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異世界に導かれし者  作者: NS
第1章 異世界へ
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1-2 宿屋『花鳥風月』にて1

 村の番人が案内した宿屋の管理人が、親切なことに無償で拓海を包帯と薬草を使って簡単な傷の手当てを行っていた。


 無事に傷の手当てが終わると、拓海は管理人にお礼を言ってから別れると、森でモンスターに襲われそうになっているところを助けてくれた白マフラーの女の子がくつろいでいるテーブル席に向かった。


 湯気が出ているコップをじっと見つめ両手で包み込んで手を温めている白マフラーの女の子は、カウンター席の方から歩いてくる拓海に気がつき顔を向けた。



「ありがとう、お陰で助かった。えーと……」


「そういえば、名乗ってなかったね! 私の名前は神崎かんざき胡桃くるみ。見ての通り冒険者をしている者よ。あなたは?」



 そう微笑んで答える胡桃の冒険者という言葉が気になったが、拓海はとりあえず名乗った。



「俺は桐生拓海。よろしく神崎さん」


「ふふっ、別に胡桃って呼び捨てでいいよ〜。それより拓海は何で手ぶらであんな所にいたの? 普通に考えたら自殺行為だよ、あれ」



 身をもって体感したがあの森には危険なモンスターも彷徨っているらしく、戦えない商人達が森に足を踏み入れるにしても普通護衛を雇ったりするそうだ。


 だからこそ、見たところ戦う術を知らない拓海が森の奥から走ってきたことに胡桃は違和感を感じたのである。



「いや、好きであんな状況になってたわけじゃないからな」


「じゃあ、あそこで何をしてたの?」



 すると突然胡桃は目をスッと鋭くして、拓海を見つめた。何か違法な取引きやアイテムの密売などをしていた可能性があると胡桃は拓海を少し疑っているのだ。



「あ〜……どこから話せばいいんだ……。えっと」



 拓海は突然胡桃の目つきと雰囲気が変わったことに驚きながらも、どう伝えたらいいのか迷っていた。


 その拓海の困惑してどう説明すれば良いのか悩んでいる様子を見て、後ろめたいような悪い事はしていたわけではなさそうなことが分かった胡桃は息を吐き、小さく笑って見せた。



「ふふっ、まあとりあえず座りなよ」


「お、おう」



 その後、拓海は頭の中でこれまであったことを整理しながらゆっくり胡桃に全て話した。


 もちろん胡桃は最初は異世界から来たことを疑っていたが、拓海の見たことがない服装や即興の作り話には思えないような話、森で死にかけてたのを思い出して半信半疑ではあったが、拓海が特に悪さをしていなかったことは信じてくれた。


 そして最後にこの世界にいると言われた自分の父親を探して元の世界に帰りたいと伝えると、胡桃は腕を組んで何か難しそうな表情を浮かべて考え始めた。



「う〜ん……まず異世界があるっていうことを全く聞いたことがないんだよね。ごめんね、力になれそうになくて……」


「いやいや、気にしないでくれ。胡桃のお陰で生きて森から何とか出ることが出来たわけだからさ。本当に感謝してるよ。それに異世界の存在は俺も知ったばかりだからな」


「私も初めて聞いたよ。ふぁあ……」



 胡桃は話しながらマフラーを上げて口元を隠して欠伸をした。



「依頼は達成したし、眠いから今日はもう寝るね。続きはまた明日話そうよ」


「あぁ、分かった。本当に今日はありがとな」


「あはは、気にしないで。それじゃ、お先におやすみ〜」



 それから胡桃は口に手を当て欠伸をしながら宿屋の二階にある自室に帰って行った。どうやら本当に眠たいようだ。


 そして、二階に上がる階段を上がっていく胡桃の後ろ姿を見送った拓海は少しでも父の情報が得られないかと酒場に残り、酒場で何やら作業をしている手当てをしてくれた宿屋の管理人に近づき声をかけた。



「管理人さん、何してるんですか?」


「おや? あぁ、君はさっきの……。確か拓海君でしたか? 今は今日の後片付けと明日の仕込みをしているんですよ。あと管理人さんじゃなくて私のことは仁とお呼び下さい」



 管理人の男性は微笑み、拓海にカウンターに座るように促してきた。拓海は言われた通り席に座ると、改めて管理人の男性に目を向けた。


 透き通るような紅い瞳に、長い黒髪を頭の後ろで縛っている。そして白と紺色の袴を着ている、長身で落ち着いた雰囲気を纏った中性的な顔立ちの人だ。


 それから、拓海は周りを見渡してとりあえず何か話そうと話かけた。



「それにしてもこの『花鳥風月』には変わったインテリアが多いですね……。仁さんの趣味ですか?」



 宿屋『花鳥風月』の酒場の壁に所々に変わった形の多分モンスターの頭蓋骨や、銀色に輝く牙のオブジェなど物騒な感じの物がちらほらと飾ってあった。


 その質問に困ったように仁は苦笑しながら拓海の質問に答えた。



「いえいえ、私の趣味ではありませんよ。あれは……常連さんの趣味でして。困ったことに、いつも勝手に置いていくんですよ。まあそれはそうと、拓海君は私に何か用があるような気がしたんですが……」



(おぉ……察しがいいなこの人)



 拓海は察しがいい仁に少し驚きつつ、お言葉に甘えてと早速質問を始めた。



「じゃあ仁さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「私が答えられる範囲であれば構いませんよ」


「ありがとうございます。俺は二年前に突然失踪した父を探してるんです。桐生きりゅうかえでという名前に聞き覚えはないですか? 少しでもあるならどこで聞いたとか教えてくれませんか?」



 仁は桐生楓という名前を聞いた瞬間少し目を見開いたような気がした。


 しかし、仁はそのまま考えるような仕草をしながら拓海に答えた。



「桐生楓……。いつしか聞いたことがあった気がします。ただどこで聞いたかまでははっきり覚えてないですね……。噂では、かなりの強者だったと聞いたとか」


(強者……? 父さんはこの世界で何をしてたんだろ?)



 情報ありがとうございましたと拓海は仁にお礼を言って、二階の胡桃が代わりにお金を払ってもらって借りた部屋に戻っていった。


 そして、二階に上がっていく難しそうな表情を浮かべている拓海の後ろ姿を黙って見送る仁は昔のことを思い出していた。



(すいません拓海君……。まだ君に楓のことを話すわけにはいかないんですよ。君が強くなり、戻ってきた時にお話ししましょう……)



 仁はそんなことを考えながら黙々と作業を進めるのだった。

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