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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
357/434

8-26 深淵の教会4

 何かが腐ったものと濃い血が入り混じった香りが充満していて、途中でアイリスが皆に付与した魔法により防げていなかったならば、あまりの悪臭と不穏な空気で先に進めなくなっていたかもしれない。


 拓海達は教会の下に何でこんな道が作られたのか疑問に思いながらも、階段をひたすら降り続ける。


 そしてかなりの深さまで階段を降りたところで、所々壁に設置されたランプが薄気味悪く点滅している円環状の廊下が現れ、壁には中から外に出られないようにするための特殊な金属で加工されている牢屋があった。


 中には既に骨になった死体だけでなく、肉が一部腐り落ちて虫が集っている死体が見られ、皆顔をしかめて出来るだけ直視しないように先を急いだ。


 そして急ぎ足で進んでいると、全て閉まっていた牢屋の一つの扉がひしゃげているのに気が付き、先頭のノアが無言のまま手で後ろの三人を止めた。



「…………」



(うん……中には誰もいない。中から外に誰かが出て行ったみたいだけど)



 牢屋の中の気配と扉の様子を探ったノアは、中に誰もいないことを確認した後、手信号で拓海達に後に続くようサインをしてから念のために魔剣クシアを引き抜いて、目にも止まらぬ速さでノアを先頭に四人が牢屋に駆け込んだ。



 やはり誰もいない。だが壁に生々しく血痕が残ったその牢屋の床には一冊の薄汚れた手帳が落ちていることにノアは気付いた。



「あれは……何だ?」



 疑問の声を洩らした拓海を始め三人も気付いていて、罠でないことを確認した後にノアが拾って手帳の中身を確認した。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーーパタ



 手帳を閉じる。

 


 手帳の持ち主はこの牢屋に監禁されていた冒険者の男性。そしてこの男性は、拓海達と同じくメーテスの異常を調査する為に来ていた冒険者だったらしい。


 内容はこの牢屋に監禁されたまでの経緯と、監禁されて徐々に精神が崩壊していく様子が見て分かる日記だった。


 そして中には気になる記述がいくつかあり、拓海が呟いた。



「不気味に紅く光る瞳を持つ金髪の少年。相方の冒険者の首元に喰らいついていた、ね……吸血鬼かな?」


「吸血鬼? あの神話に出てくるモンスターか? 何年も存在が確認されてなく、絶滅したと言われているはずだが……。よく吸血鬼のことを知っていたな拓海」


「あぁ、俺のいた世界では有名な架空の生命体だからな。イメージ通りなら、吸血鬼な気がしてな」


「あの……私は文献で吸血鬼について読んだことがあるので、ある程度の事は分かります。確かに吸血鬼は生物の血液と魂を得て、新たな力を得るということが書いてありましたね」



 アイリスが拓海の隣でそう答え、拓海は頷きながら三人から少し離れて背を向けたまま頭を押さえて顔をしかめているノアに歩み寄って声をかけた。



「ノア、大丈夫か?」



 拓海に声をかけられ、我に返ったノアが慌てて振り返り、苦笑を浮かべた。



「ごめんごめん、よく分からないけどちょっと頭痛がしただけ。コンディションが悪い訳じゃないから大丈夫。心配しないで」


「……そうか。何かあったら俺達に言ってくれよ?」


「あはは……さっき拓海に偉そうに言ったばかりなのに申し訳ないね。ありがと、大丈夫だよ」



 そう言ってノアは微笑み、拓海の横を通ってそのまま魁斗達の方に歩いていった。



「正体が何にせよ、相手は街を一つ陥としたモンスターよ。でも私達は戦力的にも負けてないわ。出来るだけ消耗を抑えて戦いところなんだけど」


「あぁ。だがこの街は既に敵の根城となっているだろうし、消耗は避けられないだろう。でもまあ、この教会の地下の先にいるかもしれないし、とりあえず先に進むか」


「そうですね」


「!? ちょっと待って」



 そうアイリスが言葉を返した瞬間、ノアの耳が微かに動き、目の色が変わる。ノアは手信号で何かが迫ってきていることを拓海達に伝え、再びクシアを構えた。


 円環状の廊下では魁斗の速さや、拓海の広範囲に及ぶ魔法も活かし辛いため、今はノアが主体となって戦う手筈となっている。


 

「“ストレングス”」



 そしてノアが魔法を詠唱し、自己を強化して牢屋から飛び出していくのだった。


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