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異世界に導かれし者  作者: NS
第3章 死の森
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3-32 魔将7


「ん……」


 激しい音を立てて降り始めた冷たい雨が頰に当たり、ようやく意識がはっきりしてきた胡桃は少し身体を起こし、霞む視界の中で少し離れた場所で誰かが何かが激しくぶつかり合う金属音を響かせながらマルコシアスと激しい戦いを繰り広げているのが映った。



(あいつと互角に戦っている? 誰だろ……?)



 胡桃は目をこすり、何回か瞬きしてもう一度そのマルコシアスと戦っている人物を確認して呆然としてしまった。



「え……拓海……?」



 黒いオーラを纏いながら大剣を縦横無尽に振り回し、最低限の動きのみで残像を作りながら銀色のオーラを纏って目にも留まらぬ速さで斬り合っているその姿は間違いなく拓海だった。


 しかし動体視力が優れた胡桃には、全身から今まで見たことがない量の銀色のオーラを放出し目や口からも銀色のオーラが溢れて明らかに異常にしか見えなく、正気を失っているように見えた。


 そして拓海とマルコシアスの激しい戦いから少し離れた場所で白と赤色の何かが地面に倒れているのが胡桃の視界の端に映る。



「え……?」



 一瞬の間の後、気付いてしまう。


 それが血に塗れた自分の仲間だということに。



「う……嘘……ア、アイリス?」



 胡桃は痛む身体を我慢して歯を食いしばり、よろめきながら立ち上がると地面に絶望感に満ちた表情で倒れて意識を失っているアイリスに近づいていく。



「あ、あぁ……。な、何で……アイリス、アイリスがぁ……」



 近づいていき地面に血まみれで倒れている目からは光が消えたアイリスの姿を改めて確認した胡桃は絶望感に表情を歪め口元を押さえ膝から崩れ落ちる。


 そして既にアイリスが呼吸をしていないことを信じたくないと首を横に振り涙が流れ落ち、身を震わせその雨で冷えたアイリスの細い身体を抱きしめながら嗚咽をもらしてなりふり構わず大声で泣き叫び続けた。


 そんな中、胡桃は気が付く。


 アイリスの側に落ちている普段から使っている杖が微かに見た事がない光を点滅させていることに。



「これは……アイリスの杖?」



 胡桃は微かに光るアイリスの杖に震える手を伸ばし、おそるおそる両手で杖を掴んで本能に従ってアイリスの身体に杖を近づける。



(温かい……)



 杖の先についている宝石から心に染み渡るような温かさを感じさせる淡い金色の光が溢れ出す。


 そして、その光は音も無くアイリスを包み込み、アイリスの身体に染み渡るように消えていくと杖についていた宝石が音を立てて砕け散った。



「嘘でしょ……」



 胡桃は目の前で起こった出来事に目を見開き、思わず声に出して驚いていた。意識は戻ってはいないが、どういうわけかアイリスの傷が徐々に塞がっていき、血の気が引いて真っ白になっていた顔色に血の気が通い始めていた。



「何なのこれは……」



 胡桃は目の前で起きている現象に動揺していたが、アイリスが危険な状況を脱しただろうと判断し、今はマルコシアスをどうにかしないといけないと涙を拭って拓海とマルコシアスの戦いに目を向けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 拓海は凄まじい速度で動きながらマルコシアスに何度も斬りかかっているが、黒いオーラを纏って力もスピードも格段に上がったマルコシアスはその拓海の目にも止まらぬ全ての連撃を見極めて冷静に大剣で受け切っていた。



「やるな、だがそれでは我には勝てんぞ」



 素早く斬り上げたマルコシアスの大剣は拓海の刀を大きく上に弾いた。


 そしてマルコシアスは間髪入れずに体勢を崩した拓海を大剣を持っていない方の手で全力で殴り飛ばし、拓海は成す術なく吹き飛ばされた。


 しかし吹き飛ばされた拓海は口の端から血を吐き出しながらも空中で態勢を立て直し、地面に足がついた瞬間何事もなかったかのように再びマルコシアスに向かっていく。



「ちっ」



 勢いが落ちる様子を見せない拓海に舌打ちをしながらもマルコシアスは銀色の流星の如く向かってきた拓海の刀の突きを大剣で受け止めたが、勢いを殺しきれずに後ろに少し押された。



(こいつ……この異常な『霊気』の量。何者だ?)



