4-3 港街ミンスク
「ふぅ……ようやく着いたな」
拓海と胡桃は朝から歩くのを再開し、陽が真上に上る頃にようやく港街ミンスクに到着した。ミンスクにはアストレアのようなでかい建物がなく、街中には海の方から流れてきたのであろう潮の香りが漂っていた。
ミンスクにいる冒険者は他の有名な都市に比べて人数が結構少ないらしい。どうやら海を挟んでもっと栄えている大和があるから、ほとんどの冒険者達はそっちに流れていくようだ。
二人は街に入ってから広場のベンチに腰を下ろし、一息をついていた。
「あ、そういえば大和への船は何時頃にくるんだ?」
「ん〜確か三時間毎に船が出てるから次来るのはまだ少し先だね」
「とりあえず昼飯を食べてから船乗り場にいけばいいか……」
それから二人はしばらく街中を歩いて回ると、拓海は船乗り場の近くでいい感じの雰囲気を醸し出している定食屋を見つけた。
「お、ここの店なんかどうだ? 胡桃が好きな海鮮丼とかあるっぽいぞ」
「え! どこどこ!」
拓海の声に反応して目を輝かせて店の前に置いてあるメニュー表に飛びついていく胡桃を見て、拓海は少し安心して小さく笑みを浮かべた。
(よかった。何時も通りの胡桃の調子に戻ったようだな)
その後、胡桃がこの店で食べたいと言いだしたので二人は店に入った。店は一階建ての店だが天井が高めになっていて、天井には羽根が風魔法で回っているシーリングファンのようなマジックアイテムが取り付けられていた。
二人がテーブル席に座り、それぞれ注文をしてから大和に行くことを決めてから気になっていたことを話し始めた。
「なぁ、そういえば大和には刀とか売ってるのか? あるなら買いたいんだけどさ」
本当は最初武器を買った時に刀があれば買うつもりだったが、アストレアですら刀はあまり出回っていなくて結局諦めたのだ。
胡桃は拓海の質問にこくりと頷いた。
「うん! もちろんあるよ! まあ作れる人が限られているから、大和以外ではあまり出回ってないんだよね……。ちなみに大和の冒険者は刀を使ってる人が多分一番多いよ!」
「そうなんだ。地域によってよく使われる武器って変わってくるのか……。あ、そうだ。せっかくだし、バンダースナッチを討伐した時の素材とお金でオーダーメイドで作ってみようかな? 大和に着いから情報収集とかするつもりだったし、しばらく魔法をあまり使うなって言われてるからな……」
「オーダーメイドかぁ……」
胡桃は何か思いついたのか一人頷いていると若い男性の店員が二人が注文した海鮮丼を運んできた。
「当店自慢の海鮮丼二つ! お待たせいたしました!」
「うわあぁぁ……」
胡桃はその海鮮丼を見て、ごくりと唾を飲み込み目を輝かせていた。
拓海がいた世界では見たことがないようなカラフルな身を持つ様々な魚の刺身が沢山盛り付けられていた。
(すげえ綺麗だな……)
そして拓海と胡桃がいただきますと手を合わせた瞬間、胡桃は自分の海鮮丼を凄い勢いで食べ始めた。
「ん〜〜! おいひぃっ!」
「おいおい……。喉に詰まらせないようにな」
がつがつと海鮮丼を食べ進める胡桃を見て苦笑しながら拓海も海鮮丼を食べ始めた。
(ーーーーっ!? なるほど……。胡桃がここまで凄い勢いで食べているのも頷けるな。産まれて初めてここまで美味しい海鮮丼を食べたな……)
その後、五分ほどで海鮮丼を食べ尽くした胡桃は満足そうにうっとりと海鮮丼を食べた余韻に浸っていた。
「良い食べっぷりだったな。本当に海鮮丼が大好物なんだな胡桃は」
「うん! 昔から大好物だよ! あ、そういえば拓海は自分がいた世界ではどんな物が好きだったの?」
「好きな物……ねぇ……。そうだな、ここ数年食べてないけど鰻とかかな」
「好物なのに数年食べてないの? えっと……その鰻ってやつ」
「まあね。値段が高くて食べたくても流石に買う気にならないんだよな」
胡桃は拓海の言葉に首を少し傾け、不思議そうな顔をした。
「鰻ってやつを討伐すればタダで食べれるんじゃないの?」
胡桃の言葉に拓海は笑いながら答えた。
「いやいや鰻を討伐って。まあ前にも話したけど、この世界と違って色々ルールとかがあって複雑なんだよ」
「よくわかんないけど好物が食べれないのは辛いね……」
拓海が海鮮丼を食べ終えてしばらく談笑した後勘定を済ますと、もうすぐ船が到着する時間なので二人は船乗り場まで歩いていった。
そして船乗り場についた拓海は目の前に広がる光景に目を見開いた。
「おぉ……凄い綺麗な海だな……。こんな綺麗な海、初めて見た」
船乗り場から見える海は水が澄んでいて、結構深くて泳いでいる魚まで見ることが出来た。
その後、二人が船乗り場に着いて三十分も経たないうちに到着した立派な船に拓海と胡桃は乗り込むのだった。




