3-17 母親
「もう少しだから二人とも我慢してくれよ」
拓海が抱えている二人に語りかけていると、森の奥から轟音が聞こえてきた。胡桃とロイと別れてから森の奥から何回か轟音が鳴り響いていた。まだ、胡桃とロイはゴブリンロードと戦っているのだろうか。
今、拓海は胡桃とロイに足止めしてもらい、拓海は子供二人を抱えて森の中を走っていた。
二人に語りかけてから十分ほどが経ち、拓海はようやく死の森を抜け出した。拓海は森の方を振り返り耳を澄ましたが、流石に何も聞こえなくなっていた。
(二人共無事に帰ってこいよ……)
森を抜けてしばらく歩くと、拓海はエンデ村に無事子供二人を連れて辿り着いた。エンデ村に入ると拓海は早速子供達二人と話し始めた。二人の話を聞くと、やはりあのおとぎ話に触発されて今回行動を起こしたようだ。
「街のお医者さんは皆お母さんの病気を治してくれなかった! だから僕がお母さんの病気を治すんだ! 兄ちゃんは自分のお母さんが元気だから僕達の気持ちがわからないんだ!」
「そうよ! じゃあお兄さんがお母さんの病気を治してくれるの?」
子供達はやはり納得いかないようで、拓海を睨んでいる。拓海は子供達を一瞥してから腕を組んで話し始めた。
「なあ、急に子供達がいなくなって取り残された母親のことを少しでも考えたか? 君達の母親は自分の体が動き回るのも辛いだろうに、愛する自分の子供を探し回ってギルドに依頼まで出したんだぞ。それに、俺達が来なかったら間違いなく君達は殺されてたぞ」
拓海の言葉に二人は何も言い返せずに、俯いてしまった。拓海は一つ息を吐くと子供達と同じくらいの目の高さになるようにしゃがみ、二人に語り始めた。
「俺さ、産まれてから自分の母親と話すどころか、顔すら見たことないんだよね……」
子供達は拓海の言葉に驚きながらも拓海の言葉を黙って耳を傾けた。
「俺が産まれるのと同時に死んじゃったらしくてさ……。俺は自分の母親との思い出を一つも作ることが出来ないけどさ、君達は自分達の母親と話をして、これからまだまだ思い出を作る事が出来るだろ?」
拓海は産まれてから母親の顔すら見た事がなかった。父の話では写真に撮られるのが好きじゃなかったらしく、写真が一枚も残ってなかったのだ。
言葉達に語りかけながら、拓海は二人の子供のことを羨ましく感じた。それは心配してくれる両親がいるからだ。拓海が保育園に通っていた頃、周りの友達は皆自分の母親が迎えに来ているのを見て、何故自分には母親がいないのかと一時期保育園に行くのを拒否していた時期もあった。
「まあ、何だ……。今を大切にしろよ二人共。あと母親の病気を治して上げたいのはわかるけど、今回みたいに周りに迷惑をかけたりすることはもうするなよ」
拓海が二人の頭を撫でながら、そう言って立ち上がった。
「ね、ねえ!」
拓海は二人を連れて宿に向かおうとすると、男の子が拓海に声をかけた。拓海は振り返り男の子を見ると、男の子と女の子が頭を下げた。
「ご、ごめん! 色々な人に迷惑をかけちゃったし、兄ちゃんにも酷い事言っちゃった……」
男の子の隣で女の子も申し訳なさそうな顔をしていた。二人の反省した様子を見て、拓海は笑みを浮かべた。
「気にするなよ、俺は別に気にしてないからさ。でも今回の件で迷惑をかけた人達にはきちんと謝りに行くんだぞ」
拓海は子供達にそう言って再び宿に向かって歩き出した。




