9-7 邂逅3
「ん……ここ、は?」
爽やかな風でシノの真っ白な髪がふわりとなびく。
ノアとシノは光に包まれて視界が真っ白に染まり、思わず目を閉じてしまった。
そして二人がゆっくりと目を開けた時には、ノアには見覚えがなく、シノには見覚えのある景色が目の前に広がっていた。
心地よい風が吹く空気が澄んだ青空の下、綺麗な花が沢山咲き誇る花畑が広がり、少し離れた場所には一軒家が建っている。
突然見知らぬ場所に立っていたことに驚くノアは、ハッとした表情で隣に立つシノの方に目を向けた。
「シノ、大丈夫?」
「ん、大丈夫」
「そっか、よかったぁ。それにしてもここはーー」
すると、ノアが辺りを見渡して呟いた言葉をシノの明るい声が遮った。
「ここ、シノの心の世界!」
「え?」
「こっち……来てっ!」
「あっ、ちょ、ちょっと……」
直後、シノが驚いた表情のノアの手を引いて、広がっている花畑の中に一本だけある道を走って、色とりどりの様々な花畑が広がる美しい景色が後ろに流れていく。
シノに手を引かれるノアは、前を走るシノに目を向けながら不思議な気持ちが湧き上がってきていた。
(シノ……)
幼い頃はいつも自分がシノの手を引いて色々な場所に連れて行っていたため、ノアは初めてシノに先導されたのだ。
ノアはシノが昔と比べて成長したことに嬉しい反面寂しさもあったりと、複雑な気持ちになっていた。
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そして、しばらく道を走っていた二人はついに少し離れた場所に見えていた家に辿り着いた。
それからシノは間髪入れずに家の扉をノックして、ノアの手を繋いだまま家の扉を開く。
「どこまで行くのシノ?」
「こっち!」
ノアの問いかけに元気よく言葉を返したシノは扉を開け、玄関で靴を脱いで家の奥にある扉を開いて部屋の中に入った。
そして部屋の中を見たノアは目を見開いて、思わず立ち尽くしてしまった。
「これって……」
見覚えのあるお気に入りのぬいぐるみ、幼い頃に使っていた家具の数々ーー。
「覚えて……る?」
「うん! もちろん! 家、私達が住んでた家だよシノ!」
ノアは嬉しそうに耳と尻尾をパタパタと動かしながら目を輝かせた。
この部屋は幼い頃、シノ達の家族が過ごしていた居間だった。
「シノは前に、ここに来ーーッ!?」
ノアが部屋を懐かしそうに眺めながらシノに問いかけようとした瞬間、居間の隣にある部屋にシノ以外の気配があることに気付いて目の色を変え、急いでシノの前に立って身構えた。
シノは遅れて気配に気付き、身構えたノアに驚いて目を見開いた。
「誰?」
「待って、お姉ちゃん!」
突然身構えたノアをシノが慌てて止めにかかろうとしたところで、隣の部屋にある食卓に繋がる扉が静かに開く。
「え……」
瞬間、ノアは動きを止めた。
「ふふっ、随分鍛えているようねノア。シノも久しぶり」
「んっ……! 会いたかった、ママ!」
シノは満面の笑みを浮かべて部屋に入ってきたアリアの胸に飛び込んでいき、尻尾をぶんぶんと勢いよく振りながら抱きついていた。
アリアは、パタパタと獣耳が動くシノの頭を優しく撫でながらノアに目を向け、少し驚いた表情を浮かべた。
「あ、えっと、えっと……」
ノアはその場から動かないまま、混乱していて表情もそのままで目からは次々と涙が出ていた。
そしてノアはアリアと目が合ってアリアが浮かべた懐かしく優しい笑顔に、いても立ってもいらなくなったノアは、抱き合うシノとアリアに駆け寄って二人の感触を確かめるようにしっかりと抱きしめるのだった。




