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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-56 霧幻の騎士2

 ーー何が起こった!?



 既にノアとの戦いで死力を尽くし、それほど余裕がないアスタロトは、思考を読み取ったはずなの拓海がそれと反した行動で背中を斬り裂いたことに、驚きと動揺を隠し切れなかった。


 だがアスタロトはかつて奪った能力である、精神集中の力で冷静さを取り戻した。そして、今までの経験からあらゆる可能性を考えていき、近い答えに至るのであった。



(あいつ……まさか)



 そんな中、背中から血を滴らせているアスタロトから少し離れた場所で、睨む拓海は予想通り奇襲が決まり、息をついていた。


 拓海はアスタロトに思考を読み取る力があることをステラから聞いて既に知っていた。そして、ここに来る前に対策をしていたのである。


 それは、アスタロトに思考を読ませないようにソラが心の世界に残って戦うということであった。


 最初、拓海が詠唱した『ファントム・ミスト』はフェイクで、心の世界にいるソラが詠唱したものであった。


 それからソラも、拓海の思考を読み取ってそれに対して動くであろうアスタロトの動きを先読みして、共に拓海の心の世界で戦いに参加しているステラと合わせながら拓海の分身と幻覚を使って、戦術を変えていたのだ。


 そして拓海がソラとステラの思考を読みとならないようにしながら、状況に合わせて立ち回るというものである。


 

「契約精霊と連携しているのか。僕の力もあの女から聞いたようだし……。考えたね、中々やるじゃないか」



 奇襲だけで、そこまで察したアスタロトに拓海は畏怖を覚えながらも、二刀を構え直す。


 アスタロトがさっきの奇襲で致命傷になっていないことから、やはり第六感が働きギリギリで身体を反らしたのかもしれないと、拓海は考えていると、アスタロトが自分に右手を向けたことに気づいた。



(“グラトニー・アビス”)


「“蛟”」



 直後、アスタロトの前方に漆黒の大穴が開き現れた紅い瞳を持つ巨大な黒龍と、桔梗で魔力を強化した水龍が交錯する。


 しかし、二龍の強さは一目瞭然で均衡することなく、水龍が黒龍に喰い破られてしまった。



「ぐっ……まじかよ!?」



 紅い月無しでもアスタロトの魔力回復の能力は凄まじく、ノアとの戦いで消耗して既に満身創痍のはずなのではあるが、本人の気迫と動きはそんなことを微塵も感じられないほどであった。



(拓海さん!)


(分かってる!)



 拓海は避けようと一瞬考えたが、荒れ狂う黒き暴龍からは無事に避けれそうにないと判断し、即座に姿勢を低くして魔法を詠唱した。



(“ディバイン・ファウンテン”)


「“氷神結界”」



 渦巻く霊気と激流のドームが拓海を覆うと、拓海は霊刀を自身の真上に向かって突き上げ、蒼い光が天に放たれる。


 直後、天からドームに向かって蒼い光が光速で降り注ぐと、渦巻くドームに煌めく氷の結晶が混じり合って蒼い光を放つ六芒星のマークが浮かび上がった。

 

 そして黒龍がドームに激突した瞬間、黒龍はドームの流れに巻き込まれてその身をよじらせながら形が崩れていく。


 だがそれでも、氷つき形が崩れながらも膨大な量のエネルギーを放出しながら、あらゆるものを喰らう暴龍の力で、ドームにヒビが入り始めた。


 

「くっ……持ち堪えるぞ!」



 拓海が自分と、心の世界で魔法を詠唱しているソラを奮い立たせようと呼びかけた。



(うん!)



 それから黒龍の目から紅い光が消失すると、膨大なエネルギーを放ち、黒龍とドームは同時に消滅した。



「っ!?」



 何とか防ぎ切った矢先、いつの間にか目の前に迫った漆黒のオーラに身を包んだアスタロトは拓海の頭を掴むと、拓海の身体を引き寄せながら胸の辺りを膝で蹴り上げた。



「かっ……は!?」



 霊気のガードを突き抜け、宙に浮かび上がった拓海は肋骨が砕けて血反吐を吐き出す。


 そして、アスタロトは躊躇なく拓海を殴り飛ばした。



「ーーッッ!?」



 思わず二刀が手から離れ、悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされて拓海の意識が飛びかけると同時に、心の世界で声が響き渡る。



(いけない!?)


(“ソウルビジョン”!)



 アスタロトは吹き飛ぶ拓海にも容赦なく、そのまま先回りするように動いて拓海の首を跳ね飛ばそうと手刀を振り下ろした。



(終わりだ……“アビス・ウィズドロー”)



 そして深淵のオーラを纏い、威力と切断力を増大させた手刀を振り下ろした。



「何!?」



 アスタロトは目を見開いた。


 拓海の首に向かって手刀を振り下ろすと、手刀が拓海をすり抜けたのである。


 そして空振りした手刀は地面を割り、割れた地面からは深淵の魔力が溢れた。



「ぐっ……げほっ、げほっ」



 するとアスタロトの後方から苦しそうに咳込む拓海の声がして、アスタロトは振り返って、驚き、そして納得した。



「なるほど……まだ君が生きていたなんてね。紅い月も消えたから、死んだと思ってたんだけど」



 アスタロトの視線の先には、回収した二刀と苦しげな表情の拓海を支えるゴスロリ姿の金髪の少女の姿があった。そして、その少女はアスタロトに鋭い視線を向けていた。



「これ以上悲劇は起こさせない。私は最後まで抗い続けるわ」



 そんなステラの言葉と表情にアスタロトは邪悪な笑みを浮かべた。



「面白い、また眷属にされにきたのか。今度は二度と逆らえないように、躾てやろう」



 そんなアスタロトにステラは恐怖で震えそうになるが、拓海の手を握って勇気を出してアスタロトと対峙するのだった。


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