2-2 到着!聖都アストレア
聖都アストレアは街全体が高く丈夫な白い外壁で覆われている。それに加えて外壁は高度な結界魔法で覆われていて、余程のことが無い限りどんなモンスターの攻撃も通さないらしく、その安全性と大都市に囲まれたその立地の良さから多くの人が住み、物流も良い。あらゆる地方から多くの物と情報が集まる大都市であった。
そして、この街の中心には街のシンボルであるアルカディア城という見上げても一番上まで見えないような程高く、立派な城がそびえ立っている。この城には魔法の研究所や訓練所や一部一般開放されたフロアには飲食店など様々な施設があるだけでなく、冒険者連盟の本部もこの城の中にあった。
また、聖都の専属の騎士団である『アストレア聖騎士団』というアストレアの街の治安や、周囲の依頼をこなす冒険者達で構成され集団がある。この騎士団は入団条件が冒険者でAランク以上が最低条件という先鋭揃いの集団で、三本の剣が交わり六枚の天使の羽が周りに浮かんでいるという共通のシンボルマークが刻まれた鎧を身につけているらしい。
そんなアストレアの説明を胡桃から聞きながら過ごしてると、二人の聖都へ入るための手続きが終わった。
ちなみに胡桃が自分の連れだと言ってから手続きを行い、拓海に身分証のようなものはなかったが何ごともなくスムーズに手続きは進んだようだ。
「ふ〜やっと着いたな!」
「ふふっ、あ、そうだ。途中でモンスターを何回か倒したでしょ? 剥ぎ取った素材を売ればしばらく生活に困ることはないからとりあえず市場に行こっ! 宿はその後探しに行こっか」
「あぁ、分かった」
聖都アストレアはアルカディア城を中心に東西南北に伸びる四つの大通りがあり、その四つの通りを中心に宿屋、家、店など様々な建物や露店がたくさん並んでいる。
この世界で住んでいる住人が一番多いだけあって夜なのにまだ沢山の人が出歩き、営業中の店が多かった。
二人はとりあえず町に入って大通りから一つ外の通りに入って、すぐ近くにあったモンスターの素材を扱う雑貨屋のような三階建ての店に入った。店に入ると壁中に様々なモンスターの素材や、鉱石といったどこから入手したのか検討がつかないような素材が沢山売られていた。
後々胡桃に聞いた話では店の奥になるほど希少な素材が売っているらしい。
「おぉ……何か色々売ってるな〜。それで素材はどこで売るんだ?」
「多分、奥に店の人がいると思うから聞いてみて」
拓海は胡桃が言った通り店の奥に行き、一人年をとったおじさんの店員に素材を売りたいと言って渡すと、しばらくお待ちくださいと言って受け取った素材を手に店の奥に入っていった。
そして、素材の鑑定が終わったら呼ぶから店で待っていて下さいと言われた拓海が胡桃の元に帰ると……。
目を輝かせた胡桃が一人素材を見て回り興奮していた。
「これ、幻獣の一角だ!! うわっ! こっちには炎龍の鉤爪まである!! 値段は……金貨百枚!? 高すぎるよぉ……」
どうやら冒険者になると珍しい素材を見ると興奮するようになるらしい。拓海は早口で珍しい素材の解説を始めた胡桃を生温かい目で見守っているうちに店の奥から呼ばれた。
どうやら素材の鑑定が終わったようだ。
「ほら、全部で銀貨三枚に銅貨五枚ね」
「あ、はい。ありがとうございます」
拓海がお金を受け取ると、視線を感じた拓海は自分の顔をまじまじと見つめている店員に気付いた。
「あの、何か?」
店員は店の入口の方にいる胡桃に軽く視線を向け、拓海に視線を戻した。
「お客さん、あの人と知り合いかい?」
「あの人って……胡桃のこと?」
不思議そうな表情を浮かべた店員が黙って頷く。
「いやぁ、あまりお客さんを詮索するのは良く無いですけど、『黒流星』さんが人を連れているのを初めて見ましてな」
「なるほど……。まあ、胡桃は恩人かな」
「ふむふむ」
どうやら胡桃はアストレアではソロで活動しているらしく、この店の常連客らしい。店員はそんな胡桃が人を連れて来たことに驚き、格好からして冒険者仲間にしてはそうには見えなかった拓海が何者なのか気になったようであった。