 そしてマルコシアスが再び大剣を構えた時だった。

 急に拓海は吐血し、身体のいたるところから皮膚に亀裂が走り、破裂するように血飛沫が舞う。



(ふむ、身体が耐え切れなくなってきたか……。この様子だと『霊気』を全く使いこなせていない。こいつは、このままここで始末しておくべきだな)



 マルコシアスは拓海の身体は限界が近いと考えながら、大剣を構え直そうとした。



「何!?」



 その瞬間、力尽きる寸前かと思われた拓海はさっきよりも早い速度でマルコシアスの大剣を掻い潜り懐に潜り込んでいったのである。


 完全に虚を突かれたマルコシアスに向かって拓海はより一層光輝く刀でマルコシアスの身体を一閃。



「ぐおっ!?」



 拓海の刀から巨大な水の龍が現れ、マルコシアスの巨体を巻き込みながら辺り一帯を吹き飛ばして舞い上がると、水龍はそのまま地面に向かって急降下してマルコシアスを凄まじい勢いで地面に叩きつけて霧散した。


 霧散した水龍が水蒸気に変わり、霧となって辺りに広がっていきマルコシアスの姿は見えなくなった。


 一方、拓海は右手で自分の手から出血するほどの強さでか刀を握りしめてはいたが、右腕からは血を滴らせながら力なく垂れ下がっていた。


 それでも拓海の闘志は尽きず、拓海の視線はマルコシアスの方を向いていた。目と口の端からは銀色の光が揺らめいて、拓海はマルコシアスが地面に叩きつけられた方に向かって一歩ずつ歩き始めた。



「もう、もうやめて! これ以上は拓海の身体が壊れちゃうよ!」



 拓海の前で両腕を広げて立ち塞がる胡桃は、感情に身を任せて限界を超えて溢れる強大な力に耐えられず身体中が崩壊しつつある拓海の様子に表情を歪め、唇を噛み締めていた。



「……」



 しかし正気を失っている拓海は歩みを止めることはなく、胡桃自身も頭痛と身体中の痛みと倦怠感を無理をしているため、押しのけられて踏ん張り切れずに尻餅をついてしまった。



「きゃっ……」



 そして拓海は尻餅をついた胡桃を無視して再びマルコシアスの方に向かって進み始める。

 その瞬間、拓海の身体が急に一時停止したかと思うと、口から大量の血反吐を吐き散らし、身体を痙攣させたがそれでも再び足を引きずりながら歩き始めた。


 それでも胡桃は絶対に行かせないという強い気持ちで歯を食いしばると再び立ち上がり拓海の前に強い意志を持った瞳を向け、肩で息をしながら両手を広げて立ち塞がった。


 胡桃は、血に塗れて全身ボロボロになって普段の優しい表情を浮かべている拓海の面影が全くないその様子を見て悲しそうに表情を歪めた。



「もう……やめてよ……。お願いだから……。だめ、このままじゃ拓海が死んじゃう……。そんなの、嫌、嫌なの」



 胡桃の両目から涙が溢れ、胡桃は想像してしまったのかズキズキと痛む胸をぎゅっと握る。



「ぁ、ぉぁあ……ぁ……」



 拓海はゆっくりと一歩踏み出そうとしたが、涙声の胡桃の言葉に立ち止まって膝をつく。



「拓海……?」



 苦しそうに唸り声を上げている拓海に、胡桃はゆっくりと近づいていく。

 胡桃も膝をつき、拓海の頰にそっと手を添えた。



「………ぅう、あぁ……ぁ……」



 銀色のオーラを放ち続けて正気を失っている拓海を胡桃は何も言わず、そっと抱き寄せる。

 拓海は苦しそうに呻くと、表情を歪めて途切れ途切れに掠れた声で呟く。



「お……れは……大切な人達を守る……」



 そんな拓海の声を聞き、胡桃は唇を噛み締めた。

 拓海が一人で責任を感じて罪悪感を全て背負い込んでしまっているのではないかと思い、胡桃は拓海の耳元で優しい声音で伝えた。



「拓海……。一人で背負いこまないで……。あなたの大切な人達は私も一緒に守るからさ」



 その時、既に意識がないはずの拓海の閉ざされた心の中に温かい一筋の光が降り注いだ。


 拓海の身体からは消え入るように銀色のオーラが霧散し、拓海は意識を失って糸が切れるように前のめりに倒れ込み、胡桃にもたれかかった。



「大丈夫、大丈夫だから」



 そして意識を失い目を閉じた拓海の目の端から一筋の涙が流れ落ちた。


 しかしボロボロになって意識を失っている拓海はどこか嬉しそうな表情を浮かべているのだった。



 ーーーーアストレアの防衛戦、現在冒険者側に突如光輝く壁が発生しモンスターからの攻撃を全て防いでいてお互い膠着状態。冒険者側の指揮官ロイ、シルフィは瀕死の重症ーーーー

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