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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-46 崩壊2

 呼吸のタイミング、視線、一挙一動の全てを駆使してお互いが、相手に致命の一撃を入れるタイミングを見計らいながらノアとアスタロトの二人による光速の戦いが繰り広げられていた。



(まだ……まだいける)



 そんな中、アスタロトの戦術の全てを常に読みながら、少しずつではあるがアスタロトに傷を残し続けているノアの身体は既に限界に近づいていた。


 陽光の魔力により自身の限界を超えた力を出し続けているせいで、所々皮膚が裂けて血が流れ出て、口の中も血の味がしていたが、ノアの闘志は萎えるどころか増していた。


 血に塗れた白の長髪のノアの鋭い眼は、対峙する者の思考すら見抜かれたように感じるほど魅入らせられるものがあった。


 そんなボロボロになっていきながらも、最初の一撃以降は一切の隙を見せない上に、ノアの動きに見切れない程のキレが出てきたことに、アスタロトは長く忘れていた感情がでてきていた。



 ーー焦りである。



 魁斗も持っていた相手を先読みする『先見の眼』と自分自身が積んできた戦いの経験値を余す事なく使っているはずだが、それすら先読みしてノアはアスタロトに一方的に攻撃を当て続けていたのだ。


 しかし、自分の戦闘技術よりも明らかに高い力を持つ敵を初めて相手にしながらも、アスタロトは高い次元の集中力を維持し続けていた。


 一度視せたフェイントは二度と通じないため、自身が持つ力を最大限まで発揮し、あらゆる武器、魔法、武術を使ってノアに対抗しなければならないからである。


 その上、ノアと戦う上でアスタロトには普通に攻撃を受けることよりも気をつけておかなければならないことがあった。




「ちっ!?」



 抉り込むように伸びてくるノアの数え切れない程の連続の蹴りが、自身の血で汚れた金髪を揺らしながら思わず舌打ちをしたアスタロトの胸元を削って鮮血が舞った。


 だが蹴りの直後に放たれたノアの魔剣クシアによる連撃を、アスタロトは血の形を変えて瞬時に作った槍で全て受け流した。


 そう、魔剣クシアによる攻撃だけは絶対に受けてはいけなかった。


 クシアに斬られた場合、思考が乱されて正常な判断が一瞬でも困難になってしまうからである。


 そして、それは超高速で高次元の戦闘を行っている今では『死』を意味していた。




 やがて、ノアの色白だった肌が自分の血に染まり、アスタロトも全身抉られながらも辛うじて手足全てを動かせている互いに満身創痍な状況で、ついに決定的な瞬間が訪れる。



「あ……」



 蹴りを繰り出そうとしたノアは自分の左足が震えて、上がらないことに思わず目を見開いた。


 気を抜いた訳ではない。


 陽光の魔力が切れかけていた上に、激痛を感じながらも両足を無理矢理動かしていたが、先に左足の感覚がなくなり、動かなくなってしまったのである。


 そして耐えに耐え続けていたアスタロトは、その瞬間を逃すほ甘くなかった。



(終わりだ……“アビス・コフィン”)



 アスタロトがノアに手を向けて心の中で魔法を詠唱し、深淵の魔力が一瞬動きを止めたノアの周りを取り囲むように現れる。


 このままでは深淵の魔力の壁に閉じ込められて、魔力が尽きるまで閉じ込められるか、脱出するだけで体力を使い果たしてしまうと直感で感じたノアは歯をくいしばると、即座に『アカシックレコード・ウーラノス』の陽光と月光の魔力の二つの性質を持ったオーラの力を極限まで高める力とは別のもう一つの力を使った。



(ッ! 馬鹿な!?)



 アスタロトは紅く光輝く目を見開いた。


 形成されていく深淵の棺の内側、ノアがいたと認識していた場所からノアの姿が消えていて、姿を完全に見失ってしまったのである。


 その頃、ゼロから一瞬の内に最大まで加速したノアはアスタロトの死角。アスタロトの斜め後ろにいた。


 『アカシックレコード・ウーラノス』のもう一つの力。


 それは自分の月光の魔力を陽光の魔力に。陽光の魔力を月光の魔力へと、好きなだけ変換する力であった。


 その力で、体内の月光の魔力を少しだけ残して大半を陽光の魔力に変換し、限界で動けなくなったとアスタロトに思わせた直後、自身の身体能力を一気に極限まで引き上げて虚を突いたのである。


 そして、アスタロトが自分の斜め後ろのノアの存在を認識してその場から離れようとしながら振り返ったのと同時に、声をあげる間も無くアスタロトの左腕が肩ごと宙に舞った。


 ノアのクシアの刃がついにアスタロトを捉えたのである。



「はあぁぁぁああ!!」



 そして肩から鮮血が溢れ出し、体勢が大きく崩れたアスタロトの腹部を、力を振り絞いながら雄叫びを上げるノアの陽光の魔力を帯びた左の拳が貫くのだった。


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