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異世界に導かれし者  作者: NS
第9章 魔法都市ソーサリー
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9-29 魔神の眷属1



「いよぉ、拓海! こっちこっち!」



 ルーン内の喫茶店に入った拓海に手を振ってテンション高めの声をかける男が一人。拓海がルーンに来てからできた友達の一人、エレンである。



「悪い悪い、待たせちまったな」



 待ち合わせ相手の一人であるエレンの姿を見つけた拓海は、彼が座っている窓際のテーブル席に向かう。



「こんにちは桐生君。私達もさっき来たばかりよ」



 近づく拓海に、メニュー表片手に手をひらひらと振る女性の名はネオン。そして、その隣にはもう一人の女性、マグノリアがメニュー表を眺めていた。


 拓海はエレンの隣の空いた席に座り、四人は冷えたジュースを注文する。



「それで色々教えてくれよ、拓海先輩!」


「その呼び方やめろよな〜」



 今日拓海が呼ばれたのは拓海の冒険者としての経験談を、ネオンをリーダーとしたルーン出身の三人の冒険者パーティー「クェーサー」にするためであった。ちなみに、エレンがBランク、ネオンとマグノリアがAランクである。


 Sランク以上になると一気に知名度が広がってしまうため、現在の拓海の表向きのランクはAランクのままではあるが総合力は既にSSランクと同等以上、戦闘能力に至ってはSSSランクに匹敵するレベルになっていた。


 そんな拓海の実力の一端をルーンでの授業中に垣間見た上、少なくともSランク以上の冒険者であると知れ渡ってる胡桃とパーティーを組んでることからネオン達が、これからSランクへの壁を超えるためにも是非経験談を聞かせて欲しいと頼んだのであった。



「桐生君って、Sランク以上のモンスターと対峙したことあるんですか?」


「あー。まあ、あるよ。イレギュラーではあるけどな」



 任務としてSランクモンスターを討伐したとなるとSランク昇格の要件の一つを果たしてしまう。そうなると、拓海がAランクにいることに矛盾してしまう。



「イレギュラー?」


「胡桃がSランク、俺が冒険者になってしばらくしての時にもう一人の仲間とジャイアントボアトロールの討伐依頼の途中に遭遇したんだ」


「なるほどな、どんなやつに会ったんだ?」


「……バンダースナッチ」


「「「ッ!?」」」



 普段口数や表情の変化が乏しいマグノリアを含め、三人は目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。



「本当……? バンダースナッチっていえば、Sランクモンスターの中でも戦闘能力はトップクラスのモンスターよ」


「それを冒険者になりたてで遭遇したのかよ……」


「はは……初めて相対するだけで本当の死を感じた相手だったよ」



 拓海が当時のことを思い出して苦笑いを浮かべていると、訝しんだ表情のマグノリアが口を開く。



「胡桃ちゃんとはいえ、駆け出しの冒険者を守りながらバンダースナッチを相手できるとは思えないけど」


「……ま、色々あったんだよ」



 少しの間の後、息を吐いた拓海がそう答える。



「なぁ、拓海って本当はーー」



 エレンが半笑いでそう尋ねた瞬間だった。


 スッと目を細めた拓海が無表情でエレンの言葉を遮るように殺気を飛ばす。突如体験したことのない殺気と拓海の冷たい視線に内側を覗くように見抜かれたエレンが驚きのあまり口をパクパクと動かしていると、一足早く空気が拓海の空気が変わったことに気付いてから我に返ったネオンが青ざめた表情で頭を下げた。



「ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい」



 頭を下げたネオンの隣で、目を見開いたマグノリアも慌てて頭を下げていた。

 そんな自分に対して恐怖する三人の様子を見て、拓海はふと冷静になり、力を抜いて息を吐いた。

 


「いや、いい。でも、得体の知れない相手に迂闊に踏み込まない方がいいぞ」


「うっ、気を付けます」



 エレンがバツの悪い顔で小さくそう答えたのを見て、拓海はマグノリアに目を向けた。



「マグノリアが頼んだのか?」



 マグノリアは一瞬驚きの表情を浮かべ、目を伏せて小さく頷いた。



「マグノリアのお兄さん、元アークのメインパーティーの一人なんです」


「元……?」



 拓海がそう呟くと、マグノリアは悔しそうな表情で口を開いた。



「物資調達でメーテスに行ったきり……帰ってこなかった」


「メーテスを襲った災厄に巻き込まれたのか?」



 マグノリアが黙ったまま頷く。


 メーテスでの一件は具体的に何があったかは開示されず、現在は未曾有の災厄に見舞われたということになっている。現在調査が行われ、一部の関係者しかその真実は知られていない。

 マグノリアの兄は魔将アスタロトとの戦いにより命を落とした一人なのだろう。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、拓海はマグノリアの話を聞いた。

 昔からマグノリアの持つ魔法の才、アーク所属の兄を持つということから将来はアークの加入は確実と言われていた。

 しかし、一部の周囲の目は違った。誰もが憧れるアークへの加入を確実視されているが、実力がまだ伴っていないマグノリアを疎ましく思う者は決して少なくなかった。


 そのため、兄の力を借りずに昔からの友人であるネオンとエレンと組んで冒険者をしていたのである。


 そんな中、あと一歩。Sランクまであと一歩というところで兄の訃報。謎の厄災に巻き込まれて死亡。そんな説明だけで納得できる訳なかった。



「私は……真実を知りたい。Sランクに辿りつくため、あなたの事を知りたかったのは本当。でも、あなた達が来たタイミングがタイミングだから、もしかしたら何か知ってるんじゃないかって……」



 切実な表情で目を向けるマグノリアに、拓海は天を仰いだ。



(ふむ……どうしたものか。手助けしたいのは山々だが、巻き込みたくないな)



 今現在、魔将達に目を付けられている拓海と深く関わること自体が死に直結するリスクとなっていた。



「ごめん」



 何を言い訳しても巻き込んでしまう。

 拓海はそう一言、頼んだ飲み物分の代金を机に置いて席を立ち店の外に向かう。



「ま、待って!」



 店を出る拓海を急いで追いかけたマグノリアが拓海の肩に触れた瞬間、異様な感覚に襲われる。



「「ッ!?」」



 拓海とマグノリアは店の扉を開けて出た先には、店に入った時とは明らかに雰囲気が異なる人の気配を感じないルーンが広がっていた。

 そう拓海が思った矢先だった。



「選択の時だ」



 声の主に反応した二人が目を向けた先、近くの噴水広場に一人のアークのパーティーマークが印字された制服に黒いローブを身につけた男が立っていたのであった。


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