表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
390/434

8-58 支え合う心

「気をつけて下さい! やつは窮地に陥るほどあらゆる力が増す能力を持っています」



 ステラが焦った表情で拓海に伝えたところで、拓海だけは視界からアスタロトがその場から消えいるように気配を消しながら動き始めたことに気がついた。



「えっ」



 ステラは思わず声を上げてしまった。


 アスタロトの目線と、もはや隠す気がない殺意がステラに特に向けられていることから、拓海はアスタロトが動き出したことに気付けていないステラの手を咄嗟に握って、勢いよく自分の方に引き寄せたのである。


 直後、深淵のオーラを身に纏ったアスタロトによって自身の血液で創った大鎌が、ステラが先程まで立っていた場所を地面を割りながら斬り上げられた。


 ステラは拓海に抱き寄せられながら、背後でのアスタロトの殺意に気づいて背筋が凍るような感覚に襲われた。



(“ファントム・ミスト”)



 そしてアスタロトが追撃してくる直前に、拓海の心の世界でソラが魔法を詠唱して、拓海の分身が霊刀で続けざまに振り下ろされたアスタロトの大鎌を弾いた。



「邪魔だ」



 だが、それくらいでは全く怯まないほどアスタロトの身のこなしは常軌を逸していた。


 弾かれた勢いで、高速で回転しながら拓海の分身ごと斬り飛ばそうと、大鎌を薙ぎ払ったのである。


 拓海は既に一旦体勢を立て直すためにステラと共にすぐに後ろに跳んで距離を置いていたが、一歩遅れていたら分身と共に両断されていただろう。


 

(拓海さん、ステラに一旦戻ってと伝えて下さい! あいつを倒す考えがあるの。悟られてはいけないし、ステラと同時に拓海さんにも伝えるわ)



「ステラ、ソラが呼んでる。戻ってくれ」


「え、あ……はい」



 拓海に身を寄せているステラはぎこちない様子で少し小さな声で答えると、光の粒子となって拓海の心の世界に戻り、残された霊刀を拓海は握った。



「うおっ!?」



 直後、先程とはまるで別人のような素早い動きで一気に距離を詰めてきたアスタロトは大鎌を振り下ろし、ぎりぎり反応出来た拓海は咄嗟に両刀で受け流す。


 しかし、霊気を纏っていたとはいえ受け流した両手が痺れるほどの衝撃で、拓海は顔をしかめながら後ろに跳ぶようにして衝撃を逃すが、絶え間無く距離を詰めては連撃を繰り出し続けるアスタロトからは逃げられそうにはなかった。


 一瞬でも気を抜けない中、心の世界でソラがステラと拓海に説明を始める。



(ステラ、あなたの真の姿。それは教会の地下に幽閉されていたあの狼だよね?)


(そうですが……今はあの姿にはなれません。そもそも地下に幽閉されていたのは、アスタロトによって切り離された私の一部が具現化してしまったものですから。それにーー)



 ステラは前の契約者から魔力と霊気を借りて、自身のものとかけ合わせる事でようやく大精霊本来の力を引き出す事が出来ていたのである。


 自身の力だけで、大精霊本来の力を行使出来る者など本当にごく一部しかいない。また、借りたとしても本来の力を発揮出来る者すら過去を振り返っても数えられる程しかいないらしい。


 だが、ソラはそんな話を知った上である提案をし始めていた。





 そんな中、アスタロトの猛攻をギリギリで防ぎつつ、二人の会話に耳を傾けている拓海は魔法を詠唱した。



「“コキュートス”」


「ッ!?」



 拓海の詠唱と共に吹雪が吹き荒れ、横からの吹雪に飲み込まれたアスタロトは吹き飛ばされ、そのまま建物を破壊しながら凍りつかされて壁に張り付けられる。


 しかし、アスタロトは張り付けられていた壁ごと氷を強引に破壊し、再び拓海との距離を詰めて大鎌を振るおうとした。



 ーーバキンッ



「ちっ」



 音がした方を横目で見てアスタロトは思わず舌打ちをする。


 アスタロトが手にしていた大鎌が粉々に砕け散ったのだ。


 拓海が近づいて来た時点で、大鎌を凍りつかせて粉々に破壊したのである。


 しかし、アスタロトは大鎌を失いながらも、深淵のオーラを身に纏いながら拓海に向かって素手のまま攻撃を仕掛ける。


 対する拓海はアスタロトの攻撃に合わせて、氷属性の魔力で創った盾を展開しながら攻撃を防ぐ。



「くそっ、いくら何でもしぶと過ぎるだろ……」



 若干辛そうな表情でそう呟く拓海の残存魔力量は、マルコシアスとの戦いでかなり消費していたこともあり、底を尽きかけていた。


 今は拓海は霊刀によって霊気を魔力に変換しながら戦っているが、明らかに魔力を消費するペースの方が早くなっていた。


 だが、そんな拓海に御構い無しに、攻撃の手を緩めないアスタロトは前のように大型の魔法を放つ余裕はなさそうではあるが、深淵属性のあらゆる力を飛躍的に増強させる魔法を維持させるほどの余裕があるようであった。



(ーーって感じよ。どうかな、これなら可能だと思うけど)


(そう……ですね。聞いたことも試したこともありませんが、それなら可能かもしれないですね)



 そして、決め手を欠いて焦りを感じていた拓海がアスタロトを足止めしている間に心の世界でしていたソラの説明が終わる。


 直後、拓海が吹き飛ばして体勢を立て直したアスタロトが、再び高速で拓海に迫ってきた。


 しかし、拓海はその場から一歩も動こうとせずに、ただアスタロトの姿をしっかりと視界の中で捉えていた。




(二人共、頼んだぞ!)




 拓海の合図と共に、突如拓海から放たれる閃光。


 


 なんの前触れもなく放たれた閃光に、血液で創った長剣を片手に拓海に迫っていたアスタロトは、思わず途中で足を止めてしまった。



(何だ、何が起こった!?)



 そして、閃光で拓海を見失ったアスタロトが周囲の気配を探ろうとした時だった。


 アスタロトは第六感が働き、正面から強烈な死の気配を感知して咄嗟に防御姿勢をとった。


 直後、視界を埋め尽くした高速で迫る何かにぶつかり、長剣がへし折られたアスタロトはそのまま潰されるほどの圧力を受け、吐血しながら吹き飛ばされていった。



「ははっ……出来るもんなんだな」



 アスタロトが吹き飛ばされたのを確認した拓海は、アスタロトを高速で殴り飛ばした目の前の巨大な生物に目を向け、少し安堵したのか弱々しく小さく笑った。



(うん、でも正直長くはもたないし、きつい……けど。やるよ、ステラ!)


(はい、任せて下さい!)



 拓海の目の前でそう頭の中に直接語りかけてくるのは、メーテスの地下で見た幻狼と姿形は似ているが、一部蒼毛が混じって銀と金色の霊気を纏う蒼と金の眼を持った巨大な白狼だった。

第八章はあと数話で終わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