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異世界に導かれし者  作者: NS
第4章 新たな地『大和』へ
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4-2 星に願いを

 アストレアを出発した拓海と胡桃の二人は視界一杯に広がっているどこまでも続いていそうな草原を朝からひたすら歩き続けていた。空を見上げると、既に陽が落ち始めていた。



「結構歩いているけど何もないなぁ……。ミンスクにはいつ頃着くんだっけ?」



 拓海は背負っているマジックバックに入れていた水筒の水を一口飲むと、隣を歩いている胡桃に質問した。大和に行くには港街ミンスクから出ている船を乗らなければならないといけないので二人はまずミンスクを目指して歩いているのだ。

 

 しかし、胡桃はアストレアを出た時からどこか上の空で拓海の質問が聞こえていないようだった。拓海は歩きながら上の空の様子な胡桃を見ると一度ため息をついて、胡桃の肩をトントンと叩いた。



「ひゃっ!? な、何? どうしたの拓海?」


「それはこっちの台詞だよ。ミンスクにはいつ頃着くのかって、さっきから聞いてるんだけど。どうなんだ?」


「あはは……。えっと、今日は野宿するとして明日の朝からまた歩き続ければ昼頃には着くと思うよ!」


「まじかよ……。ということはまだ半分くらいしか歩いてないのか……。まあ、それはそうとさっきから胡桃が上の空な感じがしたんだけど、どうしたんだ?」


「えっ!? そ、そんなことないよ! 気のせいだよ! 気のせい! あはは……」



(とか言いながら動揺しまくってるじゃないか……。相変わらず胡桃は嘘が下手だな……)



 目を逸らして、必死に誤魔化そうとしている胡桃を拓海は横目で確認すると言いたくないなら、まあいいかとこれ以上追及しないことにした。


 しばらくして陽が完全に落ちて、二人はアストレアで購入していた光魔法で周囲を照らすマジックアイテムを使いながら歩いていると周りに木が何本か立っている小さな湖を見つけた。



「今日はこのくらいにして、ここら辺で泊まろ!」


「そうだな。流石に歩きっぱなしで足が疲れたな……」


「ふふっ! このくらいだったら私はまだまだ大丈夫だよ〜」


「やっぱり何年も冒険者やってるだけはあるなぁ……。まあ、とりあえずテントでも作るか」



 拓海は自分が背負っているマジックバックを下ろして中からテントの用具を取り出した。



(久々に使ったけど、やっぱりすごい便利だなマジックバックって……)



 拓海と胡桃が協力してテントを設営し終えると、胡桃が自分のマジックバックから道中狩ったボアトロールから剥ぎ取った肉と火を起こすマジックアイテムを取り出して拓海に勢いよく差し出した。



「拓海! 調理してっ!!」


「いや、それだけ渡されてもなぁ……。まず火をつける薪とかあったりす「はい!」準備がいいなぁ……おい」


「いつも私が肉を焼こうとすると真っ黒に焦げちゃうからさ……。拓海が作ってる間に着替えてくるね!」



 肉と薪と火をつけるマジックアイテムだけをおいて胡桃はテントに入っていった。



「さて……どうしよこれ」



 薪をおいて火をつけるまではいいが肉をそのまま火の中に放り込むわけにはいけないので何か長い棒がないかマジックバックを探ったがそれっぽく使えそうな棒もなかった。



(流石にそんな都合のいい物はない……か……)



 拓海が何か代わりになる物がないか探していると、自分の腰の所で目が止まった。そう、普段拓海が愛用している長剣だった。



(……うん……まあ、仕方ないよな……)



 拓海は無造作に腰から引き抜いた長剣にボアトロールの肉を突き刺した。その後、薪に火をつけた拓海はしゃがんで肉の刺さった長剣を炙っていた。



(何だこの絵面……)



 拓海が焼いていると、風呂に入る代わりに身体を綺麗にしてくれるマジックアイテムを使用して、パジャマを着た胡桃がテントから出てきた。



「お待たせ! って拓海何してるの……?」



 かわいそうな人を見るかのような胡桃の視線に拓海は肉が刺さって火に炙られている長剣を見ながら答えた。



「いや、他に何もなかったから……ね? そんな目で見るなよな」



 拓海の言葉を聞いた胡桃はハッとしてマジックバックを探って二本の耐熱使用の棒を取り出した。



「ご、ごめん……。忘れてた」



 結局、拓海と胡桃はうまい具合に焼けた肉が刺さった長剣から短剣で肉を剥ぎ取りながら少し気まずい雰囲気で肉を食べた。肉を食べ終えた拓海は脂でベタついた長剣を湖の付近で自分の魔法で綺麗に洗っていた。



「本当にごめんね……」



 長剣を洗う拓海の背後から申し訳なさそうに胡桃が俯きながら近づいてきた。



「まあ、気にすんなよ。肉は美味しかったし、まあいいよ……。やっぱりどこか具合が悪いのか? 今日の胡桃は何か様子がおかしいぞ」


「ごめんね……私もよくわからないの。あ、今日の夜の見張り番は私が最初にするよ。結構夜目も効くしね」



 拓海は誤魔化すように小さく笑いながら話題をそらした胡桃に近づいて頭をポンポンと優しく叩いた。



「何か悩み事があるならいつでも聞くからな。じゃあ、先にテントで寝るから時間がきたら起こしてくれ」



 ほんのりと頰を染めた胡桃はテントに向かって歩いていく拓海の後ろ姿を胸に手を当てて見つめていた。


 拓海がテントに入ったのを確認した胡桃はため息をついて湖の手前でマフラーに顔を埋めながら体操座りをした。



(私、どうしちゃったのかな……)



 朝アストレアを出発した時、アイリスが拓海にキスしたのを見た胡桃は胸がズキリと痛み、今もずっと心の中がもやもやしていた。



(拓海と出会ってからかな……。こんな気持ちになったのは……)



 胡桃は産まれて初めて抱いたこの気持ちの正体がわからなくて、今日歩いていた時もずっと上の空な様子だったのである。


 胡桃は湖の水面に映る自分の顔を見つめてしばらく考えていた。



(そういえば最近、拓海のことばっかり考えているなぁ……)



 依頼から帰ってきて、拓海とアイリスと別れてから風呂に入り眠りにつくまで拓海が今何をしているか気になったりしている事が何回もあった。



(いつか……わかるかな? この気持ち……。いつか、いつかわかるといいな……)



 胡桃は空中に広がる星々を眺めながら、時折流れ落ちる星々にこの気持ちがいつかわかるように願うのだった。


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