9-12 手紙
拓海と胡桃が大和に帰省して約一ヶ月が過ぎた。
アストレアで目を覚ました魁斗は帰ってきた。
だが、まだ本調子ではなさそうな魁斗は少し一人になりたいと、無人島に修行のため篭ってしまった。一応大和の緊急時にすぐ駆けつけられるように大和の近くの無人島らしいが、詳細な場所は美琴だけに伝えて出て行ってしまった。
そして、志乃達から一度冒険者ギルドを通して胡桃の家に手紙が届いた。
驚いたことに、ラダトームに新設された冒険者ギルドから手紙が届き、二人は旅をしながら修行を積み重ねているようだ。この様子だと再び会うことになるのはいつになるのやらと、拓海達は苦笑を浮かべるのだった。
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話は変わり、帰省して数日。拓海と胡桃の二人は調子が戻っているかどうかを試す為、組手や魔力を操作する訓練をした。その結果、自分達の調子が戻っていると感じ安堵していた。
しかし、実際そうではなかった。
日を増すごとに二人は回復し切っていると思っていたはずの、自分達の魔力の量が徐々に増えてきて、動きもキレと速さ、力や体力といった基礎的なものまでも増していくのを感じていた。
二人は自身の知らない内に想像以上の成長をし、その急成長に自分達までもがついていけなくなっていたのである。
拓海はその変化に驚きながらも、最近の短期間での数々の強敵との戦いで自分の成長に納得していたが、胡桃は誰よりも困惑して動揺していた。
確かに胡桃は自分と同格以上の実力者であるラダトームの守護騎士、ギルアとの戦いで生き残ったが、それだけで拓海と同等の成長があるとは思えない。
だが特に体調を崩したり具合が悪いどころか、体調はすこぶる良いため違和感がありながらも胡桃はいつも通り過ごしていた。
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今日は柑菜が美琴のもとで修行を受ける建前でエルに会いに行っているため、拓海と胡桃の二人は家で装備のメンテナンスをしたり、マジックバックの中を整理していた。
「あれ?」
ソラとステラが部屋の隅で何かを話し合っている中、マジックバックを整理していた拓海が突然声を上げた。
「どうしたの、拓海さん?」
拓海が何を見つけたのか気になったソラは、小走りに拓海に近いて拓海の肩から顔を出し、ステラはソラの後ろでその反対から顔を覗かせた。
拓海の手には一封の白い封筒が一つ。
「あー……完全にこれの存在を忘れててさ」
「それは?」
苦笑しながらヒラヒラと封筒を見せる拓海は、目に霊気を宿して封筒を見つめながらソラに応えた。
「アストレアでルミエールさんに渡された封筒だよ。ほら、この紙に細かくあの人の魔力が組み込まれてるからすぐ分かるぞ」
「あの人の魔力かどうかは分からないけど、確かに魔力は感じるね」
「ま、それはそうとして、気が向いたら見てくれ……とか言ってた気がするし見てみるか!」
そう言ってマジックバックから取り出した小型ナイフで封筒を開け、中の手紙を取り出して広げた。
「どれどれ……」
それからしばらく拓海達三人は手紙を読んだ。
中には二つの紙が入っており、一つは手紙。そしてもう一つは紹介状であった。
ルミエールの手紙の内容は簡潔に言えば、魔法都市ソーサリーに行ってみてはどうかという提案であった。
魔力量が増大した拓海は、桔梗を通じて更に膨大な量の魔力を扱うとなると、現在の拓海の技術では扱い切れない上に最大限まで活かすことなど到底出来ない。
そこで拓海の今の状態を予期していたルミエールのソーサリーに訪れてみてはどうかという提案である。
ソーサリーには魔法操作に長けた実力者が多数いて、魔力について教える学舎もあるようだ。
そして、『アーク』という冒険者パーティーのメンバーがソーサリーを統治し、様々なマジックアイテムの開発や人材の育成を行ってらしい。
ちなみに『アーク』は全ての街の冒険者パーティーの中で最も能力があるメンバーが揃い、実績も群を抜いている。ルミエール曰く、自分が所属している『解する者』と同等の実力者が揃っているようだ。
そして手紙の最後には、この先訪れる試練に立ち向かう際、必要となる技術がそこで学べるということも書かれていた。
また、ルミエールの紹介状はソーサリーにある、魔力について様々なことを学ぶ学舎を統治する『アーク』のメンバーに向けてのもので、拓海が一定期間生徒として扱ってもらえるようにしてもらうためのものであった。
一通り読み終えた拓海は一度ソラとステラに心の世界に戻ってもらい、思いついた案を提案しに胡桃のもとに向かうのであった。




