8-22 謎の声
不思議な感覚だ。
自身の身体が何かに下から支えられながら辺りを漂っているような、そんな感覚。
どこかで体感したことがあるようなその感覚は決して悪いものではなく、そのまま身を任せていると、どこからか聞こえる泡の音に混じって何かが聞こえる。
ーー……み……さん……
ーー……みさん
「拓海さん! 起きて下さい!」
見知った自分を呼ぶ声に、思わず目を開けると上から心配そうな表情で顔を覗き込む、ソラの顔がそこにあった。
「ソラ?」
そして、拓海は目を見開く。
「ここは……」
透き通った空色の透明な水の世界が視界一杯に広がっている。初めて見るはずのその景色に、拓海は何故か懐かしさや、既視感を感じていた。
「拓海さんの心の世界ですよ」
「ッ!? そんな急にこんなことってあるのか?」
「私もこんなこと初めてだよ……」
ソラもかなり困惑しているようで、とりあえず横たわって浮いていた拓海は身体を起こした。
「それにしてもこれが心の世界ってやつか……。あっ、そういえば俺の身体は今外でどうなってるんだ? 多分、師匠が部屋の見張りで俺が寝ていたと思うんだけど」
「うん、今も寝てるよ。でも、何故か今は私が外に出たり話しかけたり出来なくなってるの」
「そうか……。何かメーテスに着く前の時と似てるな」
その時だった。
ーー……えますか……聞こえますか……
聞き覚えのない少女の声が空間に響いた。
「誰だ!?」
二人は驚いて辺りを見渡すが、誰もいない。不思議そうに首を捻っていると、再び声が響く。
ーー主人を……倒して
「主人?」
「貴方は誰なんですか?」
ソラがどこにいるか分からないその人物に尋ねると、ノイズのような音が走った後に声が響いた。
ーー……教会、地下、館……繋がってる
その言葉を聞いて、二人はこの人物が一方的に語りかけてきていることに気づき、黙って耳を傾け始めた。
ーー生存、一人、地下……間もう無い……達ならきっと……
その声を聞いている間に、無意識のうちに拓海の意識は徐々に混濁し、視界が歪んで意識が遠のいていくのだった。
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目を開けて身体を勢いよく起こした。
「はぁ、はぁ……」
拓海はじんわりと汗をかき、ため息を吐くと、霊刀片手に部屋の床に座って眉をひそめた魁斗が自分を見ているのに気がついた。
「うなされていたようだが、寝れないのか?」
そんな魁斗に拓海は事情を説明しようと口を開きかけたが、しばらく少し考えてから口を開いた。
「いや、大丈夫。後で皆に話したいことがあるから、その時に話すよ」
「そうか。なら、まだ時間があるから寝てな。しっかり身体を休めておけよ」
「はいよ……」
拓海は魁斗に返事をして再び眠りにつく前に、頭の中で尋ねた。
(ソラ、起きてる?)
(うん)
(あの、さ。さっきのって言って通じる?)
(うん。何かよくわからないけど、心の世界に拓海さんが来ていたよね)
(やっぱり夢……じゃないのか)
(そうだね……)
言葉を交わし終わり、拓海は再び眠り始めるのだった。




