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異世界に導かれし者  作者: NS
第9章 魔法都市ソーサリー
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9-18 ルーン2

 広大な訓練所に静寂が訪れる。


 相対するのは桐生拓海と神道真。

 自然体で両腕のガードを下ろした状態で呼吸を整える真に目を向けてから数秒、静かに呼吸を整えた拓海は腕のガードを上げ、身体から無駄な力を抜いて構えた。



(ほぅ……)



 拓海から数メートル離れた場所に立つ真は、さっきまで穏やかな雰囲気だった少年が、年不相応な突き刺すような殺気を放ち始めたことに少しだけ珍しいものをみるような視線を向けた。



「言っておくが、手を抜くつもりはない。今のお前を見て、明らかに数々の死地を乗り越えてるのは分かったからな」


「あぁ、別に構わない」



 そう言って拓海は軽くステップを踏み出し、次第に拓海の身体の輪郭がぶれ始める。

 仕掛ける、そう思った瞬間だった。



「ッ!?」



 久々に感じる、まるで刃物を喉元に突き付けられたような寒気が拓海を襲う。

 第六感に任せて、拓海は素早くバックステップした。


 しかし、まだ最初の立ち位置に真の姿が見える。拓海は、かつて対峙した鳳仁が使った殺気を応用した技術と似たものと判断し、怯むことなく真との距離を一気につめる。


 驚くこともなく拓海が距離を詰めてきたことに真は一瞬眉を潜めたが、拓海に殺気を向けながら真も同時に接近した。



「やはりあいつと面識があるな、お前」



 その言葉と同時に真から繰り出される高速の拳が拓海を襲うが、様々な強敵との近距離戦を経験し、普段から胡桃と訓練をしている拓海は全ての攻撃の軌道を予測しながら受け流して反撃する。



(あいつ……? それはそうと捌き切れないことないけど……素手の近距離戦は向こうが上手か)



 そう思いながらも拳を振り下ろしてきた真に一瞬隙が出来たことを拓海は見過ごさなかった。そのタイミングに拓海はまだ見せていない自身の最高速度でカウンターで合わせようと拳を振り抜く。

 一歩更に踏み込んで真の顔面に向けて放った拓海の拳が貫くかと思われた瞬間だった。



 拓海の視界が回る。



「がっ!?」



 背中を勢いよく床に打ち付けられた拓海は、息が詰まって思わず声を出してしまう。


 そして、いつの間にか馬乗りになった真の振り下ろされた拳が拓海の顔面の前で止まった。

 風圧で拓海の髪がなびき、真が拳を引いた。



「悪くないな」



 何をされたかも分からないまま地面に転がされた拓海は、その言葉を聞いたと共に我に返り、表情を変えることなく立ち上がって自分を見下ろす真の眼を見て背筋が凍った。

 今の拳を振り抜いていたらおそらく拓海の頭は木っ端微塵に弾けとんでいただろう。

 だが、そんな真の眼から感情は一切感じられなかった。一歩間違えれば人の命を散らすことが出来たのにも関わらずだ。



(武器術の教師だったか? 厳密にいえば拳も武器だからな。流石に強い……)



 纏っている雰囲気や底が見えないその強さは、どこか自分が知っているとある男と似たようなものを感じた。



「お前、あの化け物と戦ったことあるな?」


「化け物?」


「鳳仁。知ってるだろ?」



 もちろん知っていた。エンデ村の村長、冒険者連合のトップ、炎帝など様々な顔を持つ仁は、拓海にも未だにまだまだ分からないことが沢山あった。


 立ち上がった拓海は眉を潜め、真に答えた。



「まあ……知ってるけど。珍しい名前だから多分あんたが言ってる人だと思うし」


「お前……いや、まあいい。それにしても、普段からいい練習パートナーがいるんだな。もしかしてあの子か?」



 そう話題を逸らした真の視線の先には、伸脚をしながら拓海と真の会話を終えるのを待っている胡桃の姿があった。

 そして、二人の視線に気付いた胡桃はストレッチしながら拓海に目を向けた。



「次は私かな? それと拓海。訓練だからって、実力が分からない相手にちょっと無警戒過ぎだよ」


「う……そうだな。ちょっと慢心があったかも。気をつけるよ」


「うん、でも……片鱗は見れたからありがと」



 そう拓海に向かって親指を立てて笑みを見せる胡桃に、苦笑する拓海の真は表情を変えることなく胡桃に警戒していた。



(今のが見えていたか。SSランクなだけはある……か。いや、近接ならSSランクを超えている可能性もあるか)



 そうこう真が考えている内に拓海は立ち上がって、セレナの隣で見ていた胡桃がいた場所に歩いていく。

 そして、その途中に拓海の背中が微かに魔力を帯びたことをセレナは見過ごさなかった。



(今のは……無詠唱?)



 少し驚いた表情のセレナに気付いた拓海は不思議そうな表情で尋ねた。



「どうかしました?」


「いや、大丈夫。あまり自分の手の内を晒したくもないでしょ?」


「まぁ……それはそうですけど。そんなこと言っても後で刀技を見せて欲しいって……」


「あ……」



 セレナはよく自分の生徒に無闇に自身の手の内を晒さない方が良いと教えていた。

 そして、完全に矛盾した遠慮に気付いたセレナは、徐々に恥ずかしくなって頬を染め、隣に立つ拓海の背中を勢いよく叩いた。



「ちょっ!?」


「大丈夫、後で私も剣技を見せるから。だから、自分の手の内は出来る限り他人に見せない方がいいよ」


「お、おう」



 拓海は目を白黒させながら、ぎこちなく頷く。

 セレナは拓海の刀技への好奇心に負けてしまい、自分の教えに反して、他人の手の内を無意識の内に直接聞こうとした自分が恥ずかしくなってしまい、拓海から顔を背ける。



「何してんだあいつら……」



 珍しく勝手に自爆して恥ずかしくなっているセレナと、何故か背中を叩かれて動揺する拓海を、真は呆れた表情で見ていた。



「さっ、やりましょ」



 そしてそんな真と対峙する胡桃は、既に先程のようなまだ少し幼さが残る少女ではなく、真と同じく感情を全く感じられない冷酷な表情と洗練された闘気を身に宿した一人の戦士となっていた。


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