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異世界に導かれし者  作者: NS
第9章 魔法都市ソーサリー
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9-22 ユグドラシル1

 珍しい物を見るように辺りを見渡す。


 冒険者が依頼を受注している大きな受付、ボードに浮き上っている依頼書が順番に切り替わっていく掲示板の役割を果たしている巨大なマジックアイテム。見覚えのない珍しいマジックアイテムか武器かよく分からないものを背負っている冒険者。


 拓海は一人、ソーサリーの冒険者ギルドの中にあるカフェのカウンターで軽食をとっている。


 今はウイが冒険者登録の手続きをしにいき、胡桃はそれに付いていっていて、先にソーサリーでの冒険者活動を行う上での注意点を聞いたり、手続きを終えた拓海は時間を潰していた。



(何かアストレアとか大和とは全く違う雰囲気だな……)


(だね〜、何か暑苦しい冒険者達が騒いでるイメージあるもんね……)


(ソーサリーは皆さん落ち着いている感じがしますね)



 拓海の心の世界で鍛錬の休憩をしていたソラとステラの二人と話していると、カウンターのカフェの女性スタッフが見ない顔の拓海に話しかけた。



「お客さん、ソーサリーの冒険者ギルドは初めてですか?」


「あぁ、普段は大和で活動してるからな。見たことないマジックアイテムとか雰囲気が全然違うから珍しくってね」


「大和!? それはまた遠くから……。私は他の街には行ったことがないので分からないのですが、結構違うものなんですね」



 その後、拓海が店員と少し雑談をしたところ、どうやらこの冒険者ギルドのすぐ近くにある大きな酒場が血気盛んな冒険者達の溜まり場となっていることが分かった。

 そして、今拓海がいるカフェは基本的に落ち着いた雰囲気の冒険者や女性冒険者達がゆっくりと過ごしたりすることが多いようだ。


 それから店員との雑談を終え、しばらくするとどこか嬉しそうな表情の胡桃と今日ここに来た時よりも落ち着いた様子のウイと合流した。



「お疲れ様。何事もなくなれたか?」


「うん、お陰様で。二人共ありがとう」



 律儀に頭を下げるウイに拓海と胡桃は顔を見合わせて苦笑を浮かべ、胡桃はウイの頭を撫でた。



「もー、私達は付いて行っただけだから。それに良かったじゃない、期待のルーキーって言われてたじゃない」


「う、うん……良かった」



 照れながら嬉しそうに頬を染めるウイを拓海が微笑ましく見守っていると、ギルドの入口から常人では纏えないような覇気を発する冒険者のパーティーが入ってきたことに拓海は気付いた。

 もちろん拓海と同様気を察知した胡桃も、本能的にその冒険者達の方に目を向けた。


 そして先頭を歩く一人と拓海は目が合う。


 

「「あ……」」



 二人が同時に声を上げると、後ろをついて来ている他の冒険者達も拓海達の方に目を向け、その内の一人が思わず声を上げた。



「拓海さん!」


「アイリス!」



 純白のドレス型の防具に身を包んだ金髪のエルフ、拓海に好意を抱き、最初に胡桃と共に拓海が組んだ冒険者パーティーの一人である。


 嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら拓海のもとに駆けていき、思い切り抱きついた。



「うおっ!?」


「会いたかったです!」


「……」



 胡桃が無言でジト目を拓海達に向けるが、アイリスは動じずに悪戯っぽい笑みを浮かべてウインクを返す。



「……ッ! 良い度胸じゃない!」


「ゴホッ!?」


「きゃっ!?」



 胡桃が目にも止まらぬ速さで拓海の後ろから抱きついて、伝わってきた衝撃でアイリスは思わず拓海から離れた。

 胡桃は拓海の後ろから顔を出しながら勝ち誇ったような表情を得意気にアイリスに見せると、アイリスは悔しそうな表情をしていたが、ぐったりと項垂れている拓海に気付いて青ざめた。



「拓海さん!? 大丈夫ですか!?」


「ん……? 拓海!?」



 胡桃が慌てて離れ、一瞬意識が飛びそうになった拓海が何とか踏み止まって弱々しく顔を上げると、アイリスの隣で苦笑を浮かべるブロンズの長髪、アイリスと同じ尖った耳が特徴的な女性。


 リンスィールがそこにはいた。



「元気そうで何よりだ」


「ははは……。リンさんも元気そうで何よりです」



 彼女とは二ヶ月程前に拓海達がメーテスでの依頼で助け、共に魔将との戦いで力を合わせた仲である。


 後ろを付いて来ていた仲間に指示を出し、仲間が拓海達を見定めるように眺めながら移動したのを確認したリンスィールは胡桃とウイの方を一瞥し、拓海に尋ねた。



「彼女達は君の仲間か?」


「胡桃は同じパーティーの仲間です」


「ん? そちらの……」


「この子はルーンの生徒です。さっき冒険者登録をしたばかりの駆け出しです」



 そう拓海が言いながら振り向くと、何故か魂が抜けたかのように固まって瞬きを繰り返すウイが立ち尽くしていた。

 そのウイの様子にリンスィールはたじろぎながらウイに尋ねた。



「ど、どうした? 私、何かしたか?」


「あ、え、あれ……? あの、『ユグドラシル』のリーダー、リンスィールさんですよね?」



 リンスィールの声で我に返ったウイが動揺しながら目を泳がせて小声で尋ねた。


 この前ウイが将来『ユグドラシル』のパーティーに入るために冒険者になりたいと言っていた。リンスィールがユグドラシルのリーダーであることを忘れていた拓海は、ウイの質問でようやく状況を理解したのであった。



