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異世界に導かれし者  作者: NS
第3章 死の森
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3-16 噂の正体3

 子供達の後ろの木々をなぎ倒しながら現れたそいつは突然巨大な棍棒が振り下ろした。


 しかし、それにいち早く気づいた胡桃とロイはそれぞれ動き出していた。



「「“ウインドステップ”!」」



 ウインドステップで移動速度を上げた胡桃は子供達二人を抱えて、何とか棍棒の振り下ろしに直撃しない位置まで移動した。


 一方ロイは木々をなぎ倒しながら現れたそいつの正面に移動して、胡桃達の位置を横目で確認して振り下ろされた棍棒の余波が胡桃と子供達に届かないようにと、棍棒を受け止めようと素早く二つの剣を構えた。



「付与魔法“水”」



 魔法を詠唱したロイの二本の剣は水属性を纏い、振り下ろされた巨大な棍棒をしっかりと受け止めた。


 咄嗟の出来事に動けなかった拓海は、ロイが巨大な棍棒を止めたのを見てようやく我に返りロイと胡桃のもとに走った。



「こいつは……ジャイアントゴブリンじゃないよな」



 ロイに向かって棍棒を振り下ろして競り合っているのは全身緑色でどこで作ったかわからないが、鎧を身につけた体長が四、五メートルくらいはある巨大なゴブリンだった。



「いいねぇ……。これを受け止めるか。久々に歯応えがありそうな獲物だ……」



 突然低い声で唸るように喋り出したゴブリンに驚いている拓海を胡桃が手招きした。



「あいつはSランクモンスターのゴブリンロードだよ。知能も他のモンスターより高くて人語も話せるの。それより、拓海は子供達を連れて、安全な場所まで逃げてから手短に子供達に事情を説明して上げて」



 そう口早に説明する胡桃の後ろでゴブリンロードを見た女の子と男の子が口をパクパクさせて、ガタガタと震えているのに拓海は気付いた。


 そして拓海は胡桃の言葉に頷くと、オーラを纏い子供達二人を両脇に抱えてその場から離れ始めた。



「ん? 一人逃げるのか? つれないやつだなぁ……」



 ゴブリンロードはそう呟くと倒れた木を一本片手で拾うと拓海に向かって投げ飛ばした。



「なっ……」



 拓海は子供二人を抱えてその光景に絶句したが、投げ飛ばした瞬間、ゴブリンロードの動きを先読みした胡桃が一瞬で拓海と飛んできた木の間に入り魔法を詠唱した。



「“ダークミュール・エノルム”!」



 詠唱と共に胡桃の目の前に現れた闇の壁が飛んできた木を弾き、砕け散った。



「急いで! 私達も様子を見て離脱するから!」


「分かった、ありがとな胡桃」



 拓海は胡桃に礼を言って、子供達を連れて再び走り出した。


 一方自分が目の前にいるのに、無視して拓海を攻撃したゴブリンロードにロイは殺気と怒りを向けて剣に付与魔法“風”で風属性を纏わせていた。



「おい、余所見してんじゃねえぞ!!! “風牙”!」



 ロイがゴブリンロードの懐に入り込んで剣を振り下ろすと、ロイの剣から緑色の光が放たれ膨大な量の風を纏った斬撃がゴブリンロードを襲う。

 ゴブリンロードはロイの斬撃を咄嗟に横に跳ぶことで直撃を回避して、片膝をついて衝撃を殺した。


 ゴブリンロードの鎧の一部は今のロイの攻撃で砕けていたが、どうやら大きなダメージにはならなかったようでロイは思わず舌打ちをした。


 そして先ほど木を防いだ胡桃がやってきてロイの隣に並び脇差を引き抜き構えた。



「やっぱりそう簡単にはいかないね……。どうする? 一旦引き返す?」



 ゴブリンロードから目を離さずに胡桃が問いかけると、ロイは返答に迷っていた。



(いけるとは思うけど……)



 ロイは胡桃がいる今、二人がかりで畳み掛ければこのゴブリンロードを倒せる自信があった。しかし、問題はこのゴブリンロードを倒した後また違う何か危険なモンスターに襲われたりした時だ。この戦いで魔力や体力を消費した、また怪我をしてしまえばおそらく勝てないだろう。



「ちっ、仕方ないか……。一旦引き返そう。まだ、何か潜んでいるかもしれないからな……」



 ロイがそう判断して胡桃は黙って頷いて返し、二人が一旦引き返そうと一本後ずさりした時だった。


 横の木を突然なぎ倒され、巨大な槌が二人に向かって振り下ろされたのである。二人は驚きながらも槌が振り下ろされる前に木が軋む音で気づき、何とか後ろに跳んで避けた。



「く、もう一体いたのか!?」


「う、嘘!? ロイさん! あれ!?」



 舌打ちをして体勢を立て直すロイは、横から現れたゴブリンロードに注意を払いながら動揺した声をもらす胡桃の指を差した方を見て目を見開いた。



「おいおいおいおい!? まじかよ!?」



 胡桃が指を指した一体目のゴブリンロードの背後から何と三体目のゴブリンロードが姿を現したのだ。


 そしてロイが胡桃に逃げるように言う前に胡桃は既に魔法を詠唱していた。



「“ダークスモッグ”!」



 胡桃が詠唱を終えると同時に辺り一帯は黒い霧が包み込まれた。


 それから巨大な槌をもつゴブリンロードが鬱陶しそうに槌を振り回して霧を吹き飛ばしたがそこにはもう二人の姿はなかった。

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