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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
355/434

8-24 深淵の教会2

 話し合いから数時間。


 カイルが一度様子を見に来たが、少し話し合いたいことがあるからしばらく放っておいてくれと告げて追い返してから拓海達は敵がいないメーテスの街の建物の屋根上を気配を出来るだけ消して駆けていた。


 そして先頭の魁斗が突然立ち止まり、後を追う拓海達を手で制して屈んだ。


 それに倣って三人も屈むと、魁斗が遠くを指差して小声で声をかけた。



「あれが例の教会だ」



 魁斗が指差した先。一、二キロ先にモンスターの姿もないぽっかりと空いた空間に建つ一軒の巨大な建物。エンヴィー卿の屋敷同様に不自然な程に白く、汚れ一つなく神々しく発光しているようにも見える教会がそこにあった。



「あれが……」



 想像以上に不自然で明らかに罠に見えるようなその教会に、拓海は不思議なことに魅力を感じて入りたいという気持ちが徐々に湧き上がっていることに気付いたと同時にアイリスが魔法を詠唱する。



「“プルガシオン・マインド”!」



 すると四人の身体が微かに発光し、光が消える頃には拓海の中で教会に入りたいという気持ちは完全に消えていた。



「『魅了』か……。特殊属性でこんな力を建物に付与する魔法なんて初めてみたな。ありがとなアイリス」


「いえいえ、お役に立てて何よりです。それより、これで教会に何かしらあることがほぼ確定しましたね。人を呼びよせて何をするつもりだったのでしょうか」



 魁斗の礼に微笑んで答えたが、アイリスの視線は教会を鋭く見据えていた。


 そんな疑問の声をあげるアイリスの後ろ、殿をしていたノアが呟き、目を閉じて魔法を詠唱した。



「少し教会を視るね。“ソル・シュトラール”」



 そして目を開くと、琥珀色となって輝くノアの視線は教会付近と教会の窓に向けられ、数秒で元に戻った。



「罠無し。誰もいないね。でも、気になるとこはいくつか見つけたよ」



 限界を超えて強化された第六感と視力により、ノアは教会の中に誰もいないことを確認し、観察すると共に付近に罠がないことを見抜いたのである。



「だけど、あそこからは嫌な気配は感じるな。気を引き締めていこう」


「ですね……」



 ノアの言葉を聞いた拓海が一度霊気を瞳に纏って教会を見てみた結果、黒いもやが教会の周りに渦巻いていたのだ。


 そしてアイリスの同調にノアと魁斗も頷き、ノアが鋭い目つきで指示を出した。



「潜入するよ、打ち合わせ通りお願いね。あと緊急時は状況に合わせて自己判断ね」


「「「了解」」」



 三人の短い返事にノアが頷いた時、拓海は不意に後ろを振り向き、空を見上げた。



(何だ……今、一瞬……。いや、気の所為か)



「どうしました?」



 アイリスの声に我に返った拓海は苦笑して答えた。



「いや、何でもない。気の所為だった」


「……? なら良いのですが……」



 そして陣形が変わり、先に動き始めたノアと魁斗を拓海とアイリスが慌てて追い始めるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 拓海達が教会への突入と同時刻。



 メーテスの紅の空に浮かぶ黒雲が二つの欠けた月を中心に少しずつ渦巻き、不気味に紅い光を放つ二つの月がその中で徐々に動き始める。



 そして、それを見上げる人物が一人。



 足元にはボロボロになって血に塗れたゴスロリの服を着た、金色の乱れた髪の女性がうつ伏せで倒れている。

 


「時間だ……」



 その人物の瞳は一瞬真っ赤に染まったかと思うと、足元の女性と共にその人物は消え、蝙蝠が辺りに飛び去っていくのだった。


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