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異世界に導かれし者  作者: NS
第3章 死の森
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3-33 魔将8


「ーー見事な一撃だった。そして確信した。貴様はここで消さねば我らの障害になるな」


「っ!?」



 微かに怒気と覇気を感じさせる重圧感のある声に背筋が凍る。


 胡桃は恐る恐るマルコシアスが拓海の渾身の一撃を受けて吹き飛ばされた方を振り返った。



「嘘……」



 霧が晴れていくと、拓海の攻撃で舞っていた土煙の向こうでマルコシアスが頭の鎧から不気味に紅く光る目を覗かせ、意識を失った拓海を睨んで立っていた。


 だがマルコシアスは無傷ではなかったようで、片腕の鎧が砕かれていて、どす黒い血を流す黒い筋肉質の肉体が露わになっている。


 そしてマルコシアスは大剣を拾い上げると、ゆっくりと胡桃と拓海に向かって歩いてくる。


 そんな迫り来るマルコシアスに胡桃は身体を震わせながらも、抱き寄せている意識を失っている拓海の顔を一瞥してその場に拓海を寝かせると、手の平で自分の両頰を叩いて集中力を高めて決意を固める。



(まだ、まだ終わってない! 拓海を守ってみせる!)



「“獣化”!」



 叫ぶように魔法を詠唱した瞬間、胡桃の全身から紅黒いオーラが迸ると同時に獣耳と尻尾が生え、瞳の色が紅色に変わる。瞳は淡い光を帯びていて、動くと紅の残像が出来ていた。


 獣化は使用者の五感を極限まで上げて、さらに身体能力を急上昇させることが出来る魔法である。だが胡桃はまだ獣化を完璧に扱うことが出来ず、使った後には身体中に負荷がかかってまともに動くことが出来なくなってしまう。

 『獣化』は今の胡桃にとって唯一マルコシアスに対抗出来る方法であり、胡桃の最後の切り札でもあった。



「その魔法は……!?」



 マルコシアスが胡桃の魔法に驚きの声を上げると同時に、獣化した胡桃がその場から消える。



「はっ!」



 一瞬でマルコシアスの背後にまわった胡桃は獣化により出来た魔法の爪でマルコシアスを斬り裂きにかかった。


 しかしマルコシアスは既に全身に黒いオーラを纏っていて、大剣で胡桃の一撃はギリギリ受け止められてしまった。そして速さではマルコシアスを上回ってはいるが、力は押し負けている胡桃は大剣を受け止めながらも押し込まれ、足元は徐々に地割れを起こし始めていた。


 そして、そんな胡桃の様子を見たマルコシアスはしばらくの間の後、覇気を纏った声で呟いた。



「悪いが使わせてもらうぞ……」



 その声に胡桃が思わず顔を上げると、頭の鎧から覗くマルコシアスの紅い目と目が合ってしまう。

 何故か目が離せない。見てはいけないと本能では感じとってはいたが、視線が何故か釘付けにされてしまった。

 そして、マルコシアスの目に複雑な魔方陣が浮かび上がると同時に禍々しく輝く一部始終を胡桃は見てしまった。



「え……? ッ!?」



 胡桃は全身が金縛りにあったような感覚と体内の大量の自分の魔力が突然他人のもののように感じ、大量の不純物が全身を包み込み身体中を這いずり回る感覚と共に体をビクリと震わせた。


 そして次の瞬間、胡桃の体内の魔力が暴走し、『獣化』は強制的に解かれ、身体がバラバラになるような感覚に陥る。



「ぁ、あぁあぁぁぁぁ………!?」



 何が起こったか理解出来ない胡桃は絶叫し、身体中が魔力の暴走と『獣化』の強制解除の負荷に耐えられず、そのまま大量に吐血して糸が切れた人形のように力無く膝から崩れ落ちてしまった。



「ぁ……ぅ、ぁ……」



 マルコシアスの瞳から魔方陣と紅の光が消えると、地面に倒れてびくりと何度か身体を震わせながら消え入りそうな悲痛な声を洩らす胡桃を見下ろす。



「それがいかに強力で危険かはよく知っている。まさか『魔眼』を使う羽目になるとはな……。そこで少し待っていろ。そこの少年の次に殺してやる」



 そして、地面に倒れた胡桃にそう言い残したマルコシアスは拓海に向かってゆっくりと歩き出した。


 胡桃は獣化の強制解除と魔力の暴走で身体を指一つ動かせない上に、身体中を突き抜ける痛みで意識が飛びそうでどうにかなっていて、拓海に向かって歩いていくマルコシアスを黙って見ていることしか出来なかった。

 霞む視界の中、胡桃は何もできない自分自身に腹を立て、悔しそうに歯をくいしばる。



(やめて……。拓海を……拓海を殺さないで……。なんで! 動いてよ私の身体!!)



