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異世界に導かれし者  作者: NS
第9章 魔法都市ソーサリー
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9-11 休暇2

 快晴の空の下、大和にある森の少し開けた場所でひたすら刀を振り下ろす人物が一人。



「……九百九十九……千」



 辺り一面背の高い木々に囲まれた森の中、拓海は特別な重い金属で作られた修行用の刀を振るっていた。

 今日は胡桃は桜に装備のメンテナンスがてら遊びにいき、柑菜は美琴の元で修行をしていて、一人になった拓海はここ数日出来ていなかった鍛錬をしようと決めたのである。


 そして拓海は素振りだけでなく、型の確認、魔法と霊気の繊細な操作といったことをソラとステラに見守られながら朝から繰り返し行っていた。



「拓海さん、仁さんとの試練で体力とか基礎的な力が段違いに成長してるね」


「あぁ、前までは千回やると息が上がってたしな。俺自身も正直驚いてるよ」


「一回一回のキレも落ちず、身体の軸も最後までずれていませんでした。流石です拓海様」


「ははは……ありがとな」



 少し大きめの岩の上で座っているソラとステラの言葉に、拓海は照れながらも笑って誤魔化しながら応えた。

 実際、大和を出て強者との戦いが続いた拓海は本人が思っている以上の成長していた。



(でも、仁さんやノアにはまだ到底及ばないんだよな……)



 二人の動きを思い返しながらそんなことを思っていると、拓海は突然勢いよく顔を上げた。



「誰か来てるな」


「え? こんなところまで来る人なんて中々いないと思うけど」


「んー、でも知らない気配だな。気配を隠している気もなさそうだし、魔力と殺気はないから敵対しているわけではなさそうだけど……」


「念の為、私とソラ様は戻っておきましょうか?」


「頼む。まあ嫌な予感も感じないし何もないとは思うけどな」



 拓海が目に霊気を宿し、こちらに近づく気配の方を見ても特に悪い予兆も見られないが、マジックバックから桔梗を取り出して腰に取り付け、近づいてくる気配の到着を待った。


 そして、数分後。


 拓海の視界に一人の少女の姿が映ったと同時に、二人は目が合った。



「「あっ」」



 暗めの蒼色のポニーテールを揺らす、水色の瞳を持つその少女は大きめの岩場の上に座っている拓海に気がつくと、驚いた表情で慌ててお辞儀しながらも近づいて来て、拓海がさっきまで修行をしていた開けた場所に足を踏み入れた。



「こんにちは〜、人待ちですか?」



 見た感じ妹の柑菜と変わらなさそうな年頃の少女が珍しそうなものを見るように尋ねると、拓海はその場から動かないまま応えた。



「いや、修行だよ。今は少し休憩中でね。君はどうしてこんなところに?」



 すると拓海に尋ねられた少女は小さく笑みを浮かべた。



「最近分かったんですが、ここは澄んだ魔力が感じられて大和の中でも心地が良いんです。休憩中にこうしてたまにのんびりしに来るんです」


「澄んだ魔力……? まあいいか。折角だし、君がいる間は俺も休むことにするよ」


「えっ……いやいや! お構いなく!」



 首を振って必死な様子に、少女が誰なのか気付いた拓海は小さく笑って応えた。



「ははっ、君とちょっと話したくなってさ。エルさんだろ? 雰囲気変わったから、最初は気付かなかったけど妹から君の話は聞いたよ」


「妹……あっ! ひょっとして柑菜のお兄さんですか?」



 柑菜からよく拓海の話を聞いていたエルは思いついたような表情を浮かべ、以前ラダトームで見た時とはまるで別人に見えるほど明るい表情で拓海に尋ねた。



「あぁ、桐生拓海だ。何時も妹が世話になってるね、ありがとな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それから二人は大きめの岩に座り、拓海は大和の街で景色が綺麗な場所や食べ物が美味しい店をエルに教えたり、エルは美琴やルナの意外な一面をこっそり話したりと雑談を交わして二人は過ごしていた。


 そして、丁度話題が途切れたタイミングでエルは岩から立ち上がった。



「私、そろそろ休憩が終わるので行きます」


「おう、頑張ってな」


「はい!」



 くるりと回転して楽しそうな表情を浮かべるエルに拓海が応えると、返事をしたエルがそのまま言葉を続けた。



「今日は色々教えてくれてありがとうこざいました。今度の休みにでも、柑菜と行ってみますね」


「こちらこそ。雑談楽しかったよ、美琴さんにもよろしく伝えておいてくれ」


「はい! 伝えておきます」



 そう言って拓海にお辞儀をして森の方に駆けていき、何かを思い出したかのように振り返った。



「柑菜が優しい自慢のお兄ちゃんって言った意味が少し分かった気がしました! またどこかで」


「お、おう」



 そう満足気な表情で再度お辞儀したエルはそのまま去っていき、拓海はエルの後ろ姿が見えなくなるまで見送った。



(柑菜ってそんなに俺の話をしてるのか……? 何か恥ずかしいな)


(拓海さんも大概ですよ……)


(え? それってどういう)



 自覚がない拓海に、心の世界でステラと過ごすソラは苦笑を浮かべて拓海の問いに答えずにステラと会話を始めるのだった。

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