3-2 デート?2
素材屋に着いた拓海とアイリスは防具の素材を買いに来ていた。
「久々に来たけど、どれが良い素材なのかよくわからんな……」
周りを見渡しながらぽつりと拓海が漏らした言葉を聞いて、アイリスは素材を探しながらクスクスと笑った。
「実は私も何が良い素材なのかはよくわかってないですよ。ただ今回はBランクモンスターのホワイトウルフとSSランクモンスターの幻獣の素材を使う予定です」
そしてホワイトウルフの素材を見つけて、嬉しそうに「あった!」と呟くアイリスに拓海は思わず振り返って声を上げた。
「SSランクのモンスターの素材を使うのか!?」
ランクの高いモンスターの素材は手に入れることが難しいのでアストレアのような大きな街じゃないと出回ってない物が多い上に取引価格も半端なく高い。SSランクのモンスターの素材となると安い物でも大金となる金貨一枚は必要となる。
そんな拓海にアイリスは苦笑しながら答えた。
「使うと言っても幻獣の毛皮を少々買う程度で、ベースはホワイトウルフの素材にするつもりです! 里から持ってきてどうしてもって時にとっておいたお金と冒険者になってから稼いできたお金を合わせれば何とか足りると思います」
「なるほどな……。幻獣の毛皮は何か特別な特性を持っていたりするのか?」
アイリスによると幻獣の毛皮にはある程度の魔法攻撃を無効化する特性があるらしい。パーティーの回復、補助魔法をする役割のアイリスは物理攻撃よりも範囲が広い魔法攻撃を受ける可能性の方が高いので今回防具に採用してみようと考えたみたいだ。
「あ、拓海さん! 一緒にどのホワイトウルフの素材が良いか探しましょう!」
そう言って無邪気な笑みを浮かべて拓海の腕に寄り添うアイリスに拓海は頰を赤らめた。
(ーーッ! な、何か照れるな……)
それから、拓海とアイリスは何とか上質なホワイトウルフの素材と透明感があり表面が光に反射して虹色にキラキラと光る幻獣の素材を探し出した。
そして拓海はアイリスの会計で素材屋の叔父さんが提示した今の拓海の全財産を合わせても到底足らない値段に驚きながらも無事素材屋での買い物を終えたのであった。
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(俺も防具とかそろそろ新調した方がいいかな? この前のバンダースナッチのような強敵と戦うには今の装備じゃ付与魔法で強化しても厳しいだろうからな……)
買い物を終えた二人は店を出ると次は素材を渡し防具を注文しに鍛冶屋に向かって歩いていた。
ーーキュ〜……
そんな時隣から可愛らしい音が聞こえて思わずアイリスの方を向くと、アイリスは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてお腹を抑えていた。
そんな様子に拓海は頰を緩めて、アイリスに提案した。
「そろそろ昼ご飯食べに行こうか」
「うぅ……恥ずかしい……ありがとうございます」
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さっき素材を購入した素材屋はアストレアの南にあり、鍛冶屋は真逆の北の方にあるので拓海達は途中にあった店で昼御飯を食べることになった。
建物の窓際の二人席に座った拓海とアイリスの二人は料理を注文をして、拓海は目を細めて窓の外を眺めた。
「懐かしいな……。アイリスと初めて会ってこの店に来た時もこの席だったか?」
そう、ここは二人が出会ってから始めて入って会話をした喫茶店だった。
「あ、よく覚えてますね! そういえばあの時、店を出た後に胡桃さんと何か揉めてました?」
「あ〜……。うん、まあ、そのことは忘れてくれ……」
当時のことを思い出して苦笑いして答える拓海にアイリスはクスクスと笑っていた。
それからしばらくして料理を食べ終えたアイリスがお手洗いに席を外していた時、少し離れた席に座っていた女性の冒険者らしき二人組の会話を拓海はたまたま耳にした。
「またらしいわよ」
「またって……。まさかまた冒険者が行方不明になったの?」
「うん。今朝、友達のギルドの受付嬢の子に聞いた話なんだけどね……どうやら今回も死の森での依頼を受けた冒険者らしいよ」
(またか……。そういや、死の森付近のエンデ村は大丈夫かな? 今度三人で顔を見せに行こうかな……)
拓海がそんなことをぼんやりと考え眉をひそめていると、アイリスがお手洗いから帰ってきたので二人は鍛冶屋に行くため会計を済ませて店を出た。
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それからアイリスの案内のもと拓海達が訪れた二階建ての鍛冶屋は一階では受付と装備の採寸をしていて、二階には装備を造り上げるための工房があるようだ。
そして二人が並んで店に入るとドアの鈴が鳴り、拓海達に受付をしているおばさんが気が付いた。
「あら〜」
すると二人の姿を見たおばさんがにやりと笑みを浮かべながら近づいてきて二人に笑いかけた。
「あらあら、可愛い子ね〜! カップルで今日は何しに来たの? 見学かい?」
「ちょ、カップルって……」
何やら勘違いしている受付のおばさんに呆れながら拓海は何を言っているんだと同意を求めるように隣をちらりと見ると、赤くなって火照った頰を両手で隠したアイリスが満更でもなさそうな顔していた。
「……あ〜今日はこの子、アイリスの装備を作ってもらいたくって来たんだ。素材もある」
「なんだい、あんた達冒険者かい。それじゃあ採寸するけどあんたはここで見守るかい?」
尚もニヤニヤと笑みを浮かべたおばさんの言葉に拓海は苦笑いしながら答えた。
「あはは……遠慮しておきます」
拓海はやんわりと断り店の外に出ていった。店を出る前に何故か少しアイリスが残念そうな顔をしていた気がしたが気のせいだろうと拓海は思うことにした。
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それから拓海が今日あったことを思い出したり、街を歩く人を眺めたりして十分ほど暇つぶししていると、店のドアが開きアイリスが出てきて拓海の姿を見つけ小走りに駆けてきた。
そして拓海もアイリスに気づき、片手を上げて応えた。
「装備の採寸は終わったか?」
「はい! 終わったので拓海さんも中に入ってデザインを一緒に考えてくれませんか?」
そんなアイリスの期待の眼差しに拓海は小さく笑って応えた。
「俺でよければ」
その後、アイリスと拓海は防具のデザインの案を出し合ってようやくデザインがまとまった頃にはもう陽が沈んでいた。
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街灯が道を照らし、仕事終わりで飲みに行く街の人々の談笑が街中で聞くことが出来た。
そんな沢山の人々が行き来する街中を夕食を済ませた拓海達が並んで歩いていると、アイリスが小走りに拓海の前に走り出てさらさらとした光が反射して光る金色の髪をなびかせながら振り返り、満面の笑みを浮かべた。
「今日は本当にありがとうございました! とても楽しかったし、助かりました!」
「こちらこそ楽しかったよ! 色々勉強になることもあったしありがと」
そんなアイリスに拓海が笑いかけるとアイリスは一息ついて拓海に手を振って名残惜しいのを我慢して別れを告げて解散した。
その後、アイリスはすぐに宿に戻らずに夜風に髪をなびかせながら一人上機嫌な様子で今日一日あったことを思い返しアストレアの夜の街を歩いていた。
(楽しかったなぁ……。拓海さんはちょっと人の好意に鈍感だけど私の気持ちが少しは伝わったかな?)
そしてアイリスは髪を耳にかけて一人空を見上げると、口元に笑みを浮かべた。
(貴方に助けられたあの時からずっと私の大好きなヒーローです!)
そして一人の人間に恋するエルフの少女が見上げるアストレアの夜空に一筋の流れ星が流れた。