 細い呼吸しか出来ずに息が上手く出来ない。

 しかし今はそんなことを言っていられない。目の前で大切な人が後一歩で殺されてしまう。胡桃は地面に伏しながらも拳を握りしめる。


 マルコシアスが拓海の目の前で立ち止まり、大剣を振り上げる。


 胡桃は霞む視界の中、藁にもすがる気持ちで助けを願い、血が滲むくらい唇を噛み締めながら最後の力を振り絞って叫んだ。



「誰か! お願い、誰か拓海を助けて!!!」


「終わりだ」



 しかし無情にもマルコシアスは胡桃の声を無視して振り上げた大剣を拓海に振り下ろす。


 土煙が舞い衝撃波が周りの草を揺らした。



「『黒流星』、よく頑張ったわね」



 激しい雨音の中どこからか透き通った綺麗な声が胡桃に聞こえてきた。


 胡桃は霞む視界の中、マルコシアスの大剣と拓海の間に割って入る光の化身を見た。


 マルコシアスの大剣は拓海に届くことはなく、一人の鎧を身に付けた騎士の虹色に光輝く長剣により受け止められていた。


 突然目の前に現れ、自分の大剣を軽々と受け止めたその騎士にマルコシアスは思わず驚きの声を漏らした。



「貴様……何者だ……?」



 騎士はマルコシアスの質問に答えることなく、長剣で大剣を上に弾き飛ばし魔法を詠唱した。



「“ホーリージャッジメント”!」



 大剣を弾いて、素早くマルコシアスに向けて振り下ろされた騎士の虹色に輝く長剣から大量の光が放たれた。


 その魔法から身の危険を感じたマルコシアスは舌打ちと共に警戒して必要以上に後ろに下がって避けた。


 騎士は自分の正面で虹色に輝く剣を構えると、マルコシアスのさっきの質問に答えた。



「私の名はアンジュ=ルミエール。アストレア聖騎士団長……。いや、こう言った方が効果的か? 私は『光帝』の通り名を持つ者だ」



 ルミエールの返答にマルコシアスが初めて動揺した声を上げる。



「ば、馬鹿な!? 帝だと!? 貴様らは今各地で他の任務をこなしているのではないのか?」



 そんな中瀕死の胡桃は顔だけルミエールの方に向け、目を見開いて驚いていた。



(まさか騎士団長さんが『光帝』だったなんて……)



 するとルミエールはアストレアの街の方を一瞥して悲しげな表情を浮かべて呟いた。



「こちらには優秀な参謀がいてね……。だけど急いでアストレアに戻ってきたがこの有様。全く、自分が情けなくなるわ……」



 そんなルミエールを見て、マルコシアスは黒いオーラを纏って大剣を構えた。



「まあ良い。帝とやらと一度戦って見たかったのだ」



 そして次の瞬間、ルミエールの長剣から虹色の光が溢れ出す。その姿は神々しく、人間離れした美しさが感じられる。



「安心しろ……。貴様にはどの道戦って死んでもらう。“エスピリトゥ・アドベント”」



 ルミエールが魔法を詠唱すると曇っていた空が割れて一筋の光の柱がルミエールの隣に降り注ぐ。



「これは!?」



 やがて光が収まると、そこには天使のような羽が生えた一人の青年が立っていた。



「マルコシアス! 撤退だ。魔眼を使い、手負いの貴様では確実にあれには勝てん」



 一人の青年が降り立ったと同時にマルコシアスの隣に突然何の前触れもなく現れた一人の黒いローブを身に付けた男が現れた。


 マルコシアスは一瞬不機嫌そうな顔を浮かべたが、ルミエールの隣に現れた青年を一瞥して黒ローブの男の言葉に一つ頷くと、黒ローブの男が何か魔法を詠唱し、マルコシアス達の目の前に展開された魔法陣の中から六体のAランク相当のモンスターが現れた。



「く、もう一人いたのね……間に合いそう?」


「まあ、やれるだけやってみるか」



 ルミエールの隣に降りたった青年はそう言葉返した瞬間、現れたモンスター達を置き去りにしてマルコシアス達が黒い煙になって逃げていく所を突っ切った。


 しかし、既に二人の身体は黒い煙となってその場から完全に消えていた。そして一瞬の間の後、青年が置き去りにしたモンスター達は遅れて六体とも粉々に砕けて消滅した。



「ちっ、腕一本か……」



 驚くことに青年は片手で引きちぎったマルコシアスの片腕の肘から下の部分を持っていて、それは塵となって消えていった。


 雨が止み、徐々に暗雲が晴れていく。


 そして、黒ローブの男がこの場から消えたことで操っていたモンスターの大群は全てその場から消滅した。


 モンスター達が突然消えたことに驚きながらも冒険者達は自分達の勝利に皆雄叫びを上げ、アストレアの外に広がる草原に響き渡っていく。


 こうして、決して少なくはない犠牲を出しながらもアストレアの防衛戦は幕を閉じたのであった。

アストレアの防衛戦。どうだったでしょうか?

予想以上に長引いてしまいました。


七月は忙しくて毎日投稿出来ないかもしれません……。申し訳ないです。

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