浮かべるのだった。
ようやく落ち着いてきたので、そろそろ更新速度戻りそうです( ´∀`)