初対面の客に対して詮索してしまったお詫びとして店員は拓海に銀貨を一枚追加で手渡し、ご贔屓にと頭を小さく下げたのであった。
それから素材を売ってお金も増えた拓海は、一人興奮していた胡桃に声をかけて我に返らせ、二人はご飯付きの宿を探すことにした。
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店を出てからそのままその通りを歩いていると、隣を歩く胡桃は何かを見つけたのか拓海の袖を引っ張った。
「どうした?」
「あそこの宿にしよ! 一度泊まったことがあるんだけど一部屋一部屋が大きいし、何よりあそこは料理も美味しいんだよね!」
胡桃が指差す建物は色が白く、一階の天井が高い奥に広い四階建ての小綺麗な建物だった。
「ならそこにしようかな? 宿泊費はどのくらいなの?」
「確か三食付きで一泊銅貨十五枚だったかな?」
「まあ高いのか、安いのかはまだよくわからないけどまあいいか……」
二人が宿に入るとエンデ村の宿と同じようにどうやら一階は酒場になっているらしく、仕事終わりの街の人達で賑わっていた。
店に入って胡桃は早速奥にいた管理人の女の人に声をかけにいった。
「管理人さんこんばんは! 朝食、夕食付きで一泊二日で二部屋借りたいんだけどいいかな?」
「あら! 久しぶりね胡桃ちゃん。残念ながら今一部屋しか空きがなくてねぇ……。ん? 二部屋ってことは今日は誰か連れがいるの?」
拓海は胡桃の後ろから遅れてやってきて、管理人に軽く会釈した。
「あらあら……なるほどねぇ……」
すると管理人の女性は拓海を見て驚いた様子を見せながら一人納得したように頷いていた。
そして拓海は部屋に空きがないと聞いて他の宿でも探すかと胡桃に提案しようとした時、胡桃がとんでもないことを言い始めた。
「ん〜〜……ん、よし! 一部屋でいいわ! 部屋も広いし何とかなるでしょ!」
そう胡桃が言った瞬間、管理人は一瞬驚いた顔をしてからニヤニヤと笑みを浮かべながら拓海に目を向けた。
しかし、そんな視線どころではなく、拓海は今の胡桃の言葉を理解出来ずに目を白黒させていた。
(ん? えっと、あの……胡桃さん? 普通出会ってまだそんなに立ってない男性と同じ部屋で寝泊まりするものなのでしょうか??)
後で胡桃から聞いた話だと、胡桃はどうしてもここの夕食を食べたかったらしく、俺と同じ部屋で寝泊まりすることと天秤にかけたところどうやら食が勝ったらしい。
そして管理人さんが胡桃に拓海のことを彼氏かと聞くと顔を赤らめて否定していた。当たり前のことなのではあるが、拓海は少し傷ついた。
そんなこんなで宿を決めて、席に座った二人が雑談しながら夕食を待っていると、夕食が運ばれてきた。
「おぉ……」
「これだよ! これが食べたかったんだよー!」
メインは大和という島国付近にしか生息しない海の幸をふんだんに使った海鮮丼で、他には聖都の近くで採れる植物を使ったサラダ、あとは食べると体を温めてくれる薬草から出汁をとったスープが運ばれてきた。
待っていましたという勢いで胡桃はうっとりしながら大好物の海鮮丼を口にかきこんでいた。
「ん〜! ん〜ん〜ん〜!! (うわ〜! やっぱりこの海鮮丼最高!!)」
「あはは、落ち着いて食べなよ」
確かにこの海鮮丼はかなり美味しかった。これは胡桃がこれを食べるためにこの宿を選んだのも頷けるなと思った。
拓海は海鮮丼を食べながら、不意に胡桃の方に目を向けた。すると、海鮮丼を口にかきこむ胡桃が妹の柑菜の姿と時折被って見えてしまい思わず手を止めてしまった。
拓海の手が止まり、表情が曇ったのに気付いた胡桃は食事の手を一旦止めて不思議そうに首を傾げた。
「拓海? どうしたの?」
「あぁ……いや、何でもない」
(そういえば、柑菜も海鮮丼好きだったな。もう二年前から買ってあげることも出来てなかったけど……。柑菜は今頃何をしているかな……)
そんな風に考えながら食べている内にお腹も空いていた拓海も胡桃に続いてあっという間に食事を終え、二人は食事を済ませて部屋に向かうのだった。