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異世界に導かれし者  作者: NS
第3章 死の森
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3-30 魔将5

 血まみれでピクリとも動かないシルフィを見たロイは青ざめ、魔将マルコシアスのことを無視してシルフィに血相を変えて駆け寄った。



「お、おい……シ、シルフィ!? “ヒーリングウォーター”!」



 治癒の効果を持つロイの水魔法で頭の傷口は塞がり何とか血は止まったが、腹部の傷が想像以上に大きく中々血が止まらなくてシルフィが意識を取り戻す気配もなく、ロイは無我夢中で回復魔法を使い治癒を続けていた。



「おい、シルフィ……目ぇ覚ましてくれよ。なぁ、どうしたんだよ!? いつものお前の強気な態度はどこにいったんだよ……」



 マルコシアスは瀕死のシルフィに駆け寄り必死に回復魔法をかけ続け、悲壮な表情を浮かべているロイの様子を見て呟いた。


 

「安心しろ。すぐ貴様ら二人まとめて地獄に送ってやろう」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 マルコシアスが再び動き出そうとしたところで、ロイ達二人の危機に動転しながらも拓海は無我夢中で剣に氷の付与魔法をかけて銀色のオーラを全身に纏ってマルコシアスに斬りかかった。


 しかし、マルコシアスは拓海の攻撃を軽く後ろに跳んであっさりと避ける。



「驚いたな。まだまだ未熟だが『霊気』を扱う者と出会うとはな……」



 そして、胡桃は後ろに下がってそう呟くマルコシアスに向かって、すかさず術符の付いたクナイを二本投げて魔法を詠唱した。



「“爆符・ウインドインパクト”!」



 マルコシアスの至近距離で二つのクナイに付けた術符からそれぞれ大量の風の衝撃波が発生した。



(至近距離からこの二発をくらえばひとたまりもないよ!)



「小癪な……」



 しかしマルコシアスは避けるどころか背中から引き抜いた大剣を地面に突き刺して至近距離からの『ウインドインパクト』を二発分をその場で踏ん張って何事もなかったかのように受けきった。


 そんなマルコシアスの桁違いの強さを見せつけられた胡桃は呆然とし、思わず後退りしてしまう。



「う、嘘でしょ……」



 胡桃はダメージを受けた様子を全く見せずに大剣を地面から荒々しく引き抜き平然とこちらに向かってくるマルコシアスに動揺を隠せず、足がすくんで動くことが出来なくなってしまった。


 その様子を見て、危機感を感じた拓海は呆然としている胡桃の目を覚ますかのように声を張り上げた。



「胡桃! 連携してたたみかけるぞ!」


「う、うん! “ウインドステップ”!」 「付与魔法“風”!」



 オーラで強化された拓海と魔法でスピードが増した胡桃の二人はマルコシアスに向かって休む間も与えないほどの猛攻を仕掛けた。



(こいつ!? 大剣一つで俺達の連撃を全て受け切っていやがる)



 しかし、二人の猛攻にマルコシアスは動じることなく大剣一つで全て防ぎながら冷ややかな紅い眼差しでこちらを見ていた。



「そろそろ飽きてきたな」


「ーーーーっ!?」



 突然マルコシアスから覇気が溢れ、目にも止まらぬ速さで大剣を振り払われると、ちょうど攻撃を仕掛けようとした胡桃は辛うじて脇差しで受け止めようとしたが、受け止め切れるはずはなく声にならない悲鳴を上げて勢いよく後ろに弾き飛ばされていった。



「胡桃!?」



 拓海は思わず手を止めて飛ばされた胡桃の方に目を向けると、頭でも打って脳震盪のうしんとうでも起こしたのか胡桃は倒れたまま立ち上がれずにいた。



「おいおい余所見している場合か?」


「しまっーー!?」



 胡桃に気を取られた拓海にマルコシアスは振り上げた大剣を振り下ろそうとした時。


 どこからか怒りと悲しみが入り乱れた声が聞こえた。



「おい……」



 拓海が反射的に声がした方に目を向けると、いつの間にかマルコシアスの横でロイがマルコシアスを血走った怒りに満ちた目で睨みつけながら二本の剣を構えていた。



「お前は絶対許さねぇ!!! “ジオマンス・ヴォルテックス”!」


「むっ!?」



 魔法を詠唱するとロイの二つの剣がそれぞれ緑と水色に光輝き凄まじい風と水の魔力の刃が吹き荒れる巨大な竜巻がマルコシアスの身体をあっという間に包み込む。


 一方、拓海は目の前で発生した竜巻に飲み込まれないようにその場に長剣を刺して片膝をつき、激しく吹き荒れる風を必死に耐えていた。



(やったか!? これがロイの本気の魔法……)



 天に向かって吹き荒れる巨大な竜巻は轟音を立てながらマルコシアスに傷を負わせていることで、拓海はもしかしたらこのまま勝てるのではないかと淡い希望を抱いていた。

 しかし、一瞬でその希望は打ち砕かれる。


 巨大な竜巻の中から地鳴りのように低い、全く焦りを見せないマルコシアスの声が聞こえてきたのである。



「中々良いがまだ足りないな。“アビス・バリエラ”」



 詠唱と共にマルコシアスから禍々しい闇の波動が溢れ出し、拓海の淡い希望はロイの竜巻と共に呆気なくかき消されてしまった。



「く、そが……」



 それと同時にロイの二つの剣は魔法の負荷に耐え切れなかったのか砕け散って、ロイは魔法の反動で全身を痙攣させて体から力が抜けたのか片膝をついてしまった。


 そして相当な魔力を消費して片膝をついたロイは悔しさを滲ませた表情で歯を食いしばりマルコシアスを睨みながら見上げることしか出来なくなってしまった。


 竜巻によって宙に浮かされていたマルコシアスは地面にゆっくりと降りたつと、ロイの目の前まで歩いていき、その姿を一瞥すると躊躇無く目にも留まらぬ速さでロイを殴り飛ばした。


 そして殴り飛ばされたロイは抵抗することも出来ず宙高く舞い上がって、受け身を取ることが出来ない状態でそのまま地面に叩きつけられてピクリとも動かなくなった。


 それからロイにとどめを刺したマルコシアスは地面に刺していた大剣をゆっくりと引き抜き、拓海に視線を向けた。

 拓海はふらつき立ち上がったが恐怖と怒りが入り混じり、動悸が激しくなって情緒不安定になりながら荒い呼吸を繰り返していた。



「はぁ……はぁ……おま、お前っ……」


「さて、あとはお前だけか……。前菜にしては中々楽しめたぞ。このマルコシアスに殺されたことをあの世で誇るが良い」



 冷めた紅い瞳で拓海を見据えるマルコシアスは何の躊躇いもなく、無慈悲にもその場から動けずにいる拓海に大剣を振り下ろす。


 辺りには大量の鮮血が飛び散った。



 ーーーーアストレアの防衛戦、現在冒険者側の最終防衛ラインが城の入口五十メートル近くまで押され劣勢。冒険者側の指揮官ロイ、シルフィは瀕死の重症ーーーー

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