「あぁ。そうだ」



 それを聞いた瞬間ウイはプルプルと小刻みに震えながら、振り返っていた拓海の両肩をがっしりと掴んだ。



「な、何でこの前教えてくれなかったんですか!? 知り合いだったならあの時言ってくれればーー」



 揺らされる拓海は目を回しながら再びぐったりと項垂れると、リンスィールは首を傾げながらウイに尋ねた。



「私に何か用があったのか?」


「あ、えっと……あの」


「まーまー、リンさんは今お時間ありますか?」


「あぁ、丁度私も君に尋ねたかったところだ。仲間に是非君を紹介したくてな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それから、カフェに入って先に待っていたリンスィールの仲間を交えながらお互い自己紹介や様々な情報交換などを行ったりして交流を深め、ウイは将来ユグドラシルに入りたいことについて経緯を本人がリンスィールに伝えていた。


 そしてその想いや強い意思はリンスィール達に伝わったようで、今は別のメンバーがウイに様々なことを教えていた。

 もちろんリンスィール達はウイにただ同情したわけでも甘やかしたわけでもない。ウイの人柄や冒険者カードなどの情報から将来的にユグドラシルのメンバーに充分なることが出来る程の潜在能力があると判断したからであった。


 ユグドラシルの最低限の募集条件は女性でありSランク以上の冒険者であること。

 本人はあまり自覚していないようではあるが、何年後になるか分からないがウイが順調に経験を積んでいけばSランク以上の冒険者になることが出来るだろう。


 そんなウイ達を横目に隣のテーブルで拓海と胡桃、そしてアイリスとリンスィールが会話をしていた。



「それにしても再会がこんなに早くなるとは思ってなかったな」


「あぁ、それにアイリスもサリオンさん達を説得出来て良かったな」


「はい!」



 アイリス曰く、説得したというより冒険者になるという報告をしただけで、サリオンはアイリスが冒険者になることを特に止めなかったらしい。ただ偶に元気な顔を見せてくれとだけ伝え、アイリスがソーサリーに行くのを見送ったそうだ。


 

「ユグドラシルの皆さんに日々学ぶことばかりですが、頑張ってます!」


「ははっ、まあ頑張り過ぎて倒れないようにな」



 やる気に満ち溢れているアイリスにリンスィールが苦笑している様子を拓海と胡桃が見守っていると、アイリスが思い出したかのように拓海に尋ねた。



「そうでした、ソラちゃんとステラさんは元気にしてますか?」


「おう、流石に人目があるから今すぐ出てくるわけにはいかないけどな」


「それもそうですね……二人とまた話したいです」


(拓海さん、元気ってこととアイリスとまた話そってこと伝えてー)


(私もお願いします)


「二人が元気にしてるだってさ。また話したいとも言ってる」


「はい! また話しましょう!」



 そして、笑みを浮かべてそう返すアイリスに拓海が頷くと同時。


 何の前触れもなく、突如空気が変わる。


 思わず拓海が胡桃の方に目を向けると、同じく何かを感じとったのか目を合わせた。



(何だ……この覇気と存在感!?)



 そして、その人物はギルドの入口から現れた。



 全身に漆黒の鎧を纏い、特徴的な両刃の巨大な黒斧を背負っている。身長は拓海よりも高く、周りの空間が微かに揺らめいて見える。

 その圧倒的な存在感は殺気を辺りに発する巨大なモンスターを彷彿させる。



(!?)



 驚いている拓海は思わず立ち上がってしまった。

 それもそのはず。その人物が真っ直ぐ拓海達の方に歩いてきたのだ。


 そして、あっという間に拓海の目の前まで来て立ち止まる。

 目の前にすると、その圧倒的な覇気と存在感に拓海はたじろぎそうになる。



(今まで色々な人と会ってきたけど……その中でもここまでの人いたか?)



 そう何も言わないまま拓海がその人物を見据えていると、リンスィールが呆れた声を上げた。



「どこ行ってたんだクリーク」


「おい、リン。んなことより、こいつ誰だ?」



 そうリンスィールに尋ねるクリークと呼ばれた人物の黒い鎧が突然剥がれていき、背負っている黒斧に吸い込まれていった。



「え?」



 拓海は思わず声を上げてしまった。灰色のポニーテールに太陽のような橙色の瞳が特徴的な高身長の女性が現れたのである。

 この女性こそ、ユグドラシルのリンスィールと対を成すSSSランク冒険者でありエースであった。

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