3-15 噂の正体2
「丁度今日は私とロイさんが死の森の調査する予定だったから協力するよ! ロイさんはどうする?」
拓海の事情を聞いた胡桃は快く協力してくれるそうだ。ロイは拓海を一瞥して、その覚悟を決めた揺るぎない拓海の目に息を一度大きく吐いた。
「まあ、拓海の実力なら足手まといにはならないだろうからな。俺も子供を探すのを手伝おうか」
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二人の協力を得たところで拓海達三人は軽く打ち合わせと準備をして、死の森に向かうため仁と村の門番に見送られながら村を出発した。
三人が森に向かって走り出したところで、先頭を走る胡桃がふと思いついたかのように振り返って二人に尋ねた。
「私が先に死の森に行って探してこようか?」
三人の中で一番移動速度が速い胡桃がそう尋ねると、ロイはすぐに首を横に振った。
「駄目だ。もしSランク以上のモンスター複数体にでも遭遇したら、胡桃ちゃんといえど子供を見つけたからといって逃げれないだろ?」
「うっ……確かに」
この前のバンダースナッチとの戦いで胡桃はSランク以上のモンスターがいかに危険か身をもって知ったからか、ロイの意見に素直に頷くのだった。
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それから三分ほど走り続けて三人はあっという間に死の森の前まで辿り着いた。
「着いたか……」
陽が落ちてきて、夜風で擦れ合う木の葉の音が聞こえる死の森は余計に不気味に感じられた。
「分かってるとは思うが、警戒は怠るなよ」
小声で呟いた拓海にロイがそう注意を促してから、エンデ村で決めた通りに三人は行動を開始した。
ロイが殿、気配に敏感な胡桃を先頭にして些細な変化に注意しながら死の森の中に三人は進んでいった。
そして、十分ほど音を出来るだけたてないように素早く移動していると、先頭の胡桃が眉を潜めて突然立ち止まった。
「待って、森の奥で何か巨大なモンスターかな? 何かが移動してるよ」
胡桃は鋭い目で意識を集中させて、後ろからついてきて立ち止まったロイと拓海にそう伝えた。
「巨大な何か……。そうだ! 胡桃、子供の気配は探れたりするか?」
拓海の質問に胡桃は首を横に振った。
「ごめん、流石に子供達の気配までは掴めないかな……」
「まあ最初から探すつもりで来てるからな。行くぞ」
それから三人は、とりあえずおとぎ話で秘宝が見つかったとされていた湖に向かって進み続けた。
胡桃の後ろから進む拓海は周りを見渡して少し懐かしさを感じていた。
(そういや、ここに来たのは初めてこの世界に来た時以来だな……。湖は多分俺がゴブリンを初めて見た場所だよな……)
そんなことを考えながら移動していると急に森の開けた場所に出た。
三人の目の前にあの時の巨大な湖が広がっている。陽は既に落ちたが、月が湖の真上に出ているので湖の反対側まで見ることが出来た。
そして、三人は子供達がいないか急いで辺りを見渡して夜目がきく胡桃が何かを見つけたのか声をあげた。
「あ! ねえ、あの子達じゃない?」
拓海とロイが胡桃が指を差した方に目を凝らしてみると、拓海達がいる湖の対岸に男の子と女の子がしゃがみこんで湖の中を覗きこんでいるのが見えた。
「見えた、あの子達だな」
「まさか本当にいるとは……」
拓海は子供達が無事な様子に安心して胸を撫で下ろす一方、ロイは子供達が本当にここまで来たことに驚いていた。
そして拓海達は子供達二人を連れ出そうと湖の対岸に向かって急いで回り込んだ。
子供達はまだこちらには気づいてないようで湖の中を必死に覗きこんでいる。
真後ろまで近づくと驚いて湖に落ちてしまうと考えた拓海が子供達との距離が数メートルになって立ち止まって声をかけようとした時だった。
「おーーッ!?」
子供達の後ろの木々をなぎ倒しながらそいつは現れた。




