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異世界に導かれし者  作者: NS
第9章 魔法都市ソーサリー
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9-5 邂逅1

 一足先にアストレア城の最上階に転移されて、アルカディア城を出た拓海とアイリスの二人はアストレアの中で最も幅が広くて有名店が立ち並ぶメインストリートを歩いていた。


 居場所が分からないはずの胡桃達とまず合流しようということで街を歩いているが、隣を歩く拓海の足取りが迷いがないため、不思議そうな表情を浮かべたアイリスは尋ねた。



「胡桃さんの居場所が分かるんですか?」


「いや、ちょっと心当たりがあってさ」



 アイリスは首をひねりながらも、いつもより若干足早な拓海の後を追っていくのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「よし、着いた」



 歩き続けて数分。

 拓海が足を止めたのはメインストリートにあり、一階だけ天井が高い四階建ての白い建物だった。


 そして、ここは拓海がアストレアに来て初めて泊まった場所であり、その後アストレアに滞在していた時も拓海と胡桃とアイリスの三人が長らく世話になった宿屋である。



「胡桃の気配と魔力もここから感じるし、やっぱりここだったな」


「拓海さんの予想通りでしたね!」


「あぁ。胡桃はこの宿すごい気に入ってるからな。滞在してるならここかなってさ」


「なるほど……納得です」


「よし、入るか!」


「はい!」



 話が終わって拓海の言葉にアイリスが応え、拓海は木製の店の扉を開く。


 すると、誰かが出入りしたら分かるように扉の内側に取り付けられた鈴のような物が綺麗な音色を奏でた。



 その瞬間だった。



「拓海〜!!!!」


「うおっ!?」



 満面の笑みを浮かべた胡桃が扉を開けた瞬間、拓海の胸に飛び込んでいき、拓海は咄嗟に胡桃を抱き止めた。



「ごめん、心配かけたな」


「大丈夫。拓海なら絶対無事に帰ってくるって信じてたから」



 胡桃がそう言いながら目を細めて嬉しそうに拓海を見上げて笑いかけた。


 そして、拓海は自分に抱きつく胡桃を直視出来なくなってしまい、照れながら思わず顔を背けた。



「拓海〜? こっち向いてよー」


「あ、あぁ……ごめんごめん」


「お二人共ー……」



 そんな風に二人が急にいちゃついている隣で、ついに耐え切れなくなったアイリスが複雑そうな表情で声をかけた。



「皆さん見てますよー……」


「「あ……」」



 アイリスの言葉で拓海が辺りを見渡してみると、一階の酒場に座っている男性客は恨めしそうに拓海を睨み、女性客は二人のやり取りを微笑ましそうに眺めていた。


 そして、管理人の女性が腕を組んで二人をジト目で見ていた。



「胡桃ちゃん、仕事中」


「あっ……そうだった。二人共、あとでゆっくり話そ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「そうかい……あんた達若いのに大変ねぇ」


「すいません。詳しくはちょっと言えないので」


「気にしなくていいわよ。仕事柄、言えないことが沢山あることは分かっているわ。それより、あんた達とこうやって無事また会えて嬉しいねぇ」



 胡桃が宿の一階の酒場の手伝いをしに行った後、カウンターの奥にある部屋で従業員が休む時用のテーブル席で管理人の女性と、拓海達は話をしていた。


 話によると、数日前から胡桃と志乃がこの宿に訪れ、しばらく寝込んでいて全く動いていなかった胡桃がリハビリさせてもらえないかと、宿の酒場の手伝いを志願してきたそうだ。



「はーい! お伺いしまーす!」



 酒場から元気に聞こえてくる胡桃の声に、管理人が拓海とアイリスを呼んで、三人は部屋から少し顔を出して客のオーダーを取りに行く胡桃に目を向けた。



 胡桃は少し伸びた髪を邪魔にならないように後ろで縛り、可愛らしい給仕服を着て笑顔を客に見せていた。



「あの子もこうして見ると、全然冒険者に見えないでしょ。私服ならあんた達もね」


「そうですね……」


「あんた達の業界では、あんた達は優秀な冒険者かもしれないけど、まだ子供。適度に休まないと駄目よ」



 管理人は二人の表情をうかがいながら心配そうに、拓海とアイリスの頭にポンと手を乗せた。



「はい。私達は適度に休養を取っているので大丈夫です。心配してくださり、ありがとうございます」


「ならいいの。体調には気をつけなさいね」



 管理人はアイリスの言葉に微笑んで二人の頭を優しく撫でた。


 二人は少し恥ずかしく思いながらも、不思議と嫌な気はしなかったのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「え? 今シルフィさんの家に泊まってるのか?」



 手伝いを終えた胡桃と合流した拓海達三人は、雑談しながら夜のアストレアの街を歩いていた。



 拓海とアイリスは割と長い間宿屋で管理人と話したり、仕事を手伝いながらノアが来るのを待っていたのに、結局ノアは現れなかった。

 ノアの探知能力は使える者の中でも、群を抜いてその能力が高いため見つけられない訳はなかった。

 やはり何かあったのだろうが、現れないのにも何か理由があるのだろうと、拓海達はとりあえず宿を出てシルフィの家に向かっていた。



 拓海の言葉に私服姿の胡桃が小さく笑いながら答えた。



「うん、最初は目を覚ますまでって感じだったらしいんだけどね。何かシルフィが志乃と戯れたいのか、引き止められて結局泊まらせてもらってるの」


「ははは……」


「ふふっ、そうですね。久しぶりに少し話したりもしたいですね……」



 拓海は苦笑を浮かべ、アイリスは懐かしそうに呟いた。


 胡桃の話によると、シルフィは普段アストレア聖騎士団の仕事で夜まで家には戻らないらしいが、たまたま今日は早く仕事が終わるようだ。


 急に家に押しかけるような形になってしまって申し訳ないと拓海は思っていたが、胡桃はもし拓海達が帰ってきたら家に勝手にあげていいと許可をもらっているらしく、少し安心した。



「宿はシルフィの家の近くのところをとるかな。アイリスはどうする?」


「そうですね、私もそうします……けど、ノアさんはどうするのでしょうか?」


「あー、さっき拓海達が話していた人だよね。もう、時間も遅くなってきたから心配だね……」



 宿を出て、外は既に暗くなっていたため拓海の両隣を歩く二人は心配そうな表情で呟き、拓海もやはりノアのことが心配になってきていた。

 


「そうだな。宿をとったら俺が探しに行くわ」


「分かった、なら先にアイリスとシルフィの家で待ってるね」


「おう、そうしてくれ」



 その後、宿をとりに行ったりするため三人は別れ、一番探知が得意な拓海がノアを探しに夜のアストレアの街に出かけるのであった。


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