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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-45 崩壊1

「まさかマルコシアスを倒すとはね……一応僕の眷属の中では一番力を持っていたんだけどなぁ」



 少し離れた場所で二つあった大きな気配の内一つの気配が消えて、アスタロトは意外そうな表情でそう呟いた。


 そんなアスタロトを前に拓海のことは信頼しているが、やはり心配だったノアは表情には出さないものの安堵で胸をなでおろしていた。



(よかった……やったのね拓海)



 そして、次は自分の番だと奮い立たせたノアは目を閉じる。


 殺意も安堵の気持ちといった感情と思考を一度全て停止すると、集中力が高まっていきノアのあらゆる感覚が急速に研ぎ澄まされていく。


 風の流れる音、小石が建物から地面に落ちる音、自分の心音、アスタロトの呼吸のリズムといった全ての情報を瞬時に取り入れて把握する。


 ゆっくりと開けたノアの視界からは色が消え、真っ白な世界が広がっていた。


 直後、全てのものに色が宿り、あらゆるものをあらゆる角度から認識する。



「お前……ッ!?」



 そこでようやくノアの異変に気付いたアスタロトは、同時にノアに無駄に時間を与えてしまったことを激しく後悔し、警戒のレベルが最大限まで引き上がった。


 たが、既にアスタロトはノアに手出しすることが出来なかった。


 ノアからは殺意も意思も何も感じることが出来ず、その冷めきった眼で虚空を見つめるノアの姿は先程とは全くの別人であった。


 そんなノアが纏っている空気に圧倒されているアスタロトは、目を見開いていた。



(これほどとはね……こいつ、本当に何者だ? 素質も実力も始祖の七人と遜色ない程のもの。とんでもない奴がいるもんだな)



 もうアスタロトの中では、ノアに対する殺意よりも既にノアの全力。その想像を絶する力の底を見てみたいという好奇心が勝り、自分も集中力を高めてノアの状態が最高まで達するのを静かに見守り始めた。



 するとノアの周りには銀と金のオーラが薄っすらと漂い始め、ノアが内包している魔力が急速に身体から溢れ出してくるのをアスタロトは感じとり、魔法を頭の中に思い浮かべて無詠唱で実行した。



(“アビス・イロアス”)



 更にアスタロトは深淵属性と霊気を混ぜ合わせ、集中力を極限まで高めていく。


 そんな中ノアは身体に抑え込んでためていた枷を外して魔力を開放しつつ、ついに体内で陽光と月光の魔力を混ぜ合わせ終える。


 そしてノアは魔法を詠唱した。



「“アカシックレコード・ウーラノス”」



 その瞬間、アスタロトの頭の中に『死』の文字が思い浮かんで、反射的に跳ぶようにその場を離れた。



「ッ!?」



 血飛沫が舞い、その場から離れたアスタロトは肉が弾け飛ぶように削られ、自分の流血した肩に驚きながらもノアを見失わないよう集中力を維持した。


 そして通常ならば瞬時に回復するはずの肩の傷の再生が異常に遅いことに気付き、アスタロトは舌打ちした。



(再生能力の特性を無力化してるのか? ちっ……厄介だね)



 久々に傷が残る攻撃を受け、痛みを感じるアスタロトの視線の先。先程アスタロトが立っていた場所で、瞳が金と銀のオッドアイをしたノアが左手に付いたアスタロトの血を振り払っていた。


 不思議なことにそんなノアからは全く殺意と気配を感じることが出来ず、今はノアがその場にとどまっているからアスタロトには何とか視認出来たが、このままでは何をされたのかも分からずに殺されてしまうとアスタロトは自覚していた。


 たがアスタロトの中には驚きはあるものの、焦りはなかった。



「時間だ」



 そうアスタロトが呟くのと同時に、メーテスの上空に渦巻いていた黒雲の中心で、紅い二つあったはずの月が一つに重なり、一つとなった月がより強く光を放ち始めたのである。



 そして複数の尻尾を形作り、ノアの身体を取り囲むように漂う金と銀のオーラが揺らめきノアの輪郭がぼやけた瞬間だった。


 突然アスタロトがその場から弾け飛び、再び刹那の攻防で傷を負って血飛沫が舞いながらも両足で踏ん張り、鋭い視線を自分が先程まで立っていた場所に向けると、辺りに音と衝撃波が遅れて広がった。

 

 それから間髪いれず、アスタロトの隣に光の粒子が収束してぼろ雑巾のように満身創痍な様子で、意識を失っているゴスロリ姿の金髪の少女が姿を現した。



「僕も本気でいかせてもらおう」



 そしてアスタロトは現れた金髪の少女の首の後ろを無造作に掴むと、少女の真っ白な首筋に勢いよく歯を突き刺して吸血し始めた。



「うぅっ……ぁんっ、ぁ……」



 すると少女は嬌声をあげながら身体が何度か大きく痙攣を起こして、糸の切れた人形のようにぐったりと力なく項垂れると、アスタロトは少女を投げ捨てた。


 そして少女は転がっていき、ピクリとも動かなくなってしまった。




 直後、激しい衝撃音が再び辺りに響き渡った。




 たが今度はアスタロトが弾け飛ぶようなことはなかった。




「褒めてやろう。僕をここまで本気にさせたのは君が始めてだ」




 そう呟くアスタロトの自分の血液と魔力をコントロールして作り出した剣とノアの魔剣クシアがぶつかり合い、ノアとアスタロトが火花を散らしながら競り合っていたのである。


 そして力が拮抗していて、お互い再び目にも留まらぬ速さで刹那の攻防を繰り広げると、今度はノアが弾かれるように勢いよく後ろに引き下がった。


 そんなノアの頰には切り傷ができて、血が流れ始めていた。



「それでも最後に勝つのは僕だよ」



 そう殺気を放ちながら呟くアスタロトの傷は少女を吸血したことで完治していて、瞳は不気味に揺れ動くように紅く発光し、先程までとは比べものにならないほどの深淵属性と霊気が混じり合ったオーラを纏っているのだった。

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