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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-44 炎獄vs氷獄2

「これは!?」



 振り下ろされる巨大な氷刀に目を見開いたマルコシアスは大剣を勢いよく上に突き上げる同時に、大剣の切っ先を中心に渦巻く巨大な焔の盾を創り出した。


 そして二つがぶつかり合うと同時に、氷刀にはヒビが入り始めて、渦巻く焔の盾の表面は氷つき始めた。



「甘いッ」



 焔の盾が壊れ始めると、マルコシアスは大剣を持っていない左手に力を込めて上に突き上げる。


 するとマルコシアスの隣の地面が真っ赤に染まったかと思った瞬間、巨大な紅蓮の龍が創り出されて、拓海が創り出した氷の巨人の身体に巻きついていった。


 そして、氷の巨人と紅蓮の龍は形を崩して辺りには氷塊と焔の塊が飛んでいき、周辺の建物が崩れていく。



「今度はこちらからいかせてもらうぞ」



 しかし、マルコシアスはそんなことには御構い無しに大剣の切っ先を拓海に向け、莫大な量の焔を纏って突進し始めた。


 すると、マルコシアスにこれまでとは比べ物にならないほどの殺気をぶつけ、瞳が蒼と銀に渦巻く拓海は膨大な氷属性の魔力を付与した霊装のマントを自分の身体の一部のように動かして広がると、盾となってマルコシアスの大剣とぶつかった。


 だがマルコシアスの突進の威力は凄まじく、纏った莫大な量の焔で溶かし貫く勢いで霊装の盾ごと拓海を後退させる。



「まだだ……まだ足りない」



 そんな時だった。



「む……」



 拓海の声が聞こえたと思ったら、突然更に拓海の魔力と霊気の量が増して、マルコシアスの突進の勢いがなくなり止まってしまったのである。



「死ね」



 霊装のマントがマルコシアスの大剣に巻き付いて動きが止まるのと同時に、拓海がマルコシアスに再び殺意を向けると、マルコシアスを上下から包みこもうと巨大な氷の龍の手が現れる。



「なめるなッ!!」



 バランスを崩したマルコシアスの身体が纏った紅蓮の焔ごと凍てつき始めるが、マルコシアスは強力な火属性の衝撃波を身体から何度も発して、身体を蝕み始めた氷属性の魔力ごと吹き飛ばし、一度距離をとるため大きく後退した。


 それを逃すまいと、拓海がすかさずマルコシアスに追撃しようと足に力を込めた時だった。



(拓海さん! しっかりして下さい!)



 心の世界で突然ソラに名前を呼ばれたことに、何とか気付いた拓海は我に返って足を止めた。


 後少しソラが異変を察知するのが遅かったら、拓海は再びアストレアの防衛戦の時と同様に、相手を殺すために力を求め続けて我を忘れて暴走してしまっていたかもしれなかった。


 再び自分の力を制御出来ず、バツの悪そうな顔でマルコシアスと対峙しながら心の世界でソラに声をかけた。



(悪い、心配かけたな。助かった)


(よかった……。それより大丈夫?)


(多分……な。出来るだけ頑張ってみるけど、また頼らせてもらうかもしれない)


(あはは! うん、いっぱい頼ってよ! 任せて!)



 心の世界でのソラの返答を聞いて、先程とは違いすっかり落ち着きを取り戻した拓海の様子を見たマルコシアスは何かを察したのか大剣を構え直して、拓海に声をかけた。



「なるほど……良きパートナーに出会ったようだな」


「あぁ」



 そう短く答えた拓海はそのまま桔梗に魔力を、霊刀には霊気を吸収させ始めた。


 静かに殺気をぶつけ合う拓海とマルコシアスは、大量の魔力を消費し続けているため、お互い戦いの終わりを予期していた。



「そろそろ終わらせようか」


「そうだな。今の貴様の全力、見せてみろ」



 すると、そう言ったマルコシアスは大剣を両手で持ち、上に突き上げてこれまでに聞いたことがないような大地を揺らし、大気を揺るがすような雄叫びを上げ始めた。



「うおぉぉぉぉおおお!!」



 そして大剣には紅蓮の焔が渦巻き、陽の如く徐々に直視出来ないほどの光を発し始めて、マルコシアスと戦い始めてから初めてこれほどまで強い魔力を感じとった拓海は息を飲んだ。



(やつも本気ってことか)


(そうだね。なら、私達も見せてやりましょ!)



 心の世界で短いやり取りを交わした拓海とソラの二人はお互いの呼吸のリズムを合わせ、それぞれ膨大な量の霊気と魔力のコントロールをするため集中力を高めていく。


 やがて集中力が最大限に高まったところで、拓海もマルコシアスと同様に雄叫びを上げながら身体中に残っている全ての力を一気に開放した。



「はあぁぁぁぁあああ!!」



 そして拓海が桔梗と霊刀の二刀を振るうと同時に、二刀からはそれぞれ天に届きそうなほど巨大な、氷と霊気の二龍創り出され、二体の龍の咆哮がメーテスの街に響き渡った。


 それから創り出された二龍はそれぞれ巨大な口を広げてマルコシアスを飲み込もうと襲いかかっていく。


 しかし、それを目にしたマルコシアスは驚くどころか不敵に笑うと、更に多くの魔力を大剣に込めて魔法を詠唱するのだった。



「“レーヴァテイン”」



 マルコシアスが両手で持つ大剣に自身から溢れ出していた火属性の魔力が収束していき、全てを焼き尽くす灼熱の焔の剣でマルコシアスは空中から襲いかかってくる二龍を迎え撃った。



「おおぉぉぉおおお!!」



 すると、二龍と焔の剣が衝突した衝撃波が上からマルコシアスを襲い、白銀の鎧が軋んで嫌な音を立て始めたが、マルコシアスは衝撃波に耐えながら焔の剣を維持して二龍を押し返そうと、雄叫びを上げながら全力で押し返す。


 両者譲らず力と力がぶつかり合うが、数秒の内に均衡が崩れ始める。


 

 ーービシッ……バギッ



 そう音を立て始めたのはマルコシアスの白銀の鎧と、焔の剣であった。


 それでも全身全霊でありったけの力を使って二龍を押し返そうとするが、形成した焔の剣にはいくつも亀裂が入り、上空からの衝撃波が更に強くなった。



「そうか……」



 そしてマルコシアスの大剣に亀裂が入ると同時に、二龍の巨大な口が焔の剣を噛み砕いた。


 すると、敗北を悟ったマルコシアスは最後まで集中力を切らすことなく二龍を操りながら、こちらを見据える拓海の姿を目に焼きつけた。



「お前の勝ちだ」



 そして、その言葉を最後に二龍が一瞬でマルコシアスを飲み込み、轟音と共に装備ごとマルコシアスを跡形もなく破壊し尽くした。



「はぁはぁはぁはぁ……勝った……」




 マルコシアスが立っていた場所を中心に地面が大きくえぐれ、周りの建物が消し飛んだところでいる。


 拓海は手に力が入らず二刀を落として膝をついて肩で息をしていると、自分に近づいてくる二人の気配に気がつくのだった。

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