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異世界に導かれし者  作者: NS
第4章 新たな地『大和』へ
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4-7 二人だけの秘密


「随分遅くなっちゃったね〜」


「そうだな、灯りを持ってなかったらこの辺り何も見えないよな」



 十六夜の家を出た拓海と胡桃の二人は大和のメインストリートに向かってゆっくりと歩いている。畑や田んぼの側を通ると、時折虫の鳴き声が聞こえた。



「あ、そういえば俺は宿を探さないといけないな……」



 拓海がそう思い出したように呟くと胡桃が予想外の提案をしてきた。



「私の家で泊まっていいよ〜」


「え、でも家族とかの許可がないと無理だろ?」



 拓海の言葉に胡桃は少し寂しそう笑いながら拓海に言葉を返した。



「私の両親は小さい頃に死んじゃったらしくてさ。今の家族はお兄ちゃんだけだよ。お兄ちゃんも多分家に帰ってないだろうし気にしないでいいよ……」


「ご、ごめん。嫌な質問したな……」


「大丈夫。気にしないで」



 知らなかったとはいえ胡桃に嫌な質問をしてしまった拓海はしばらく胡桃の方を見ることが出来なかった。



(そういや、胡桃が自分の両親について話した事がなかったな。申し訳ないことをしちゃったな……)



 申し訳なさそうな顔をした拓海の様子を横目で見た胡桃は苦笑して拓海に明るく声をかけた。



「そうだ! 拓海に見せたいものがあるの!」



 いつもの胡桃の元気な声を聞いて拓海は少し安心した。



「へ〜! どんなものなんだ?」


「ふふっ! それは見てからのお楽しみだよ!」



 上機嫌な様子で歩く胡桃についていき、しばらくするとようやく大和のメインストリートに出た。メインストリートにはまだ沢山の人が出歩いて、大抵の店は営業していた。やはり大きな街の大通りは夜でも賑わっているようだ。


 メインストリートを歩き始めてしばらくすると胡桃が突然立ち止まった。



「晩御飯は……家に何かあったかなぁ? 拓海って何か苦手な食べ物とかあったりする?」


「特にないよ。もしかして何かーーーー」



 そこまで言いかけた拓海はふと、この前野宿した時に胡桃が肉を焼くだけでも毎回黒焦げになると言っていたことを思い出した。



(胡桃って料理作れるのか……?)



 突然黙って何かを考えている拓海に胡桃はジト目を向けた。



「ちょっと拓海。今何か失礼なこと考えてなかった?」


「あはは……。いやいやそんなことないぞ。そろそろお腹空いてきたなって思ってさ」


「本当に? まあいいや。とりあえず家まではまだ少し時間がかかるから我慢してね!」



 それからしばらく島の中央の大きな屋敷に続くメインストリートを進んでいき、しばらくしてまたメインストリートから外れて曲がりくねった坂を登っていった。


 二人が二十分くらい坂道を歩いた所で坂が終わり平地に出ると目の前には大きな庭を持つ立派な屋敷が立っていた。



「もしかしてこれが胡桃の家?」


「うん! ここだよ!」



 拓海は胡桃について玄関に入ると思わず声をあげてしまった。玄関に入ると高級な旅館のロビーのような空間が広がっていて、長い廊下が向こうの方まで続いているのが見えた。



(亡くなった両親がお金持ちだったのかな? これは予想外だったな)



 キョロキョロと周りを見渡す拓海に胡桃はくすりと小さく笑みをこぼした。



「まずは晩御飯にしよっか! 結構家が広いから迷わないようについてきてね」


「あぁ。本当に一人だと迷いそうだな……」



 それからトイレ、風呂、台所といった場所を教えてもらってから拓海は大きめの丸い形のちゃぶ台と座布団が置いてある畳の和室で胡桃に待っているように言われた。



(やっぱりでかいよな……この家。元の世界でもここまで立派な家は初めて見たぞ)



 部屋の壁に掛かっている掛け軸や、壺を見つめながら二、三十分胡桃が来るのを待っていると障子を開けて私服にエプロン姿の胡桃がお盆を持ってきた。



「ふっふっふ! 私だって料理くらい出来るんだから!」


「お、出来たのか! どれどれ……」



 ちゃぶ台に胡桃が勢いよく二枚の大皿と一枚の小皿が乗ったお盆を置いた。



(うん、知ってた……)



 二枚の大皿にはいびつな形をした大きさがバラバラのおにぎりと黒く焦げて炭化した野菜がちょこちょこ混じった野菜炒めが乗っていた。



「ど、どうかな? 頑張って作ってみたんだけど……」



 胡桃が心配そうに拓海を見つめていると、拓海は黙って小皿に野菜炒めをとって、おにぎりを一つ手に取るとがつがつと食べ始めた。あっという間に一つおにぎりと小皿にとった野菜炒めを食べ終えた拓海は笑顔を浮かべた。



「美味いぞ胡桃! これ全部食べてもいいか?」


「えへへ……ありがと! うん! 大丈夫だよ。おにぎりがまだ台所に少し残ってるからさ」



 胡桃はそう言って部屋を出て台所に向かった。



(ちょっと野菜が黒くなっちゃったけど拓海が喜んでくれて良かった……)



 そんなことを考えながら上機嫌で胡桃は台所へおにぎりをとりに廊下を歩いていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 胡桃が部屋を出て行ってしばらくして拓海はおにぎりと野菜炒めを完食してから、仰向けに寝転がって部屋の天井を見上げていた。



(おにぎりはしょっぱいし、野菜炒めは苦かったな……。今度、料理を教えてやるか……)



 しばらくして、台所でおにぎりを食べてきたと表情を曇らせた胡桃が部屋に戻ってきた。



「ごめん、ちょっと塩辛かったよね……」


「あはは……。まあ、気にすんなよ。今度一緒に何か料理作ろうぜ」


「うん! ありがと。ちょっと食べてすぐで申し訳ないんだけどついてきてくれる?」


「ん? 別に構わんよ」



 胡桃についていき二階に上がる階段を登ってある部屋に入ると天井に向かって梯子が掛かっていた。



「これを登るのか?」


「うん。ついてきて!」



 拓海は言われた通り胡桃の後ろから梯子を登った。そして梯子を登りきって屋根の上に出ると目の前には絶景が広がっていた。



「どう? これが拓海に見せたかったものだよ!」



 屋根の上からは大和の街を一望することが出来る上に夜空には沢山の星が一杯に広がっていた。



「すげぇ……」


「でしょ? 昔から私は嫌な事があったり、自分の気持ちを奮い立たせたい時はいつもここの景色を見るの」



 寝そべって夜空を見上げる胡桃の隣で拓海も同じように寝転がった。



「何か胡桃の気持ちがわかるよ。この景色を見たら嫌な事とか忘れちゃいそうだな……」


「ふふっ、ここは私だけの秘密の場所だったんだよ! 今日拓海に教えたから二人だけの秘密だね!」


「ははっ! わかった。二人だけの秘密な」



 二人は会話が途切れた後、お互い様々な事を思いながら飽きることなく満天の星々を眺め続けるのだった。


今回は長くなってしまった……。二話分に分けた方が良かったかな??

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