4-6 拓海の刀
「それにしても久しぶりですね師匠! 多分いないだろうなって思ってたんですけど」
桜は目を細めて口元に手を当てて小さく笑った。
「胡桃は相変わらずですね。そうですね……どこから話しましょうか。先日アストレアで大規模な防衛戦があったことは知ってますか?」
「知ってるも何もその防衛戦に私達も参加してたよ。敵の大将も知ってるよ」
「あら、胡桃はアストレアに行ってたのですね。ならば、そこで指揮をとっていた魔将のことは知っていますよね? これは本来他言無用ですが、あの戦いの後、各国に魔将達を筆頭にした魔族からの宣戦布告の手紙が送られたのです。国中がパニックにならないようにまだ公表はしていないそうですけどね」
「あの後そんなことがあったのか……。それにしてもわざわざ宣戦布告するってことは相当自信があるんだな」
「それで私は所属するパーティーに暇を貰って、しばらくは大和に滞在するつもりです。あ、それはそうと二人とも今日は何か用があったのでは?」
桜の言葉に胡桃は一つ頷くと、隣に立つ拓海の方を向いた。
「ん? どうした胡桃?」
「今日は拓海の刀を作ってくれないかなぁって師匠に頼みにきたんだよ! ほら、オーダーメイドの刀にしたいとか言ってなかった?」
「なるほど、お金を払ってくれるなら作ってあげますよ。値段は可愛い弟子からのお願いということで多少は安くしますよ」
桜は拓海を見つめ腕を組みながら声をかけた。
「確か師匠は刀に使うモンスターの素材によっては魔刀を作れるんだよね?」
「えぇ……。何か素材はあるのですか?」
「すまん、魔刀って何だ?」
桜の説明によると、通常の武器ではありえないような特殊な力を持つ刀を魔刀というらしい。例えば使用者が火属性を持っていないのに刀に火を纏うことが出来るものとかがあるらしい。
「へ〜! そんなことが出来るのか! 素材はあります」
拓海がマジックバックからバンダースナッチの素材が入った袋を桜に渡した。袋を受け取った桜は中に入った素材を確認すると少し驚いていた。
「バンダースナッチですか。桐生さんの冒険者のランクってどのくらいです?」
「えっとBですね。バンダースナッチは俺と胡桃と今はいませんがアイリスって仲間の三人で討伐しました」
桜は顎に手を当て拓海を上から下まで見ると笑みを浮かべ、胡桃に近づいて耳打ちした。
「彼がランク以上の実力を持っているのはわかったわ。何となく魁斗に雰囲気も似ているし、中々良い子を見つけましたね」
「えへへ……。お兄ちゃんと雰囲気が似てるのはわかるけど、別にそれだけじゃないからね! 私は拓海自身のことが気に入ってパーティーを組んでいるんだから!」
拓海はこそこそと話す師弟コンビを見て、何を話しているのか気になったが、ふと忘れていたあることを思い出しマジックバックを探った。
「あ、あと一つ素材があるんです。アストレアを出る前に無理を言って買ったんですけど……」
拓海はそう言いながら自分のマジックバックから一つの透明なケースを取り出した。ケースの中には一枚の何かのモンスターの鱗が入っている。その鱗は全体的に蒼みがかっていて黒いオーラが渦巻いている。
「!? 何のモンスターの素材ですかそれは?」
「え、師匠でも見たことないんだ」
「俺もわかんないけど、初めて見た時から気になっててさ。アストレアの素材屋で街を出る前に託されたんだ」
三人は色々と雑談を交わした後、拓海は桜に素材とお金を払って魔刀の注文をした。桜に素材の扱いとかで少し時間がかかると言われ、一週間後に取りに来てくれと言われた。
拓海と胡桃が外に出ると既に外は暗くなっていた。桜の家はそこそこ高い位置にあるので、海を眺めることが出来た。
「おぉ、綺麗だな……」
「うん……綺麗だね……」
満天の星空が海の表面を照らしていてキラキラと光っている。拓海と胡桃の二人はしばらくの間その幻想的な景色を時間を忘れて眺め続けるのだった。




