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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-53 ステラ



第4章登場人物まとめに志乃の新イラストを追加しました!


よかったら見ていって下さい。



 一瞬失っていた意識が元に戻り、目を開く。


 そして、広がる光景に息をついた。


 目を開けた拓海の目の前には、まだ辛そうな表情を浮かべているが意識が戻ってベットに横たわるゴスロリ姿の金髪の少女と、魁斗に引き続き同じく治癒するのに相当な集中力と魔力を使って疲れきって余裕がなさそうな表情で杖に寄りかかるように椅子に座っているアイリスがいた。


 それから、隣には少し遅れてソラが目を覚ましていた。



(……何とか戻ってこれたな)



 拓海とソラの二人はノアの心の世界から無事に帰還したのである。


 しかし、そんな戻ってきた安心して胸を撫で下ろす拓海を隣でジト目で見つめる少女が一人。



(……ロリコン)


(っ!? いやいやいや、あんなこと急にされたら誰でも驚くだろ?)


(ふーん……まあ、そういうことにしておいてあげる。ま、冗談はさておき、お疲れ様。拓海さん)



 ジト目なのはあんまり変わっていないが、そう心の中で語りかけたソラは優し気に笑っていた。ソラは改めて、心から拓海に敬意を感じたのである。



 ノアの心の世界にいたのは、魔剣クシアの力によって封印されていた幼い頃のノアの人格だった。


 メーテスで拓海とノアが見張りで過ごした夜に聞いた話から、二人とも少し嫌な予感があった。


 だから瀕死のノアの元に駆けつけた時に感じた憎悪に満ちたノアの感情となくなった魔剣クシアから、二人は魔剣クシアが破壊されたことで感情が暴走していると思っていた。


 しかし、幼き頃のノアの話から先程腹に穴が開いて左腕を失った金髪の吸血鬼がノアの家族の仇であり、憎悪の感情はそこからきている事に後から気づいたのである。



(……)



 それだけではない。


 同時に実際目の前に何年もの間あの白塔に封印されていたことに気づき、ソラはかける言葉が見つからなかったのだ。


 ソラ自身も霊刀に宿っていた時期はあったが、その時はソラ自身に意識がなかったため、どれくらいの時間眠っていたのかはよく分からない。


 それに比べて、意識がある状態で憎悪の感情を何年も抱き続けて封印されていたノアに、話をする勇気が出なくて口籠ってしまったのであった。




 しかし、拓海は違った。




 拓海はしっかりとノアから目をそらすことなく真剣に向き合って、自身の中で綺麗事かもしれないと思いながらも、それがその場しのぎの綺麗事であるような言葉ではないと、迷う事なく伝えていた。


 その拓海の確かな想いは、憎悪と様々な感情で濁っていたノアの眼に光を与え、後ろしか見ていなかったノアが前に向いて進めるようになったのであった。



(本当、すごいよ。拓海さんはさ)


(……? ありがと?)



