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異世界に導かれし者  作者: NS
第8章 逢魔時の街メーテス
352/434

8-21 エンヴィー卿4

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。


徐々に頻度は戻していきます。



今年も『異世界に導かれし者』をよろしくお願いします!

「なるほど、災難でしたね」



 ハンスの手記通りメーテスが何者かの襲撃を受け、住民達は行方不明となってしまったようだ。最初から敵対心を持つ者から意識を外させるらしい特殊な結界に包まれた、この館にいた者達のみが何とか生き残っているようだ。


 またエンヴィー卿達も未だに状況を把握し切れていないようで、メーテスの地下にアリの巣のように沢山穴が開いて広がっていることに目を丸くしていた。


 そして簡単に情報を交換し、一段落したところでエンヴィー卿は目を細めてノアに尋ねた。


 

「ところで、私の部下が一名館を出た後行方不明になっているのだが……。黄金の髪を持つ少し変わった服を着た女だ。見かけたり、何か形跡を見つけたりしなかったか?」



 おそらくマティのことだろうと皆すぐに気付いて、アイリスが口を開こうとした時だった。



「いえ、何も」



 ノアが短くそう答え、エンヴィー卿がしばらくノアの瞳を見つめていたが、しばらくして息をついて目を逸らした。



「そうか……。それはそうと、 今のメーテスの街でしばらく過ごしていたならば貴方達も疲れが溜まっているだろう。今日はこのくらいにして、明日ゆっくり話そう。離れの客人用の館の空き部屋をいくつかお貸しするから自由に使ってくれ」


「助かります」



 すると、拓海達の後ろの扉からカチリという音がして一人でに扉が開いた。



「案内してやれ」


「かしこまりました」



 エンヴィー卿が視線を投げると、カイルは丁寧に頭を下げて応え、拓海達はカイルの後ろについて部屋を出ていくのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ノアさん、何で嘘をついたのでしょうか?」



 そう話を切り出したアイリスに、ノアが一息ついて答えた。



「まだ信用出来ない、それに怪しすぎるからね。あの二人」



 客人用の小綺麗な館をカイルに案内された後、ノアが借りた一部屋に四人は集まって絨毯の上に環状に座っていた。


 ちなみに部屋はマジックアイテムにより防音室となっており、気配探知で周りに聞き耳を立てているものがいないのは確認済みである。



「それにエンヴィー卿、あの人の眼。最後マティさんに関する情報がないか尋ねてきた時、一瞬蠢いたような気がしてね。心の奥底まで見透かすような、そんな目。私は咄嗟に月光の魔力を体に宿して、精神的な干渉を受けないようにしたから良かったけど」


「だが、エンヴィー卿からは特に不自然な魔力や敵対心を感じなかった気がするが……」



 魁斗の言う通り、確かにエンヴィー卿からはそこまで特殊な魔力や膨大な魔力を持っているようには感じられなかった。


 しかし、ノアは逆にそれがエンヴィー卿に対して不信感を抱いた原因だった。



「でも皆覚えてる? 館の扉を開けて、初めにカイルさんが言った言葉を」



 拓海達三人は顔を見合わせ、拓海は眉をひそめた。



「エンヴィー卿の元まで案内するって言ってたやつか?」


「うん、それよ」


「何かおかしいとこあったか?」


「エンヴィー卿から指示を受けたって言っていたのよ。部屋にいたエンヴィー卿が一瞬でカイルさんに指示出来るはずがないのよ」


「事前に人が来たら通せと言っていた可能性は?」



 拓海の質問にノアは静かに首を横に振った。



「既に事件が起こって何日も経って今更住民が逃げこんでくるようなこともないだろうし、そんな指示を出していたとは考え辛いと思うよ」


「だな。それに普通の人間ならこんな何が起こるか分からない状況で突然押しかけてきた素性の知らないような人達を家の、しかも自室まで招き入れるなんてことをするとは思えないしな。それに自衛力がない上に立つ者が、そんな警戒心がないような軽率な行動はしないだろう」


「そうね、それにエンヴィー卿は私達が自分達を怪しく思っていることくらい分かっていると思うよ」



 自分達がこの街に訪れる前に、既に何組かの冒険者がこの街に訪れているはずである。しかし、今のところ生還した冒険者はいない。街に徘徊する人型の何かは一体一体の強さは大したことはないのにだ。


 それにこのエンヴィー卿の館は目立つので、数日間探索を続ければおそらく辿り着くことも出来るはずである。


 だが、エンヴィー卿は生存者はこの館にいる者だこと言って今まで訪れたであろう者達について何も触れなかった。


 そして、もしエンヴィー卿が裏で暗躍しているならば何故自分達を放置しているのだろうか。


 考えれば考えるほど、疑問が増えてきて重苦しい空気になっていく。



「ふ〜……」



 声がした方を三人が見ると、拓海が絨毯が敷かれた床に手をついて天井を見上げていた。



「ま、今考え過ぎても分からんことは分からないし、とりあえず何か食べないか?」



 その一言にアイリスとノアが一瞬虚をつかれたような顔をした後、小さく笑った。



「にゃ! ご飯とかは自分達で何とかするって言ったし、ご飯作って拓海!」


「ふふっ、私も手伝いますよー!」


「お、俺も久々に一品何か作ってやろう。腕がなるな」



 四人はさっきまでの空気とはうって変わって笑い合う。


 こんなことが出来るのもお互いの実力を認め合って、いざとなれば何が相手であろうと何とかする自信があるからだろう。


 そうして、四人はその日雑談交えながらこれからの指針について語り合うのだった。

 

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