9-24 始祖の魔族
拓海が育った世界の、桐生家にある拓海の部屋。
拓海が気付いた時には、既にそこにいた。行方不明になっていた拓海の父、桐生楓と共に。
「父さん……ではないよな? 誰だお前」
透き通るようなスカイブルーと紫のオッドアイを持つ楓と、その気配は明らかに拓海が知る楓ではなかった。
楓は拓海の勉強机にもたれながら拓海の目を見て、拓海がよく知る楓の声で静かに答えた。
「始祖の魔族。魔将を従えし、七魔神の一人」
「ッ!?」
七魔神。この世界に来て間もない頃に胡桃から聞いた、かつて君臨していた伝説の七体のモンスターである。
驚愕し、言葉を失う拓海に楓は言葉を続けた。
「今日は君を勧誘しに来た。我らの仲間に迎えるためにな」
「何をーー」
「知らないだろ? 我らの目的。何者なのかを」
頭が混乱していた拓海であったが、勧誘に応じるなどあり得ないということは分かっていた。
しかし、楓が口にした内容が気になっていたことであった為、拓海はそのまま耳を傾ける。
「君は始祖の七人という言葉を知っているな」
「あぁ、この世界を創った最初に現れた七人だろ?」
「疑問を持たなかったか? その七人が一体どこから現れたのか」
「え?」
言われてみると、確かに疑問に感じた拓海が黙っていると、楓は口を開いた。
「君と同じ。我を含め、異世界から導かれた者達だ。一人を除いてな」
拓海は考えたこともなかった。
自分が暮らしていた世界と、今自分がいる世界以外の世界の存在を。
「始祖の七人達については、この世界で産まれた者達は七人の内の誰かから理を解かれない限り、深く考えることは出来ない」
続くその言葉で拓海が以前から疑問に思っていたことに対する答えが浮かんだ。
「仁さん、ルミエールさんも始祖の七人ということか?」
「始祖の幻獣と始祖の天使。二人共始祖の七人だ」
普通の存在とは異なるとは思っていたが、まさか始祖の七人だったとは思いもしなかった拓海は驚きながらも応えた。
「いいのか? 俺にそのことを教えても」
「どの道、そう遠くない内に知ることになっていただろう。既に二人が提示した試練を受け、認められているからな」
実際、仁には炎帝の試練、ルミエールにはメーテスの調査任務と、拓海は既にその実力を二人に認められており、このことは遠くない未来に知る事実であった。
「本題に入ろう。我らの目的についてだ」
拓海がずっと気になっていたことである。仁やルミエール、またルークから伝えられていない魔将、始祖の魔族の目的。
何故、この世界の大都市を襲い続け、破壊活動を行うのか。
「悠久の地、異世界とこの世界を繋ぐその場所を探し出し、元の世界への帰還することだ」
「ッ!?」
思いもしなかった発言に、拓海は絶句してしまう。
今までの魔将達の行動からは全く予想にすらなかったその目的に、魔将達の街の破壊行動がどう繋がるのか理解出来ず、拓海は混乱していた。
「嘘だ……お前達は街の破壊や殺戮を繰り返していただろ。何で……どういうことだ?」
「我らは先程言った目的のために動いている。君には今はそれしか言えないな」
「くっ……」
具体的に問い詰めたいところではあるが、拓海の本能がこれ以上楓に近づくことを拒否していた。
そして、楓はそんな拓海のもどかしそうな表情を目を細めて眺めながめ、冷静な口調で拓海に語りかけた。
「ただ君が我らの同志とならなかったとしても、警告しておこう。これ以上我らに手出しをするな。何もしなければ、君達に危害を加えるつもりはない」
「俺はーー」
「大切なものを失いたくないのならば……な」
拓海の言葉を遮るように楓が呟くと同時に拓海の視界がぼやけていく。
薄れていく視界と意識の中、拓海は自分の中で様々な感情や想いが暴れているのを感じる。
「いずれまた相対する時が近いうちに来る。その時に答えて聞かせてもらおうか」
その言葉を最後に拓海の意識は途切れた。




