4-5 大和
「おぉぉぉ……!!」
夕方頃に胡桃と共に大和に到着した拓海は船から下りて、目の前に広がる大和の風景に思わず感嘆の声をあげた。
大和の道はアストレアみたいに舗装されているわけではなく、自然の地形に沿って建物が建てられているようだ。そしてアストレアとは違い木造建築の建物が多くて、そこまで背の高い建物がいくつも建っていない。
拓海は緑と黄色の葉が生い茂る木が所々にあったりと、自然と上手く調和している街という印象を受けた。
隣で感嘆の声をあげる拓海を横目で見た胡桃がくるっと回って拓海の正面に立ち笑顔を浮かべた。
「ようこそ大和へ!」
それから大和の街を散策したいと、しばらく不審者のように周りの風景をキョロキョロと見回す拓海に胡桃が苦笑を浮かべると拓海に声をかけた。
「ねえ、ちょっとついてきて欲しい所があるんだけどいいかな?」
「おう、俺は大和のことはさっぱりわからないからついて行くぞ」
拓海は胡桃の後ろを追いながら、道を曲がったり、坂道を上がったり下がったりを繰り返し歩いて行くこと約三十分。街の外れに一軒の背の低い家がぽつんと建っているのが見えた。家には煙突がついていて、もくもくと煙が上がっているのが見える。拓海の少し前を歩く胡桃は家から煙が出ているのを見てホッと胸を撫で下ろした。
「よかった……。今日は家にいるみたい」
二人がその家の扉の前に立つと、胡桃がノックして声をかけて扉を開いた。
「胡桃です! 入りますね〜!」
胡桃の後ろに続いて拓海も家にお邪魔した。家の壁中には様々な武器、防具が吊るしてあるのがわかった。
そして、家の奥にある竃の前で小型のハンマーを振るう女性の後ろ姿が目に入った。家に入ってきた胡桃と拓海に気づいた女性は作業の手を止め、こちらを振り向いた。
作業をしていたのは暑かったのかさらしを巻いて着物をはだけさせていて、髪を後ろで一つに縛っている、目がキリッとした黒髪の女性だった。
「あら、久しぶりですね胡桃。おや……? そちらの少年は?」
「桐生拓海です。冒険者で胡桃とパーティーを組んでいます……。あの、初対面で申し訳ないんですが、その格好はちょっと……」
女性は拓海の言葉にキョトンとして自分の姿を見直し、頰を少し赤らめるとすぐに身だしなみを整えた。その様子を見た胡桃は苦笑いをしながら女性の紹介を始めた。
「あはは……。紹介するね! この人は十六夜桜さん。鍛冶屋と冒険者をやっているよ! そして私の師匠だよ!」
「さっきはみっともない姿を見せてしまいましたね……。よろしく、桐生さん」
拓海はまさか胡桃が紹介した人が胡桃の師匠だったとは知らずに驚きを隠せずにいるのだった。