 そう若干ソラが急にかけた言葉に困惑しながらも、拓海は気をとりなおして目の前の二人に声をかけた。



「無事帰ってこれた」



 すると、ようやく拓海が目覚めたことに気づいたアイリスが疲れきって余裕がないのにもかかわらず、拓海に笑いかけた。



「おかえりなさい」



 そんな言葉をかけるアイリスの表情を見た拓海は、改めて自分を信頼してくれる良い仲間を持ったと頰を緩めた。


 それから拓海は再び気を引き締めて真剣な表情になって、アイリスに目を向けた。



「それじゃあ、俺もフィーネ達に援軍で行ってくるよ」



 そう言って拓海が立ち上がった時だった。



「待っ……て」



 弱々しいが透き通った声に、拓海達三人は声がした方に目を向ける。



「君は……」


「このままでは……あなた達はアスタロトには勝てないわ」



 そう答えながらゆっくりと身体を起こしたのは、ゴスロリ姿の金髪の少女だった。


 アスタロトの力を実際身をもって体験していない拓海は、纏っている覇気や殺気から確かに今まで見たことがない程の強さを感じとったが負けるつもりはなかった。


 だが、少女の言葉と目から何か訳がありそうだと感じた拓海は少女に尋ねた。



「俺達は負けるつもりはないんだがな……。何か勝てない理由でもあるのか?」



 拓海の言葉に頷き、少女は答えた。



「メーテスの上空に出ている紅い月。あれがあるせいで、アスタロトに魔力が供給され続け、あらゆる力が高まってるの」


「紅い月……。でも、月なんてどうしようも出来ないんじゃないか?」



 当然月などをどうこう出来る訳がないと、拓海は不思議そうな表情でそう答えるが、少女は首を横に振った。



「あれは厳密には月ではありません。私の魔法で作り出した幻影なんです……」



 それを聞いた三人は目を丸くした。


 この街に来た時から、この街を照らし続けている紅い月がまさか幻影であったことに驚きを隠せなかった。



「私はかつて契約者と共にアスタロトに戦いに挑みました。でも、力及ばずに契約者は殺されて、私はアスタロトに長い時間精神支配をされていました」



 神妙な表情で語り始めた少女の話に三人は黙って耳を傾けた。



「それでこの街で、私は禁忌とされている幻影属性の魔法を使ってしまいました。この街を囲む霧も私の魔法です」



 それを聞いて三人は合点がいくと同時に、ノアを含めて誰一人その魔法を幻影と気付けない上に、破れなかったことから禁忌とされる少女の魔法がいかに危険かが分かる。



「だけど、その後私がハンスさんの監視を命じられ、この街が本格的に滅ぼされた日に、ハンスさんは私にかかっていた精神支配に気付いて、魔法の上書きしたことにより私は正気に戻りました。それからアスタロトのしもべの意識に、ばれないように入り込んで情報を集めていたけど……もう既に手遅れでした」



 精神支配から救ってくれたハンスも、アスタロトの手に堕ちてしまったことを知る少女は悔しそうに拳を握りしめて俯いた。



「長い間発動し続けたこの魔法は暴走し、既に私の意志で魔法を中断することも出来なくなっていたのです」


「ならどうすれば……」



 アイリスが途方に暮れながらそう呟くと、俯いたままの少女は答えた。



「私を殺して下さい……。私が持っていない氷属性や聖属性の魔力なら私を殺せます。おそらくそれで魔力と霊気の供給源がなくなり、魔法の暴走は止まります」


「なっ……」



 少女の言葉に息を飲んだ拓海は思わず声を出してしまった。


 それから少女は一度大きく息を吐いて覚悟は決まっているような表情を浮かべて顔を上げた瞬間だった。



「いたっ!?」



 ソラが突然顔を上げた少女の頭を叩いたのである。


 突然のその行動に、拓海とアイリスが驚いてかける言葉が出てこないでいると、腕を組んだソラが仁王立ちして少女を鋭い目つきで睨んでいた。



「あなたは死なせない。簡単に殺してなんていわないで」



 そのソラの言葉に、少女は我慢していた感情が溢れ出した。



「簡単に言ってる訳ないじゃない! でもそうしなければ全員死ぬ。それともあなたには何か策があるっていうの?」



 そう叫ぶように言い返す少女は、激しく咳き込む。そして、そんな少女の姿を見ながら、ソラはゆっくりと口を開けた。



「私と契約を結びなさい」


「っ!?」


「本来、誰かと契約した精霊は契約者が出来ると共に新たな生を受け、契約者の死と共に死を迎えるわ。今のあなたは、生きても死んでもいない中途半端な存在よ」



 そう強い口調で言うソラを横目で見た拓海は黙っていたが、普段優しくて大人しいソラが珍しくかなり強気な様子に内心かなり驚いていた。


 少女は今まで考えたことがなかったことをソラに言われ、自身が何者なのかもはっきりしなくなってしまい呆然としていた。


 だが、そんな自身より少し年上の見た目の少女の両肩を、ソラの小さな手がしっかりと掴んだ。



「この中で、あなたと最も波長が合うのは私よ。契約して、新たな生を受ければ魔法とのリンクは消えるはずよ」


「でも……私なんかが生きる価値がーー」


「ーーないとは言わせないからね。人の生きる価値なんてものは、誰にも決められない。それに、精神支配から救ってくれたハンスさんは何を思ってあなたを助けたの? やつから救い出して、生きて欲しかったからじゃないの?」



 そうソラに言われたことで、呆然としていた少女はハッと我に返り、ハンスが自分に最後にかけた言葉を思い出した。



『生きて……幸せになれよ』



 精神支配されていたとはいえ、少女の働きによって精神的にも助けられていたハンスにとって、少女はかけがえのない存在となっていたのだ。


 今まで少女に助けてもらってばかりで、何も恩返し出来ていないと少し引き目を感じていたハンスは、最後の最後でようやく少女の役に立てて良かったと寂し気な笑みを浮かべていた。



 もう少女の中に迷いはなかった。自分を救ってくれたハンスの分まで生きようと決意した。



「分かりました……ソラさん。私の名を呼んで契約して下さい」



 至近距離でソラの目を見つめ返す少女の決意を確かに感じ取ったソラは、頷いて少女の頭に自身の頭をそっと付けて優しく言葉を紡いだ。



「私と契約して、『ステラ』!」



 そして契約の言葉と共にソラとステラの二人を中心に眩い光が溢れ、周囲にいた拓海とアイリスの視界は真っ白に染まるのであった。

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