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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
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8-29 幻狼2

 拓海達は黒狼が自分達に警戒している間に体制を立て直して、黒狼の咆哮と共に二手に分かれて散開した。


 正面からは拓海と魁斗、その後ろをノアを抱えたアイリスが聖属性の魔法の翼で飛びながら追っている。


 そして魔力弾を放つため口を開けるのと同時にノアが黒狼を睨み、魔法を詠唱する。



「“ラディーレン・ルナエフェクト”」



 予定通り黒狼の一撃を不発させた隙に今度は空を飛びノアを手放して杖を構えたアイリス、拓海と魁斗が一気に黒狼の前足に接近して魔法を詠唱する。



「“ヘヴンアーク”!」


「雷鳴の太刀“とどろき”」


「“みずち”」



 まずアイリスの魔法により眩い輝きを放つ球体が黒狼の真下に現れると共に、黒狼の身体が球体に吸引されて踏ん張るのが精一杯で身動きが出来なくなる。


 直後アイリスの足にノアが掴まり、黒狼の前足に雷撃と水龍が命中して煙が舞い上がる。



「よし!」



 初めてまともに攻撃が命中する手ごたえを感じ、拓海が思わず声を上げるが魁斗は先程よりも目を細めて呟いた。



「いや、これからだ……」



 二人の視線の先、煙が晴れたそこには目立った外傷はなく先程とは違い全身に金色の霊気を纏った黒狼が、アイリスの魔法により吸引に耐えながら拓海達を紅い眼で睨んでいた。



 ーー!?



 拓海と魁斗は第六感が働き、防御姿勢をとって全力で後ろに跳んだ。


 直後、アイリスの魔法で形成した球体を前足で叩き潰して一瞬で拓海達と距離を詰めた黒狼の爪による斬撃が、先程まで二人がいた場所を斬り裂く。


 黒狼の斬撃により発生した風圧によって冷や汗が出ると共に、その場で踏ん張る拓海達の動きが一瞬拘束されてしまった。



「なっ!?」



 それもそのはず、拓海と魁斗の目の前から黒狼が突然消えたのだ。


 だが実際は黒狼が透明になったりした訳ではない。


 拓海達に牽制を入れただけで、黒狼は空に浮かぶアイリス達に向かって跳んでいったのである。



「“ソル・シュトラール”!」



 だが、黒狼の微妙な視線の動きで狙われているのに勘付いたノアの魔法の詠唱が、魔力弾を放つため口を大きく開いて高速で接近してくる黒狼と接触するまでに間に合った。


 その瞬間、大幅に自身を強化したノアの力が霊気で強化された黒狼を上回った。





 ノアは空中でアイリスの足から手を離して、黒狼から魔力弾が放たれる前に黒狼の口を魔剣クシアで斬り裂き、顔の側面を全力で蹴り飛ばす。


 アイリスや黒狼にも認識されず、その動作をノアが一瞬で行ったところで急に無理な強化をしたノアの魔法が解けてしまう。





 そして拓海達は直後に響いた轟音により何かが起こったことに気付いた。





 ノアのクシアにより精神を乱されて魔力弾が作れずに不発し、地面に蹴り落とされた黒狼。


 本能かノアの魔法が解けた直後に、黒狼の前足に殴り飛ばさて地面に叩き落されたノア。


 空中に一人取り残され、何が起こったか分からず呆然としているアイリス。





「アイリス! ノアを回復してくれ!」



 桔梗による情報処理能力を強化して、いち早く状況を把握した拓海の悲鳴に似た叫び声に我に返ったアイリスは、クシア片手に血を吐き地面にうずくまるノアに向かって血相を変えて飛んでいった。


 直後、拓海に少し遅れて状況を把握した魁斗はこのチャンスを逃すまいと魔法を詠唱する。



「“雷神瞬動”」



 そしてクシアにより精神がかき乱されてうまく立てない黒狼の正面に立って大量の霊気を霊刀に纏わせ、残像を作りながら霊刀を構える。




「始の太刀ーー」




 ゆっくりと霊刀を動かし、溢れ出す紫電の魔力を発する魁斗が神威を使い、霊装と身体を纏う霊気が黄金に輝く。



「“武甕槌タケミカヅチ”」



 詠唱を終え、霊刀が振り上げられた瞬間。


 紫電と霊気の残像ができ、紫電混じりの暴風が辺りに吹き荒れると、いつの間にか霊刀を振り下ろした魁斗がそこにはいた。


 そして目にも止まらぬ速さで、紫電と混じり合った数え切れない程の霊気の刃に全身を斬り刻まれた黒狼はびくりと身体を大きく震わせ、眼の色が消える。


 それから黒狼は糸の切れた人形のように地面に崩れ落ち、徐々にその身体が光の粒子となって消えていくのだった。

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