8-20 エンヴィー卿3
拓海達四人は執事のカイルの後ろをついて、エンヴィー卿がいるという部屋に向かって館を歩いていた。
館は外観と同様に汚れ一つない真っ白な壁、天井、床が続いていて一同はそこに敷かれた真っ赤なカーペットの上を歩いている。
一番後ろを歩く拓海はふと振り返ると、どこまでも続いていそうに見える真っ白な空間が広がっていて、物の影でようやくそこに何かがある事が分かる。
そのあまりに異質な空間に、拓海は思わずカイルに尋ねた。
「あの、カイルさん」
「はい、どうかなされましたか?」
「あの、何でこの建物はこんなに白く作られているのでしょうか?」
「そうですね……」
「「「「…………」」」」
「昔からのようですし、私には分かりませんね」
カイルはそう微笑を浮かべて答えたが、四人はカイルの瞳が一瞬虚ろになった事に気づいた。
そして、ノアだけはその現象を見たことがあり、カイルが何らかの魔法により行動に制限がかかっていることに気付けた。
しかし、カイルは特にこちらに敵意を向けた様子が全く見られないため、ノアは手信号で三人に手を出さないようサインをして、そのままエンヴィー卿がいるという四階に向かっていくのだった。
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「こちらです」
明らかに雰囲気が違う、莫大な魔力を纏った一際大きな古びた木の両開きの扉。
(何だこの扉……)
扉の前に辿り着いたが、その扉の奥に誰一人の気配が感じられないのだ。
四人共表情には出さなかったが、不信に思っているとカイルが何も言うことなく軽く扉を二回ノックした。
すると、しばらくして古びた両開きの扉が内側にゆっくりと開いていく。
カイルを先頭に、四人が部屋に入ると扉が音を立ててゆっくりと閉じた。
部屋の中には赤茶の後ろに流した髪と髭が特徴的な一人の凛々しい顔つきの男性が、真っ黒な綺麗な机の後ろの椅子に座っている。
その傍らには巨大な大剣と腰に長剣を持つ紅のマントを着けた白銀の鎧を纏った騎士がただずんでいた。
「初めまして。私がエンヴィー家の主、エンヴィー=ストラーフだ。よく来てくれたな」
意外にもエンヴィー卿がほとんど魔力を持っていないことを四人は驚きながらも、流石大貴族の側近である騎士というべきか、その騎士からは膨大な魔力と覇気を感じられた。
そんなことを思いながらも、真剣な表情のエンヴィー卿にノアは一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。
「初めまして、私はノアという者です。私達は拠点の街を特にもたず旅する冒険者でして、私がこのパーティーのリーダーを務めさせていただいております」
ノアに挨拶されたエンヴィー卿は紅い目で四人の姿をじっくりと見渡して一つ頷き、ノアに目を向けた。
「ふむ……。それじゃあ、お互いの情報交換でも始めようか」
それから情報交換が始まるが、その場にいた誰一人気付けなかった。
この場にいないのに、会話を聞く者が一人いたことに。
今年最後の更新となります。来年も『異世界に導かれし者』をよろしくお願いします!
来年中に完結できるといいな……




