8-36 剣神1
天井からの落石によって轟音が再び鳴り響き続けている。
そんな落石の合間を縫うように黒と紫の軌跡が、霊刀、戦鎚、鎖、大鎌が激しくぶつかり合う音と共に形成される。
メーテスの教会の地下。崩壊寸前の空間で魁斗とフィーネが吸血鬼の眷属と成り果てたハンスと死闘を繰り広げていた。
一際大きな音の直後、血飛沫と共に紫の軌跡の一つが弾かれるように軌道を変えて足場が不安定な岩場を転がった。
「くっ!?」
ハンスが扱う自在に動き回る鎖の先で、凄まじい速さで回転する棘のような形をした刃が魁斗の左肩をかすめ、高速で移動しながら攻撃していた魁斗はバランスを崩してしまったのである。
身体を不安定な岩の足場に打ち付けたが、霊気や霊装で身体強化している魁斗は近づく殺気を感じ取って頭を下げた。
直後、空を切る音と共に魁斗の頭上を頸動脈を切り裂こうと横に振り切られた漆黒の大鎌がかすめる。
再びハンスの鎖が魁斗を追撃しようと飛んでくるが、それは魁斗の前に高速で辿り着いたフィーネの戦鎚とぶつかり、金属音と共に弾かれて軌道を変えて後ろの地面に突き刺さった。
「“雷神鎚”」
フィーネの魔法の詠唱と共に現れて振り下ろされた雷の鎚が、既にハンスが後ろに下がったことで空を切って地面の岩を粉々に砕いた。
そして、ハンスから目を離すことなくフィーネが魁斗に問いかけた。
「大丈夫、魁斗?」
「あぁ、大丈夫だ」
二人は吸血鬼の眷属となって力が増したハンスの想像以上の速さと力、そして何より対人の技術の高さに苦戦していた。
魁斗は既に魔法による剣技で攻撃を仕掛けているが、ほとんど避けるか受け流されてしまって決定打を与えられずにいた。
棘の形をした刃が先についた自在に動き回る特殊な鎖の武器が相手の動きを制限して、闇属性の付与魔法を応用して作られた漆黒の大鎌が致命の一撃を放つ。
闇帝時代のハンスの全盛期の戦闘スタイルである。
そして、防具に傷が増えてきたフィーネが防御の為に戦鎚を構えると、その後ろで霊刀を構えた魁斗が魔法を詠唱した。
「“雷龍”」
すると魔法の詠唱しながら魁斗が霊刀を振るうと同時に放たれる雷の龍が、巨大な顎を大きく開いて不安定な足場を粉々に破壊しながらハンスに向かって突き進んでいく。
しかし、ハンスは避けようとすることなく大鎌を両手で握り締め、後ろに引いて力を込めながら魔法を詠唱した。
「“ダーク・クレセント”」
直感で危険を感知した魁斗は雷龍を放ちながら、防御姿勢をとっていたフィーネを心の世界に呼び戻した。
そして、ハンスの大鎌が横一直線に振られて発生した膨大な闇属性魔力の刃が雷龍ごと魁斗を斬り裂いた。
「ッ!?」
霊装と霊気で身体強化をしていた魁斗は身体を両断されることはなかったが、身体の骨が何本か砕かれる感覚と共に吹き飛ばされてしまった。
魁斗は一瞬意識がとんでしまうが、持ち直す。
しかし、ハンスの追撃の手は止むことなく右腕に絡みついた鎖を魁斗に放ち魔法を詠唱する。
「“ヴィブラシオン”」
(魁斗っ!? “ライトニング・イージス”!)
心の世界でフィーネが魔法を詠唱して現れた巨大な雷の盾は、回転しながら迫る鎖の刃を押されながらも何とか弾き返すがハンスはそれをよんでいたのか一気に魁斗との距離を縮めて少し後ろに跳んだ。
魁斗の視界には大鎌に先程より多くの膨大な量の魔力を集めているハンスの姿が見えて体勢を崩しながら魔法を詠唱した。
「不動の太刀“心”」
「“ナイトメア・レクイエム”」
ハンスが魔法を詠唱した瞬間、魁斗を中心に魁斗の影から巨大な鎌を持った死神が三体現れた。
そして、ハンスが空中で大鎌を振るい始めるとそれぞれが魁斗に向かって目にも留まらぬ速さで何度も斬撃を浴びせる。
魁斗は斬撃から逃れようとするが、何故か一定距離動くと死神の中心に強制的に引き戻されてしまい、フィーネの防御魔法の上から斬り刻まれていく。
「ぁ……うぁ……」
肉体がえぐり斬り刻まれて、いかに霊装と霊気で強化していても防ぎ切れずに魁斗は吐血し、身体からは血飛沫が辺りの地面に飛び散り、力無く膝をついて前のめりに倒れていくのだった。




